19.それぞれの策略
アンセルムが戻るとエメリの表情が明るくなった。その様子にスヴェンは安堵したが、アンセルムの笑顔はより一層真相が読めないものと感じた。
「父上、第二騎士団からは誰を出場させるのですか?」
「ああ。これだ」
そしてアンセルムが控えている一覧をスヴェンは受け取った。
「!?なぜこのような人選に…?」
「一度で決着をつけるためだ」
「決着、ですか…。これまでに不穏を感じてはいましたが動きがあるということですね。では、ここが勝負どころということでしょうか?」
「そういうことだ。…お前は何か考えてるか?」
「この人選ということは、舞台は領地に?」
「その可能性が高いが、あちらは整えてきた。領民はヘドルンド領に移す手筈をとっている。ヘドルンドにはカールが信頼の置けるものを配置している。オークランスにはあいつを待機させることにしているし、こちらも信頼の置けるものを配置しているから問題ない。そして、この者たちをこちらに引っ張り出す」
「こちらも舞台に?」
「一度で終わらせるためだ。とはいえ、お前のやるべきことは剣術大会を優勝することだ。何があっても外野が騒がしかろうが試合だけは止めるな。気取られていることに気づかせずに終わらせるんだ」
「はい」
そこへエメリが口を挟んだ。
「ねぇ。さっきから物騒な話をしているように思うのだけれど、何か起こるの?」
「ああ。でも心配いらないよ、エメリ。君に危険が及ぶことはない。安全なところからスヴェンの勇姿を見届けてくれ」
「そうなの?私、足手まといにだけはなりたくないわ」
「エメリ」「母上」
二人はエメリが危険に対して不安や恐怖を感じているのではなく、自分達の迷惑になりたくないと心配していることに感心した。そしてこれは自分達への信頼の証なのだとも感じた。
◇◇◇
一方その頃、カールグレーン侯爵邸でも着々と準備が進められていた。
「まさか、お前からこんな提案がなされるとは思わなかったな、ルーカスよ」
「私をアリシア様の王配に置く気がないのでしたら他の者を紹介差し上げればよろしいだけでしたのに」
「だからといってあいつの息子だけは気に食わん。私よりも上に上がるなどもっての他だ」
「その変な意地が事態の停滞を招いていたのですよ」
「…」
「逆手に取るのです。王家に成り代わるおつもりなのでしたら厄介なものは一度で潰してしまえば良いではないですか」
「剣術大会などよく閃いたな。そもそも、縁談を勧めることで王都に呼び寄せるとは。この2年でオークランスの戦力を削ることが出来た。あとは確保した戦力を用いて仕掛けるのみよ。剣術大会に集めたのはこちらの派閥の者、こやつらに大会を長引かせてもらう。そして第三騎士団と市民に紛れている者をオークランスに向かわせる。隣国から刺客を攻め込ませオークランスの崩壊へと導き、知らせを受けたら敵国を鎮圧させる。国の砦を崩壊させた責任を女王に取らせ王家を失脚させるんだ。鎮圧に貢献、指揮した我らカールグレーンが政権を担えばよい」
「リースベット嬢はどうするのです?」
「王族の血はいらん。女しか産まない女など不要だ。もちろん始末すればよい」
「婚約者をそのような形で失うのは心証が良くないのでは?いかにもカールグレーンが仕掛けてるようにしか…」
「それもそうか。まあ、リースベットについては民意に問わせればよい」
「はい」
「ルーカス、お前はとにかく剣術大会を優勝するんだ。最も強くあってこそ周囲も納得するというものよ」
「かしこまりました」
部屋を退出するとルーカスはボソリと呟いた。
「うまく行けばですけどね…」
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