13.束の間の逢瀬2
この夜はスヴェンとエメリの二人きりの夕食となった。アリシアは執務に追われ共にすることができなかったのだ。
「アンセルムもいませんし、寂しいですわね」
「母上は父上がいないから寂しいのでしょう?」
「…なによ。スヴェンだって神妙な面つきをしているわよ?」
先ほどの推察では何の結論も出せなかった。それもあるがエメリの言うとおりアリシアが不在であることも少なからず関係していた。
(時間が合えば交流をと仰っていた。合う時間がなければこのまま会わずに結論を出すことになる可能性もあるということか)
妙に頭を使ったスヴェンは眠れずにいた。こんな日は空を見るに限ると外へと出た。すると邸の方から名前を呼ばれた。
「スヴェン?」
声がした方を見上げると、部屋のバルコニーに出ているアリシアがいた。
「アリシア様…」
「こんな時間にどうなさったの?」
「ちょっと、空を眺めようかと…」
「それでしたら私もご一緒してもよろしいかしら?」
「はい、是非」
とっておきの場所があると王宮の中でも空を近く感じる場所へと案内してもらうことになった。
「素敵な場所ですね。星空が美しいです」
「影になるものがないでしょう?夜空を見上げるならここが一番ですわ」
二人は並んで立つと満天の星を眺めた。
月光に照らされたアリシアの横顔は神秘的でスヴェンはいつの間にか見惚れていた。
「スヴェン?何かありましたか?」
日中エメリにも問われたように、アリシアにも問われてしまった。女性の顔を凝視してしまうのはあまり良いことではないだろう。
「すみません、月明かりに照らされてあまりにも貴女がお美しかったからつい…」
アリシアは目を見開いて驚いていたが、すぐに言葉が返ってきた。
「それを言うなら貴方もです、スヴェン。初めてお会いした時に貴方の美しさは月のようだと思いました」
「私が月ですか?」
「柔らかく優しく輝く様子が似ていると、そしてそんな貴方を私は好ましく思いました」
アリシアからの素直な好意にスヴェンは胸の高鳴りを感じた。
そこにブワッと風が吹いた。昼間は暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ肌寒い。熱を帯びた身体を冷ますには心地よかった。
「寒くないですか?お部屋へ戻られますか?」
「私は大丈夫です。スヴェンがよろしければ、もう少しご一緒してもよろしいかしら?」
「はい」
「そういえば天文学もお好きでしたわよね?この知識はどのようにお役立てに?」
質問の回答に何を選ぼうかと考え、呼び起こした知識を披露した。
「あちらに輝く星がわかりますか?」
スヴェンはアリシアの背後に周り、視線の高さが合うように屈むと、顔を横に近づけ1つの星を指差した。アリシアは指されている星を探り見つけた。
「あの明るく輝く星かしら?」
「はい。他の星は時が経過すると共に位置が変化するのですが、あの星だけは位置が変わらないのです。その為、方位を確認するのに使います。どんなに迷ってしまったとしても、あの星を覚えておけば目的地にたどり着くことが出来ます」
「では、それは戦場に立つことを見据えた第二騎士にとって有益な知識ですわね」
アリシアが首を動かし星からスヴェンに視線を移した。その動きに反応してスヴェンもアリシアに顔を向けると二人の距離の思いの外の近さに驚きと照れが込み上げた。
「し、失礼しました!」
「い、いえ」
二人は顔を反らすとまた星空へと目を向けた。
「あちらの赤い星は特別な星なのかしら?」
「ああ、あちらは・・・・・」
スヴェンは丁寧に星の名前や星座について説いた。それをアリシアは目を輝かせて頷き聞いている。アリシアの探求心も尽きることはなく、スヴェンは聞かれたことに丁寧に答えた。
(愛らしかった…)
部屋に戻ると眠くなることなどなく、むしろ冴えてしまったと自責の念が生じたが、アリシアの新しい一面に触れることが出来、有意義な時間となったことは間違いなかった。
専門的な話にも傾聴し自分を敬う心すら垣間見得る様子に、女王という絶対的な地位に座る女性のイメージとは異なりさらに好感を持った。
(なぜ俺なのだろうか…。これまでに婚約者候補はいなかったのだろうか。俺は嫡男であるが候補に挙げられた。ならば同じようにルーカスも候補に挙がっていてもおかしくないはずでは?)
また頭を悩ますことになり、この日は結局眠りにつくことが出来なかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。




