12.オークランスの事情
「どうしましたの?スヴェン。私の顔に何か?」
「あ、いえ。心なしか表情が暗いように思えまして。陛下も心配されてましたよ」
スヴェンはつい話題に上がった母の顔を見つめてしまった。実際少し元気がないように思えた。
「あら、そうでしたの。…実はちょっと胸騒ぎがしましたの」
「胸騒ぎですか?」
「ええ。アンセルムがここを出る時に私の左手を手に取ったのです。口付けこそありませんでしたけど、まるで騎士の誓いのようで…」
「母上…」
そんなやりとりがあったとは知らなかったスヴェンはこれまでを振り返った。
王配殿下が亡くなって以降、オークランスに政治的な交流がなくなった。それに付随するかのようにアンセルムが危惧していたことがあった。士官学校卒業後に騎士を志願する有望な実力者たちが減ったということだった。家督を継いだり、新たな職を探すものも現れた。そして騎士団の中では前線を担う第二騎士団の人気が減っている。これまでは高給である第二騎士団が一番人気であったが、この数年は減少傾向にある。高給である理由は危険手当のためだが、危険に身を置いても良いという者が減ったということなのか。人事の流れが変わってきている。しかし今回スヴェンが近衛騎士団を視察して感じたのは、近衛騎士団の実力もそこまでではないということだ。
(正直なところ私の敵ではない。では、優秀な実力者の進路はどこなのだろうか…)
今回の王都訪問は王政から隔離状況にあるオークランス領にとって国内状況を知り得る大きな機会でもあった。もしかしたらアンセルムは何かを得て、対策に当たっている可能性も考えられる。そしてそれには危険が伴うかもしれないということだ。エメリの言うように誓いを立てようとしたのではないだろうか。
(何か意味があるはずだ…)
「スヴェン?」
考え込んでいたスヴェンにエメリは呼び掛ける。スヴェンは母の不安を取り除く為にその場を取り繕った。
「父上は王都への遠出に母上を同道させるほどに過保護ですから、良く知る領地ではなく王都に母上を残していくことが気がかりだったのでは?母上は陛下との観劇のお約束がありましたし、共に連れ帰る訳にはいきませんでしたしね。離れるのが名残惜しかったのではないですか?」
「過保護って、やだわスヴェンったら。そうね。そういうことにしておきましょう」
笑みが戻ったエメリの様子に安堵するとスヴェンは再度熟考した。
そもそも父と自分が王都に呼ばれたのは女王陛下の婚約者候補として自分が挙がったからだ。では候補者に指名したのは誰か。それは現宰相のルーカスである。前宰相アーロンは王配不在のこの2年代理業務を怠っていた。アーロンはオークランスと距離を取っていたのに対しルーカスはというとオークランスの者を王配という近い位置にと指名した。個人の意見か、それともカールグレーンとしての意図か。ルーカスがスヴェンをアリシアの伴侶として相応しいと判断したのはそれぞれを良く知るが故か。
(うーん、見方を変えよう。俺が王配となることは誰かの益になるか?)
スヴェンは今後起こり得る事態を想定していくのであった。
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