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11.束の間の逢瀬

スヴェンについてエメリから少し聞くことができたアリシアは、親睦を深めるため彼を庭園に誘った。この日は天気が良かったこともあり、昼食を外で食べることにしたのだ。


「オークランス卿はこのように外でお食事をされたことはありますか?」


「はい。このように上品にではありませんが野外食は経験しております」


ピクニックはしていないがキャンプはしたことがある。戦地に行くことを想定した訓練の一貫だ。


「陛下はこのようなことはよくされるのですか?」


「気分転換に時々します。外出する公務がない限りは王宮内に籠っておりますから、広い敷地を有意義に使っておりますよ」


アリシアは柔らかい笑みを浮かべた。この日は会話が弾んでいるように思えたからだ。アリシアはあえてテーブルと椅子を用意しなかった。敷物を広げて直接腰を下ろした。やや横の位置に並んで座ることが出来、距離が近い。これが心の距離にも現れたのだろうか。


「あの、オークランス卿。今、貴方は私の婚約者候補となっております。それにルーカスやエリアスと同期生ということは私とも同い年かと思います。親しみを込めて、お名前でお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「はい」


「では、スヴェン。私のことも名前で呼んでくださいますか?」


「…はい、アリシア様」


彼の低く響く声で呼ばれた名前は、心の奥で優しくこだまし、アリシアはにやけそうになる顔を懸命に隠した。


(勇気を出して提案して良かった///)


「スヴェン、以前趣味を伺った際には思い浮かばなかったようでしたが、エメリ様から空を眺めるのがお好きなようだと伺いました。興味をお持ちなのですか?」


「はい。確かに好きですが、母が言っていたのですか?」


「ええ。気象や天文学の書籍を読んでいるようだと。またその知識を戦略に生かしているようだとも」


「そんなことまで?」


スヴェンは驚いている様子だった。


「はい。空を眺めるのがお好きだと聞いていたものですから、本日は外でお話をしようと思ったのです」


そしてアリシアはにっこりと微笑んだ。


「ご配慮いただき、ありがとうございます。そうですね、この広い空を見ていると自分の苦しみなど小さいことだと悩みを解消することが出来るのです」


「苦しみですか?」


「あ、いや、はい、そうですね」


「悩みをお持ちだったのですか?」


「…、贅沢なものだと思います。私は跡継ぎとして敷かれているレールから外れることがないよう生きていくことが普通で、自分の意思など不要であることに息苦しさを感じていました。でもそれは貴族の、それも騎士団の将軍を父に持つ辺境伯嫡男の責務でありますから、不自由なく裕福に暮らせている恩恵を十分に得ている私は当然の事と受け入れなければいけませんからね。贅沢な悩みでした。空を見上げればそんな私を寛容に包み込んでくれるような感覚を得られ、心を落ち着かせることができたのです」


その悩みにはアリシアも共感しかない。私的なことを犠牲にして公人として務める。だからこそ清く正しく真っ当に生きることを心がけているのだ。己の初恋は捨てた。私情は挟まず権力を振りかざさず国益のための決断をしてきた。この信条を持つスヴェンのことを同士として思えた。


「そうでしたか。中には立場に傲り不当に生きる者もいるでしょう。しかし生まれ持った環境を真摯に受け入れその責務を全うする貴方の考えは素晴らしいと思います。…これまでに何かを犠牲にしたことがおありなのですか?」


「…いえ、これまで何かを切り捨てたことも失ったこともございません。…堅苦しいお話しで申し訳ありません」


「いえ、私も踏み込んでお話ししてしまってごめんなさい。スヴェンの真面目な人柄が感じられる素敵なお話しでしたわ」


アリシアはにこりと微笑むと目の前の美しいスヴェンの瞳を見つめた。するとスヴェンの瞳は優しく細められ口角も上がったように思えた。


(微笑まれてる!?)


空気が急に温かくなり、さらには甘い香りが漂った気がした。自分の胸の高鳴りを気付かれぬようにアリシアは続きを促した。


「ところで、気象や天文学の知識はどのように活かすのですか?」


「空を見上げ雲の流れや空気の湿り具合などから先の天候を予測します。どの場所にどのように人員を配置するか、いつ動くのかなど戦略を練るのです。晴れと雨では戦い方は全く異なりますから。それに天文学は・・・・」


難しい話を身振り手振りを交え揚々と話す様は、習得した知識を自慢気に披露する幼い子供のようだった。ごく普通の令嬢であれば飽きてしまうような内容だったかもしれないが、アリシアは関心を持ち丁寧に聞き入った。


「・・・・・というように、戦場では大いに役立てられるのです。…はっ!申し訳ありません。ベラベラと一方的に語ってしまいました。こんな話面白くはありませんでしたよね?」


「いえ、とても勉強になりました。それにスヴェンの事を知れたようで嬉しく思います」


勤勉であり信条も素晴らしい。武骨であるが美しい見目がそれを柔和させ、女性に不慣れな為に純朴で駆け引きもせず真っ直ぐに向き合うスヴェンをアリシアはさらに好ましく思った。



「ところで、オークランス辺境伯が領地へとお戻りになりましたがエメリ様のご様子はいかがですか?」


「母ですか?少し寂しがっておりますね。父との王都観光を楽しみにしていたようで…」


「それは悪いことをしてしまいましたね。お二人はとても仲がよろしいように思いますがお二人はどのようにして出会いになったのでしょう?」


「両親のそのような話はきいたことがありません。私はそういった類いにはたいへん疎いので…」


「いえ、スヴェンにお聞きすることではありませんでしたね。とても素敵な関係で夫婦の良い形だと思ったものでしたから」


「それに関しては私も同感です」


またスヴェンが優しく微笑んでるように見えたアリシアは胸の高まりを感じ、顔が緩まないようにするのに精一杯だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


作者のモチベーションに繋がりますので、よろしかったら、評価していただけると嬉しく思います。



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