10.情勢が動き始めた
「剣術大会…。随分と大掛かりな提案でしたね」
クラースは執務を補助しながらアリシアに質問した。
「あなたはどう思った?」
「なぜもう一度近衛の視察という形をとらなかったのでしょう?その時にオークランス卿に手合わせを披露していただければ良いのでは?」
「そうね。私もそう思うわ。ただ、近衛騎士団相手に実力を測れるかといったらもしかしたらそれでは収まらないのかもしれないわね。先日のオークランス辺境伯はまるで子供を相手にしているようでしたもの。クラース、調べは終わりましたか?」
「はい、大方は。オークランス卿は大変優秀な方ですね。肩書きから実力までこれならば王配として問題は何一つとしてないかと。あの見目でいらっしゃいますから必要に迫られるまで辺境伯夫妻はオークランス卿を公にしてこなかったようです。所謂箱入り息子です。それとオークランスとの交友関係にある家門は中立派がほとんどでした」
「良かった…。彼は人物としては問題ないということね」
「ええ、想いに蓋をせずに済むかと思いますよ」
「!?あなたまで何を言うの」
アリシアがクラースに目を向けると、クラースはニヤニヤと笑っている。そんなに自分はわかりやすいのかと顔に感情が出るなど女王として問題だと反省した。
「しかし、それほどまでの人物をなぜカールグレーン侯爵は隠していらっしゃったのかしら?」
「それは単純にオークランス辺境伯と不仲だからでは?」
「そうですけど…。もう1つの調べはいかが?」
「はい。まだ経過中ですがこちらのリストをご覧いただけますか?・・・・」
クラースからの報告を受けアリシアは気を引き締めた。
「そう。やはり警戒を強めましょう。隣国が動き出しては困ります。オークランス辺境伯を呼んでください」
「失礼します」
アンセルムが入室するとソファに腰掛けるよう指示した。
「オークランス辺境伯、少しお耳に入れたいお話がございます」
何事かとアンセルムは構えた。
「情勢が動きます。もしかしたらあなた方をお呼びした事が起点になっているかもしれません」
しかしこの言葉にそこまで驚く様子もなくアンセルムは答えた。
「いえ、恐らくその前からではないですか?薄々はこちらでも把握しております。逆にお呼びいただいて良かったかもしれません。エメリとスヴェンは置いていきます。私は1度領地に戻ります。剣術大会の準備が整い次第こちらに戻ります」
アンセルムは情勢の動きを推測し先を読んでいたようだ。アリシアは感心すると共に安堵した。
「このタイミングであなたと接点を持てたこと嬉しく思います」
話を終えるとアンセルムはアリシアの前に跪き右手を取って口付けた。
(オークランス辺境伯!?)
「私は貴女の駒です。どうぞお役立てください」
それは女王への誓いであった。
(なんてお人なの!)
「アンセルム・オークランス。貴方の忠誠、しかと受け取りました」
こうして、アンセルムは王城を後にした。
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