トントンとピコと暖かスープ
トントンはクシャミをしました。
背筋も少し寒く、わずかにボーッとします。
ピコは心配そうにのぞきこみます。
「トントン、だいじょうぶ?」
トントンは小さくうなずきました。
「ちょっとカゼっぽい。でも平気だよ」
ピコはくちばしをきゅっと結びました。
「じゃあ、オイラが “あったかスープ” を作る! トントンは休んでて!」
トントンは苦笑い。
「気持ちはうれしいけど、ピコ料理できないでしょ。材料もぜんぜんないし」
ピコは胸を張りました。
「材料はクシャミの丘に行けば、ねぎも野菜も落ちてるってカエルの隊長が言ってた!」
トントンは少し考えて、立ち上がりました。
「一人じゃ危ないから、僕も行くよ。そしていっしょに作ろう」
ふたりは川沿いの小道を歩き、森の向こうの “クシャミの丘” へ向かいました。
クシャミの丘は、花粉みたいな白い粉がふわふわ舞う、ちょっと変わった場所。
風が吹くたびに木の実がポンッと落ちて、通りかかった誰かが「へっくしょん!」。
森の住人には“笑えるふしぎスポット”として知られています。
丘につくと、ほんのり甘い匂い。
足元には小さなにんじん、木陰には丸いじゃがいも、
そして、背の低い草むらには、つやつやのねぎ。
ピコは目を輝かせました。
「見て見て! スープの材料がいっぱい!」
トントンはハンカチで鼻をおさえながら、ゆっくり言いました。
「粉が舞うから、深呼吸はほどほどにね」
ピコは元気よくうなずいて、ねぎを引っこ抜きます。
スポン!
その勢いで、白い粉がふわり。
「……へっくしょん!!」
「ひゃあっ! ごめん!」
ふたりは顔を見合わせ、くすっと笑いました。
そのあとも、じゃがいもを拾おうと屈めば粉がふわり、
にんじんを洗おうと葉を振れば粉がふわり。
クシャミをこらえて、笑いをこらえて、なんとか袋いっぱいに材料を集めました。
家に戻ると、トントンは鍋を出して火をつけました。
ピコは川でじゃがいもをゴシゴシ、にんじんの皮をシャッシャッ、ねぎはトントンがていねいに刻みます。
コトコト……コトコト……。
鍋のなかで野菜が踊って、湯気がやさしく立ちのぼりました。
ピコはわくわくが止まりません。
「いいにおい! もうできる?」
トントンは味見をしようと、お玉を持って湯気に顔を近づけました。
その瞬間――
「へっくしょん!!!」
鍋がボコッと跳ねて、湯気の泡がぽんぽん空へ。
ピコは羽をばたばたさせながら、目をまんまるにしました。
「うわぁぁ! スープがクシャミしたー!!」
「ちがうちがう! クシャミしたのは僕だよ!」
「……スープじゃなかったの?」
「そんなスープ、怖すぎるでしょ!」
ふたりは思わず吹き出して、笑いながらまた火加減を整えます。
やがて、とろりとしたスープができあがりました。
じゃがいもはほくほく、にんじんは甘く、ねぎは香り高い。
器に注ぐと、湯気がほっぺをくすぐります。
ピコはひとくち飲んで、目を細めました。
「……あったかい」
トントンもそっと味わいます。
「うん。胸の奥まで、ぽかぽかする」
ピコは照れくさそうに笑いました。
「クシャミの丘で、いっぱい笑ったからかな」
トントンはうなずいて、にっこり。
「それと、ピコの “なおしてあげたい” って気持ちの味だね」
「もう、そういうこと言うとクシャミじゃなくて、泣いちゃうぞ」
ふたりは顔を見合わせて、またくすくす笑いました。
その日の夕方。
カエルの隊長が「スープのにおいがするぞ!」と顔を出し、
リスは手を温めに、キツネはパンを持って、森のみんながひょっこり集まりました。
トントンは慌てて鍋をもうひとつ出し、ピコは器を並べます。
すぐに「あったかい」「おいしい」の声が広がりました。
トントンは鼻をすんっと鳴らして、こっそり笑いました。
「朝より、ずっと元気になったよ」
ピコは胸を張って言いました。
「よーし、こんどは “クシャミの出ないスープ” も研究だ!」
「まずは、材料を “クシャミの丘以外” で集めるところから、かな」
笑い声がスープの湯気に乗って家じゅうへ、夕空へ、ゆっくりと広がっていきました。




