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第一話 まだ薄暗い雨の底

その日は、外で大雨が降っていた。

午前五時の小鳥たちは、雨に打たれることに疲れたのか、どこか遠くへ飛び立っていた。


親友のいた場所には、冷たい暖かさが広がっていた。


死骸を見るのは初めてではないが、それは別格に気持ち悪かった。

両手に残った感触を握りつぶしたいと思うほどに。



―なぜなら俺は、親友の父親を殺したのだから。



助けを求めていた親友を、また見殺しにする訳には行かなかった。


仕方がない。


そう、仕方がなかったんだ。


そしてふと、それの横で震える親友を見た。


「誠、大丈夫だった?」


「うん...それより、これ.......」


彼の黒い宝石のような瞳に、静かに死骸が映った。


「大丈夫だよ、きっと二人なら、見つかりやしないさ」


早く、自分のことだけを見て欲しかった。


「逃げよう」


目の前に差し伸べられた手を、彼は待ち望んでいたかのように強く握った。


「うんっ!」



それからは、傘をさして二人で駅へ向かった。

思い残すことはないと分かっていても、それを急かした正体は何かわからない。


駅の構内はまだ薄暗く、始発前の冷たい空気が肌を刺した。

スニーカーの底にこびりついた泥が、コンクリートに静かな足音を残す。


ホームに出ると、誠が小さくくしゃみをした。


「....ごめん、ちゃんとした服も持たせてやれなかった」


自分の上着を脱いで、誠の肩にかけた。

誠は少し驚いた顔をしたけれど、すぐに微笑んで「ありがと」と言った。


電車が遠くから、静かな金属音を引きずりながら近づいてくる。

始発の無人列車。

どこに行くのかは、もう決まっていた。ひとつしかない。

薄暗いホームに、二つの光が差した。

この光の中に飛び込めたのなら、そんなことを考える。



車内には誰もいなかった。

雨に濡れた窓ガラスに、二人分の姿がぼんやり映る。

誠は陽太の隣に腰を下ろし、座席の端で足をぶらつかせた。


「...どこまで行くの?」


「二人だけになれる場所」


「うん、それってなんかいいな」


ガタン、と電車が揺れる。

誠の身体が少し傾いて、俺の肩に寄りかかる。

感じたぬくもりが、今はまだだ、と囁いていた。


だが、そんな思考は誠の声にかき消された。


「陽太、ありがとう。助けてくれて」


「……違う。助けたんじゃない、奪い返したんだ」


その言葉に、誠は顔を歪めた。

車窓の外、雨に濡れた街が少しずつ遠ざかっていた。

誰もいない電車の中、世界は二人きりだった。


肩を寄せ合いながら、徐々に意識を闇に沈めていった。


窓に映らなかった影は、気付かないふりをして。

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