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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トイレとお別れした私の物語

作者: 062

1ヶ月前

「チカ、こっち向いて!今、ショート動画撮るから!」


咲ちゃんの明るい声が、いつもの放課後の教室に響く。スマホを構えた彼女の笑顔は、いつものように輝いていた。私は、少しだけトイレに行きたい気持ちを押し殺し、曖昧な笑みを浮かべて頷いた。まさか、この時の小さな我慢が、後にあんな事態を引き起こすなんて、想像もしていなかった。


「もう、ちゃんとカメラに映るようにしてよね!」


咲ちゃんが笑いながら言う。その時、私の膀胱は限界に近づいていた。でも、動画撮影中にトイレなんて、恥ずかしくて言い出せなかった。もし、ここでトイレに行きたいと言ったら、咲ちゃんはどんな顔をするだろう。迷惑そうな顔、それとも呆れた顔?想像するだけで、顔が赤くなった。


「せーの!」


咲ちゃんの掛け声で、音楽が流れ出す。私は、焦りながらもダンスを踊り始めた。頭の中は、早くトイレに行きたいという気持ちでいっぱいだった。ダンスの振り付けも、咲ちゃんの笑顔も、全てが遠く感じた。早く終わってほしい、早くこの場から逃げ出したい。そんな気持ちでいっぱいだった。

動画を撮り終えた後、私の顔は強張り、心臓はドキドキと早鐘のように鳴り響いていた。トイレに行くタイミングを完全に逃してしまった。でも、今更、トイレに行きたいなんて言えるわけがない。私は、なんとか平静を装い、笑顔を作った。


「ちょっとお腹痛いから、行ってくるね」


そう言って、私は逃げるようにトイレへ駆け込んだ。個室に駆け込み、安堵のため息をついた時、張り詰めていた何かがプツリと切れたように感じた。最近、トイレが近くなってきた。でも、それを誰にも言えなかった。こんな事で悩んでいるなんて、恥ずかしくて誰にも言えなかった。



3週前

トイレに行く回数が増えてきたのは、気のせいではなかった。授業が終わるたびに、トイレに駆け込むようになった。咲ちゃんは、何度も私をからかうように「また?」と聞いてきた。その度に、私の顔は赤くなり、心臓はドキドキと早鐘のように鳴り響いた。

ある日、ついに私はトイレでほんの少しだけショーツを濡らしてしまった。その瞬間、目の前が真っ暗になった。どうしよう、どうしよう、どうしよう。頭の中は、その言葉で埋め尽くされた。誰にもバレないように、なんとかその日を乗り切ったけれど、恥ずかしさと不安で、夜も眠れなかった。

翌朝、寝ている間におねしょをしてしまったことに気づいた。幸い家族には気づかれなかったけれど、布団の湿り気に気づいた時、全身から血の気が引いていくのを感じた。こんなこと、生まれて初めてだった。恥ずかしくて、情けなくて、誰にも言えなかった。



2週前

とうとうママから言われた。


「チカ、最近トイレが近すぎない?」


その一言に、私は凍りついた。心臓が止まったかのように感じた。当たり前だ。一緒に生活しているんだから、気づかないはずがない。湿って色の変わったショーツも見ているはずだ。


「大丈夫だよ、気にしすぎだよ」


やっとの思いで、そう答えたけれど、内心ではどこか不安が募っていた。ママの言葉は、私の心の奥底に突き刺さり、罪悪感と羞恥心を増幅させた。

その後、私はナプキンを使うことにした。ショーツが濡れてしまうことを防ぐために。でも、それはただの誤魔化しだと、自分が一番よくわかっていた。最初はなんとか誤魔化せていたけれど、ナプキンだって限界がある。何度かショーツに漏れてしまった。その度に、私は一人で泣いた。誰にも言えない、誰にも相談できない、そんな孤独感が私を押しつぶした。

さらに翌朝、とうとうおねしょがママに見つかってしまった。


「これ、どうしたの?」


ママの問いかけに、私の顔は茹で上がったように真っ赤になった。恥ずかしくて、情けなくて、何も言えなかった。何とかテスト勉強のせいにしてごまかすことができたけれど、その後の夜、ママから「おむつを使うことを考えた方がいいかもね」と言われた時、私の心は完全に壊れてしまった。



先週

日曜日の朝、おねしょをしてしまった。しかも、天気が悪くて布団が乾かせない。今日は来客用に準備してあった布団で寝ることになった。


「今日だけでいいからおむつを使ってくれない?この布団まで汚されたら、もう布団がないのよ」


ママが頼むように言った。私は、抵抗する気力もなく。


「今夜だけだからね」


と答えた。


翌日、見事におむつのお世話になった。自分が小さな子になったみたいで、恥ずかしくて、情けなくて、涙が止まらなかった。ママが確認する前に、急いで脱いで新しいおむつを身につけ、なんとか誤魔化した。


昼間も休み時間ごとにナプキンを交換して、なんとか凌いだ。それでも、ショーツが汚れている事が多くなった。


「休み時間のほとんどをトイレで過ごしてるじゃん」


偶然、手洗い場であった咲ちゃんに言われた。けれど、この頃は授業中に2回も出ちゃう事があって、夜用のナプキンを使っても不安でたまらなかった。


昨日

ナプキンがなくなったのに気がついたのは、その日の昼休みだった。咲ちゃんに予備を持っていないか聞いたけど、あいにく持っていなかった。他の子にも聞こうとしたけれど、無情にも5時間目のチャイムが鳴った。

もう私には、1時間の授業を無事に終わらせる自信なんてなかった。唯一の希望は、授業の中盤で1度先生に言ってトイレに行く事。そうすれば、多少ショーツを濡らしても最悪の事態は避けられるだろうと思った。

授業が始まって15分。すでに限界近かった。手を挙げて許可をもらい、トイレに駆け込んだ。少しショーツは濡らしてしまったが、何とかなった気がしていた。これで大丈夫だと思い、教室に戻った。


それでも私の身体は、私が思う以上に壊れていたんだ。


授業時間が後10分程という時だった。さっき濡れたショーツが気持ち悪いと思いながら、黒板をノートに書き写してた。そこで教室がザワザワし始めた。後ろの席の子が私の背中をツンツンする。何かと思って振り返ると、指が下を指している。そこで私の足元を見ると、私を中心に水たまりができている。

咲ちゃんが私を見て言った。


「もう、おむつにしたら?」


その言葉に、私は胸が痛くて泣いてしまった。咲ちゃんの目がどこか冷たく感じて、私はただ泣くことしかできなかった。こんな自分が恥ずかしくて、情けなくて、どうしていいかわからなかった。


その後はあまり覚えていない。気がついたら保健室にいて、ママが迎えに来てくれた。私たちはそのまま病院に行く事になった。


病院で

ママと一緒に病院へ行った。診断結果は過活動膀胱だった。悪化がひどくて治療には時間がかかると説明された。私は心の中で納得しきれない自分を感じた。この病気がこんなに深刻なものだとは思わなかった。

帰りの車内でも私はトイレが我慢できずに着替えた体操服のジャージを汚した。


「これからは、昼間もおむつを使って生活していこう」


とママに言われ、私はそれを受け入れるしかなかった。もはや、逆らうことなんてできなかった。



それから

ついにおむつをつけて学校に行くことになった。ママからは、「昼間もおむつを使っていこう」と言われたけれど、心の中ではまだそれに納得できていなかった。これが普通の女の子の生活なんだろうかと、少し迷っていた。

学校では咲ちゃんとは少し距離を取るようにしていた。まだこの前の言葉が私の中で消化できずにいた。それにもし気づかれたらどうしようと、ずっと緊張していたからだ。


でも、幸いにも、誰にも気づかれることなく、1日を過ごせた。でもその夜、ふと鏡の前に立って自分を見たとき、どうしてこんなことになったんだろうと思った。


翌日、咲ちゃんからまたショート動画を撮ろうと言われた。


「ダンスの動画、やっぱりやりたいよね?」


と、無邪気に笑いながら提案された。その時、私は迷ったけれど、どうしても断れなかった。


ダンスの撮影をして、咲ちゃんがその動画をSNSにアップしてしまった。


その時、私は知らなかった。一瞬だが私のスカートの中が見えている事に。それからすぐに、動画は学校中に拡散されていった。


次の日、何も知らずに登校した私に待ち受けていたのは、変な空気の教室だった。みんなが妙によそよそしい。昨日までの経験でお昼休みにおむつを交換すればわかっていたから、少し咲ちゃんと会話でもしようとおもって咲ちゃんの席に近づいた。私が視界に入った瞬間、咲ちゃんが言った。


「チカ、トイレ行かなくていいの?ああ、そうかオムツだから大丈夫か!」


うろたえる私をよそに、教室内は笑いに包まれた。爆笑する人、失笑する人、色々だった。でもこれだけはわかった。


みんな私のスカートの中を知ってる。


その後、SNSで拡散された自分を見た時の絶望を私は忘れない。


* 「え、おむつ?マジ引くわー。キモすぎ。」

* 「動画見たけど、ちょっと…言葉が出ない。」

* 「大丈夫?心配だよ。」

* 「おむつとか、ネタだよね?」

* 「まだ赤ちゃんなんだ(笑)?」

* 「学校来んなよ。汚い。」

* 「晒してくれ!スクショ希望!」

* 「同じクラスとか無理。臭そう。」

* 「まじで消えろ。恥さらし。」

* 「生きている価値ないだろ。」

* 「拡散はやめようよ。かわいそう。」

* 「何か、誤解があるのかも。」

* 「そっとしておいてあげよう。」

* 「気持ちわかるよ。」

* 「無理しないでね。応援してる。」

*

悪意のあるコメントが、私の心を深く傷つけ、自己肯定感を失わせていった。学校にいる間も、家に帰ってからも、スマートフォンを手放すことができず、常にSNSの画面とにらめっこをしていた。


「消えろ」「生きている価値がない」


そんな言葉が、何度も何度もチカの脳裏に焼き付いた。

そして、私はついに決断した。


「もう、ここにいることはできない」


私は、誰にも告げずに学校を辞めることを決意した。



そして、一年後。

SNSでの出来事がきっかけで、私は学校を去る選択をした。


毎日、電車で一時間以上かけてバイトに通いながら、私は自分の人生を再構築しようとしている。

ある日、バイト帰りに公園で転んだ幼女を助けたとき、その幼女が言った一言に、心が砕けた。


「なんで、お姉ちゃんはおむつなの?」


私は逃げるようにその場を離れた。


そう、私はまだおむつを使っている。


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