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異世界帰りのこわいコト

作者: ムタムッタ

異世界帰りのイサミは語る



「これは私が異世界から帰って来たあとの話なんだけどさ……」




 ある日の放課後、2人だけの教室。

 どんよりした雲が夕日を隠す。窓際から空を眺めていたオレに、茶色のポニテ少女のイサミは怪談よろしく、唐突に語り出した。





「……なんて?」

「まぁまぁいいからいいから」


 幼馴染みのイサミは話したがりだ。

 ついさっきまで黙々と数学の問題を解くためペンを走らせていたのに……たぶん集中力が切れたんだろう。分からないから教えて! と言ったのは誰だったか。


「ほら私、異世界に3ヶ月行ってたでしょ?」

「あ〜……え、しばらく学校来なかったのってそういうこと⁈」

「いきなりでさー、ホンッとに焦ったよぉ」


 夏休み明け、イサミは突然学校に来なくなった。クラスのムードメーカー的存在の女子が消えたこと、加えて両親にも何も告げず行方不明となったことで一時話題となったのは記憶に新しい。


「異世界転移ってやつ?」

「そう、かも?」


 なぜ疑問系……


「あー疑ってるぅ! あっちじゃすごーい力持ちで魔法も使えてなんでもできるくらい偉かったんだから!」

「はぁ」


 痕跡すらなく絶望的とされていたが、イサミはひょっこり帰ってきた。何事もなかったように、「ただいまー!」と自宅の扉を開けて。


 確かに「異世界行ってました!」なんて言おうものなら病院へ連れて行かれるだろう。実際身体チェックはあったらしいし。かなり厳しい検査だったそうだが、本人はけろりとしていたそうで。


「やだよね〜、こっちじゃ魔力の要素が薄いから魔法もほとんど使えなくなっちゃったし」

「しらねぇよ……」


 妄想を言うヤツじゃなかった……と思う。

 空白期間があると信ぴょう性が増すのだから安易に疑えない。「最近太っちゃった」くらい世間話レベルで話すから自然すぎる。


「じゃあ何か、あっちの世界で魔王様でも倒したのか?」

「魔王様はいたけど敵対する人じゃなかったなぁ、イケメンだったし! それより、魔王様の言うこと聞かない魔物退治がほとんどだったねー」

「へぇ〜、じゃあ魔王様と素敵な関係にらなかったのかよ」

「さすがに奥さんと子供いるオジさまとくっつけるほどはっちゃけないって!」


 不倫はないわ〜、とイサミは笑う。

 どういう相関図??

 

「でもさー、帰ってきて実感したけどやっぱ家のご飯が1番だよね」

「異世界帰りが庶民的だなぁ」

「普通の女子高生だよ?」


 普通と言っておいて変なことを言う。

 おどけて見せるイサミは、夏休み前と変わらない笑みを浮かべた。


「んでもさ、そのー異世界から帰ってきたって話がホントだとして……」

「あー、やっぱ信じてないじゃん!」

「普通は信じねぇよ」


 半信半疑……いや、2信8疑くらい。

 幼馴染みだとしても、非現実的すぎる。行方不明の間の何かのショックでおかしくなったと考えても不思議ではない。


「腐れ縁が信じてくれないのはショックだぞー?」

「そりゃお前、異世界行ってたなんて……」


 でもイサミって嘘つかないしなぁ、ムキになるとめんどくさいし……かといって適当に合わせるとそれはそれで拗ねるし。


「じゃあ異世界で覚えた魔法を見せてあげよう!」

「さっきできないって言ったやつ」

「1回だけ! ……それでホントに使えなくなると思う」


 なんの変哲もないシャーペンを軽く握ると、ペン先が青白く輝いた。


「そーれっ、とんでけ!」


 イサミはそれを窓の外へ向けて振るう。青白の光は空高く飛翔し、そして──


 鈍色の雲を吹き飛ばし、オレンジ色の空が現れた。


「ぇ……」

「あ〜魔力使っちゃった! ね、ホントでしょ?」


 夕焼け空に照らされたその得意げな顔は、いなくなる前と変わらず眩しいまま。自分が心配していたことが、馬鹿らしくなるくらいに。


 これはもう、信じるしかない。

 ……それはそれとして。


「……んで、異世界帰りのイサミ様が話したかったことってなに?」

「ふぇ? あー……要はさ、授業も勉強も3ヶ月サボってたってことじゃん?」

「そうなるな」

「勉強、わかんねぇ〜って」

「……そんだけ?」

「そんだけ」

「…………今まさに勉強中だろ」


 話の展開すらない雑なオチ。

 よく見ると、さっきまで鈍足ながらノートを走っていたペンは、週末に何をするかの軌跡を描いていた。


「……イサミちゃ〜ん? 放課後つきっきりで勉強見てるオレに言いたいことは?」

「あ、あはは〜マジメニヤリマス……」


 異世界帰りのブランクは、普通の高校生にとって怖い話なのだった。


「すごくありがたいんだけどさ、アンタなんでこの範囲に詳しいの?」

「そりゃお前……」


 いつか帰ってくるだろう。

 そう信じて、イサミがわかるようにノートを取って、復習しておいたのは内緒だ。


 帰ってきたのは意外と早かったけど。


「お得意の魔法で探ってみろよ!」

「うぅ〜できないの分かってていじわる! 鬼! 悪魔!」


 心配してた手前、泣いて出迎えるにも恥ずかしくて仏頂面だったしな。家でホッとして大泣きしたのは絶対言わねぇ。


「ほらほら、そんなことより次の問題を解く!」

「うぅ~」


 異世界帰りの少女の恐怖、オレにとってそれは大切な時間なのだった。


 

 

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