決戦
朝から気合いを入れた。今日は田舎アヴリルとインドの部署に乗り込むんだ。僕はイランじじい。アメリカ、インド、イラン三つ巴。やってやるぜ。オラ日本人だけども。
僕はカワウソちゃんの部署を颯爽とスルーした。カワウソが僕を認め「あー、そっかあ」みたいにうんうん頷いている。いちいちかわいいじゃねえか畜生。僕はそんなはわつきから離れ、世の不条理を正しにイクんだ。カワウソちゃん、ちょっとまっててね。
「あのう、○○○ってここで良いですか?」
丁度田舎アヴリルがしゃがんでいたタイミング。
「あっ、○○○はあっちれす。ハケンしゃんれすかあ?今日はよろしくお願いします(あ、○○はあっちです以下略)」なんだ、頬を赤らめて上目遣い。かわいいじゃねえか。この感じには意地でもはわわしねえけどな。僕は派手な女は嫌いだ。
田舎アヴリルに導かれて鼻垂らしながらついていった先にはなんとメジカちゃんが居た。
アヴリル「あ、今日のハケンしゃあん」
メジカちゃん「あ、よろしくお願いします」
僕「お願いします」
田舎アヴリルの不意打ちに揺らされた心をさらに揺らすメジカちゃん。彼女、一人の時は凄くつまんなそうなのに、喋るとくにゃっと崩れるのだ。
はわ…、いや、僕には元奥さんが居るんだ。意地でもはわつくもんか。彼女を観察してやるんだ。それはけしてはわつきではないんだ。
メジカ。
マルソウダの事だ。
宗田節でおなじみのソウダガツオにはヒラとマルがある。ヒラソウダは鮮度管理の進歩から流通し、その刺身の旨さは知れて来ている。しかし、マルソウダはおもに火を入れて食う魚とされている。しかし、産地である土佐では刺身でも食され、新子の時期には「メジカ祭り」が開催され、刺身がたくさん出されるらしい。イッてみたい。
そんな、知っていれば素晴らしい、しかし概ね誤解を孕んだ扱いをされているメジカ。真なる価値を知る人は少ない。かく言う僕もヒラばかり仕入れてマルソウダは使ってない。ヒスチジンが多いから、ヒスタミン中毒のリスクが高く、だからヒスタミンに変わる前に火を入れる扱いがされてきた。
ともあれ唐突に対峙する事になったメジカちゃん、近くで見ると、そのサイズ感がめっちゃはわつく。かわいい。動いてるだけでかわいい。
しかし、伸びた鼻の下が戻る理由はメジカちゃんの会話時以外の塩過ぎる態度だけではなかった。
そう。メジカちゃんの部署は、あのカワウソちゃんが険しい顔するセクションとすぐ隣だった。
ゴゴゴゴゴ…
背後からただならぬオーラを感じる。メジカちゃんとまるで夫婦みたいに隣合って作業をこなすその背中に、まるで男性がにじりよってくるみたいな圧力を感じる。加えてあの険しい表情。
そのカワウソちゃんの無言の圧を背中に受けながら、それでも僕はメジカちゃんに全集中の呼吸ではわつきポイントを探した。