はじめてのはわわ
はわわという文字列は見た事があった。けれど、自分には縁遠い絵空事みたいに感じていた。
僕にはかわいい彼女が妻となり元妻となり、色々立場は変われどどんどんお互い好きになり、ドロ沼を一蓮托生ドロ航海な筈だった。
人を好きになるのは大変だ。
だから、たった一人で良い。
ヘビーになればなる程彼女の僕への想いが重いのか、思い至る。
僕が死にたくなったとき(今でもだ)彼女は死なずに書けと言った。お陰様で書いて、生きている。穴の開くまで、きみを書いて、きみが離れた。
離れたきみを鼻垂らして見送る僕、なんでだ?こんなもんか?終点まだか?だらだら線路は続く。
きみに見捨てられた。
試し過ぎた。
信じ、過ぎた。
ああもう死んでしまうかもしれないな。責任は果たしたい。女で死ぬなど情けない。無理にでも、動けからだあたま。
その工場へは、何度か行っていた。別に女目当てなわけじゃない。即金が入るスポットバイトアプリ。その工場くらいしか、募集が無かった。
何度かおばあちゃん達に囲まれて役に立つ離婚者になろうとがむばった。そこから見えた景色は、「なんだこの工場、女だらけだぞ」だった。
数回イクと、なんか違う部署の募集に応募した。正直それまでヤッた事がある仕事が良かったけど、贅沢は言えない。部署の場所がわからず案内してもらうと、一匹の白いカワウソちゃんが居た。
「双葉といいます。きょうはよろしくお願いします」
「あ、おにゃがいしまあす(あ、お願いします)」
「はわわ(はい)」
なんだ?この天国は?
「ここに入れてくだしゃい。ドバっと。で、クイッと(ここに入れて下さい。ドバっと。で、クイッと)」 「はわわ(はい)」
「ちょっとここもっててもらっていいでしゅか?」「はわわ」
しゃがんだ彼女がグイと近付いて来る。その度頭を後方に15度逸らしてしまう。
その日は僕は夜の時間帯で、彼女は先に上がったのだが、ひとりひとりに弾ける様な笑顔で挨拶して、僕のとこにも来た。
「おしゃきにしちゅえいしましゅ。おにゃがいしまあしゅ。(お先に失礼します。お願いします)」
「はわわ」
「はわわ」
「はわわ」「はわわ」「はわわ」「はわわ」
(はい)
かわいい!しかし若すぎる。僕はまず20代は無理だ。そこへ男性社員が「あの方、きれいな方で。ここの責任者なんです。小中高とお子さんいらっしゃるみたくて…」
えええ?じゃあ若くて30代後半じゃないか。なるほど、部署の責任者だからみんなにあの笑顔なんだ。帰ってからも大変だろうに、凄いな。僕は彼女に並々ならぬ関心を抱き始めていた。