俺という存在
「ありがとう」
俺は、校門前まで馬車で送ってくれた両親に感謝の言葉を告げる。
「どういたしまして。アルトちゃん、死なないようにがんばってね」
俺の母が、心配そうな顔をしながら俺にそう言う。
「いいかアルト、絶対に死ぬなよ。俺と母さんは例えアルトが不合格になったとしても、お前が生きて帰ってくれれば、それでいいんだからな」
「分かってるよ父さん。それじゃあ、行ってきます」
俺は校門をくぐり、校舎の中に向かった。
◇◇◇◇◇
俺は今日、国立聖魔学園を受験する。
聖魔学園とは、魔法師と騎士を育てるための教育機関の事であり、この国唯一の学校でもある。
「そろそろかな……」
試験の待合室の中で、俺はそう呟いた。
聖魔学園の入学試験は単純。
受験者の中からランダムにペアが選ばれ、そのペアと1対1で戦い、それに勝利すれば合格だ。
「アルト・ヘルンさん、時間です」
試験管の女性教師に名前を呼ばれ、俺は試験会場に向い歩いた。
試験会場である闘技場に着くと、闘技場内にはすでに、一本の剣を背に刺した金髪のイケメンな男が居た。
どうやら、この男が俺の対戦相手らしい。
「なるほど。君が僕の対戦相手かな?」
「一応、そうだと思います」
受験生と言うことは、この男も俺と同年齢なのだろうが、金髪イケメン男が放つそのカリスマ感から、俺は思わず敬語で返してしまう。
「――なら、降参してくれないかな? 君では僕には絶対に勝てないからね」
「まだ……やってみないと分からないですよ」
「やらなくても分かるさ。だって君、貴族家系出身じゃないだろ? 僕は一応上級貴族の家系の長男なんだ」
「……そうですね」
この国では、賢者や大富豪ではなく、より強い固有魔法を持つ者が貴族になるように出来ている。
そして、固有魔法は親から子に何の変化も無く遺伝する。
とどのつまり、強い固有魔法を持つからこそ貴族になることができる訳で、その貴族の息子もまた、親から受け継いだ強い固有魔法を持っていると言う事だ。
「この聖魔学園の入試は、殺しを禁止されていないことぐらいは君も知っているだろう? つまり、君が降参せずに僕と戦うのなら、僕は絶対に君を殺すということだ」
「だから降参しろと?」
「そうだ」
確かに、間違いなく、ただの庶民であるこの俺、アルト・ヘルンでは、逆立ちしようとも目の前のこの男に勝つ事は出来ないだろう。
「――でも、悪いですけど、俺は負ける気がしません」
「そうだった、庶民は頭が悪いのを忘れていた」
目の前の男が俺に向かって剣を構える。
俺も一歩遅れて、先ほど学園に貸してもらった、支給の杖を目の前の男に向けた。
「入学試験、開始」
俺をここまで案内してくれた、女性の試験管が業務的に開始の合図する。
俺は、己の固有魔法を発動させた。
「フレア」
この俺、アルトの固有魔法は、火の玉を生み出し、発射する能力。
直径30センチほどの火の玉が、目の前の金髪イケメン男に向かって発射された。
「その程度の固有魔法で本当に僕に勝てると思っていたとは……滑稽だ」
金髪イケメンは、難なく俺が生み出した火の玉を、持っていた剣を使って切り落としてしまう。
「長引かせるだけ無駄だな。瞬電しゅんでん」
金髪イケメンのその言葉と同時に、俺の頭が宙を飛んだ。
どうやら、俺は今の一瞬の間で、首を切られて殺されてしまったらしい。
「終わりだ」
男の声が、やけに遠く聞こえる。おそらく、時間はもう残されていないのだろう。
この学園の試験で、死人が出るのは当たり前の事。
おそらく、今年の試験でも、貴族家系出身の受験者を含めて、最低100人は死人が出ているだろう。
よって、庶民の俺なんかに蘇生魔法をわざわざ掛けてくれる者など居るはずがない。
父さん……母さん……ごめん。
「言っただろう。君では絶対に勝てないと」
ああ……確かにそうだ。
フレアとかいう、クソ雑魚固有魔法しか使えないのに、勝てるはずなかったんだ。
この日、アルト・ヘルンは負けた。
だが、この勝負――――勝ったのは、金髪イケメン男じゃない。
「っ!!」
金髪イケメン男は、試験会場から帰ろうとする途中、突然床に倒れた。
「なっ……に……が……」
この勝負、勝ったのは金髪イケメン男でも、アルト・ヘルンでもない。
「勝者は……俺だ」
金髪イケメン男――いや、俺・は、床に伏した状態から起き上がる。
「悪いな、金髪イケメン男君。この体使わせてもらうわ――」
◇◇◇◇◇◇
2年前、トラックにはねられた俺は、異世界に転生し、目が覚めるとアルト・ヘルンという15歳の少年になっていた。
異世界で、右も左も分からなかった俺だが、一つだけ分かることがあった。
それは、自分がアルト・ヘルンという人間に転生したのではなく、寄生能力パラサイトスキルという、魔法に転生したと言う事だ。
寄生能力パラサイトスキルは、自我を持つ魔法。
能力は、自分を殺した人間の体を乗っ取るというもの。
俺がこの、聖魔学園の試験を受けに来たのも、元はと言えば、アルト・ヘルンの体を捨て、他の強そうな受験者に乗り移るためだ。
すまない。アルト・ヘルン君。
すまない。金髪イケメンの人。
君たちの命をいただいて、俺は精一杯生きるよ……。




