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「ごめん凪!」
次の日。大学で授業を受けにやってきた私は、いつもの席で1人のんびりしていると、横から土下座をせんばかりの勢いで舞が謝ってきた。
「いや、私こそごめん。やっぱりああゆう場は慣れてないから。案の定、迷惑かけたね」
「いやいや。そもそも私が無理やり連れてったのが良くなかった!凪は、分かってたの?こうなること?」
「まぁ。自分で言うのもあれだけど、この見た目だと喋ろうが喋らなかろうが面倒くさい事になるから」
なんとも言えない顔でこちらを見ている舞。事実、昔からろくなことがなかった。
整った容姿は、良いように思われる反面、わたしのキツイ雰囲気と相まって生意気に思われる。
自覚してない訳がない。
「藤さんは?どう?」
「話はできた!けど、凪のあれが印象的すぎて…。自分の倍はある酔っ払った男を床になぎ倒す姿が頭から離れない…」
「あーごめん。忘れて」
「忘れられないよね!格闘技かなんかやってるの?」
「…まぁ。そんな感じかな。体動かすの趣味だし」
「あれが趣味なの!?恐ろしいな…」
「あ、始まる」
教授が入ってきたところで授業が始まりお話は中断。まだ何か言いたげな舞の視線を軽く受け流し、私は前を向いた。
まぁ、嘘はついていない。嘘は。
そうして1コマの授業が終わった。
次は1コマ空くため、舞と一緒に席を立ち、部屋を出て廊下を歩いていたら
「おい。ちょっと話がある」
後ろから大きな声で止められる。振り返れば、男が数人立っている。
「げ。昨日凪が倒してた人じゃん…」
「え?うそ」
「え?覚えてない?ゴリラみたいな人だったじゃん!」
こそこそ舞と話してると
「聞こえてるぞ!!!」
どうやら、昨日お相手した男がやってきた模様。
「なんでしょう?」
「なんでしょう?じゃねぇよ。人を床に押し付けといて謝りもしないのかよ!」
「………はぁ、すいません?」
「なんだよ!その態度はぁ!おかげで俺は昨日から笑いものだし体は痛いしで散々だってんだ!」
自業自得なのでは?と内心思うが、こんな人通りの多い場所で叫ばないで貰いたい。
舞は少し震えている。まぁそれもそうか。見た目はイカついゴリラ。
体の大きい男が叫べばそうなる。
「お前は自分がチヤホヤされてるからって人を見下してロクでもない。第一、暴力を平気で振るうなんてこいつやばいやつだぞ!」
私が何も言わないことをいいことに、周りに聞かせるように叫ぶ。
別にいいけど。
知らんぷりして歩こうと舞の腕を取り、振り返って進もうとした時、
「どこいこうとして「なーにデカい声で話してんの?やだぁ、痴話喧嘩?」
明らかに楽しそうなそしてふざけたテンションで私を掴もうと手を伸ばしたゴリラの手を取る男。
周りがザワザワと話し出す。
"あれ、蒼じゃね?" "え。やば、蒼くんだ!" "かっこいい…"
スラリと伸びた細くも均等のとれた筋肉に、半袖シャツから除く白い肌。日本人離れした鼻筋の通った綺麗な顔と少し長く、癖っ毛のある黒髪は、彼が何もしてなくても元々の素材がいいのが分かるほど、綺麗な顔引き立たせる。
この学校で1番モテる男と言われたら、彼のことを指すだろう。
そして、私が1番会いたくなかった人である。