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そして、夜。
「「「え!?本物!?」」」
「褒めてください!初めて飲みの場に来たんですから!」
飲み会に参加して、開口一番目の前に座る人、遠くからグラスを片手にやってくる男性陣に何度も確認を求めらる。
そのたび、自慢げに「褒めてくださいね!」と言って私の横から離れない舞は私の肩に手を置いてアピールする。
私はというと、そんな舞の横でひたすらに目の前に並ぶ焼き鳥やらなんやらを口に運んでいた。
「初めまして〜凪ちゃん!何飲んでるの〜?」
「………(口に食べ物入ってるから喋れない)」
「え、無視?」
「ちげぇよ!お前の不細工な顔に驚いて声が出ないんだよ!ごめんね〜凪ちゃん!」
「うっせぇなぁ!お前も俺も変わんないから!てか本当可愛いってか、美人だよね〜!ねね、今彼氏いる?」
「………(まだ飲み込めない。そして誰?)」
「ほら〜やっぱお前がくだらない質問してっから答える必要すら感じてねぇじゃん!ほんっとごめんね〜こいつの言ったこと忘れていいから!」
「は?ふざけん「それよりあっちに美味しそうな料理来てたよ?良かったら向こうで楽しくご飯たべよ?」
「おいおい!なーに2人して醜い争いしてんだよ!凪ちゃん!俺たちと飲もうよ〜!ご飯もう食べたでしょ?喉乾かない?」
凪ちゃん!凪ちゃん!凪ちゃん!とひたすら食べてしかない私の前に入れ違いに次々と人がやってくる。いくらか時間が経ったとはいえ、ずーっとこの調子。お陰様で他の席にいる女性陣の視線が痛い。
ちらり。と横を見れば、舞は藤先輩と話をしている。うん。目標は達成。
目の前に並んでいた焼き鳥やサラダ、その他一品料理もある程度口にできた。
お酒はここでは飲まないとなんとなく決めていたからもういいかなということで。
「………ごめんなさい。時間になったので帰ります。お金、ここに置いておきます。では。」
コンマ3秒くらいの早口でお金を置いてさっと席を立つ。
周りにいた男性達はみんな目を丸くしている。それもそうか。話したのはこれが最初で最後。女性陣はそれでなくてもずっと痛い視線。まぁ、慣れたけども。
出口に向かおうと呆気に取られた人の間をするすると進んでいく。
が、瞬時に手を誰かに掴まれた。
「嘘でしょ?凪ちゃん。まだ全然話してないけど?」
それはさっきからひたすら話しかけてきていた名前も分からない男。無意識なのか意識的なのか、握られた手は力が中々に入っていて痛い。
「…離してもらえませんか?痛いので」
「調子乗るのもいい加減にしたがいいよ?多少酒が入って酔っ払ってたって、女1人じゃなにもできないんだから。大人しく席に戻って飲もうよ」
ニヤリと笑ったこの上なく気持ち悪い笑顔。同じくらい酔ってる男はニヤニヤと。性格の悪い女もかな。あ、やばいと思って席を立ったまともな人もちらほら。舞もその1人。
舞。申し訳ないけど、私が飲み会に行かない理由、一回経験すれば分かるよね?
そんな気持ちでふっと舞に向かって笑うと、手を掴んでいた男は、「何笑ってんだよ!」とそのまま掴んだ腕を捻りあげようとした。
---が、
「いったあ…」
「え?どゆこと?」「何が起きた?」「は、え?なんで?」
捻りあげるよりも先に、えいやっとみぞおちに膝蹴りをしてそのまま床に崩れて行った。
「………ごめんなさい。時間なので」
それだけ。それだけもう一度口にしてさっと店を後にした。
その後、店の中がどんな空気になったのかは知ったことではない。
肌寒さから生温い風に変わりつつある何とも言えないこの時期特有の気候の中、私はゆっくりと家に帰った。