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【完結】追放された失格聖女は辺境を生き延びる※ただし強面辺境伯の過保護な見守りつき。  作者: 浅名ゆうな


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13/50

お出かけ決行

 翌日。

 今日もよく晴れ、絶好のお出かけ日和だ。

 ドラゴン討伐のあとにレトとしていた約束を、本日決行する。

 彼と街に行くのだ。

 魔獣以外の資材を仕入れるという名目のおかげで、コルラッドの許可が下りた。実はフローリアにとって、魔獣襲撃以外では初めての外出だ。

 けれど、二人きりというわけではない。

 護衛にロロナだけでなく、メルエまでついている。団長なのに。

 しかも現在、なぜか馬車に揺られているのだ。このまま街の入口まで乗りつけ、帰りも送ってもらう予定になっているとか。

 正直、厳重すぎる。

 メルエによると、花祭りまであと一ヶ月を切っているため、街が普段より賑やからしい。

 そしてその分だけ、騒動や事件も増えている。つまり騎士を二人配置するのも、おかしなことに巻き込まれないようにという配慮だろう。

 フローリアとレトだけなら危険というのは分かるが、重要人物というわけでもないのにここまでする必要はあったのか、という思いはある。

 逆らいはしないけれど、やはり大げさすぎる。

「メルエさんもコルラッドさんも、意外に過保護なのですね……」

「何を言ってる。これは、フローリアのため」

「え? 私ですか?」

 公爵家にはとっくに縁を切られているし、もう聖女でもないのに。

 疑問が顔に出ていたのだろう。メルエが呆れた様子で、フローリアの額を弾いた。

「あなたは、ギルレイド領唯一の魔道具師。しかも技術は、最先端のユルゲン帝国に、引けを取らない。本来なら、国家で守られるべき、人材」

 ものすごく壮大な世界観のせいで、逆に現実味がない。フローリアは言葉を忘れメルエを凝視する。

 隣でロロナも疑わしげな顔をしているから、あながち間違った反応ではなさそうだ。

 両者を見比べて笑ったのは、レトだった。

「ねーちゃん、もっと自分を客観視した方がいいぞ。魔獣素材同士を組み合わせることができるなんて、知られれば帝国にも狙われる」

 フローリアは、今度はレトをまじまじと見つめることになった。

 明るくて素直な少年という印象しかなかったのに、発言に年齢不相応の知性を感じる。

「……ねーちゃん、考えてること顔に出てるぞ。俺は正真正銘七歳だけど、何なら父ちゃんの仕事を手伝うことだってあるからな」

 七歳。

 大人びているから十歳くらいだと思っていたが、そういえばコルラッドから聞いた馴れ初めによると、彼らが結婚したのは八年前の戦争直後だった。

 レトの隣に座っていたメルエが補足する。

「レト、コルラッドより、文官に向いてる。記憶力がいい。一度目を通せば、文献を覚える」

「え? たった一度で?」

 すごい逸材だ。

 七歳で領政に携わっているなんて、やはりフローリアよりレトが狙われるのではないだろうか。

「……だから、顔に出てるって。頭のいい人間はそれなりにいるんだよ。けど技術ってやつは、研鑽を積んだ人間にしか手に入らない。新しい発想ってやつもその先にある。努力できるってのも得難い才能なんだよ」

「あ、ありがとうございます……?」

 なぜかお礼を言ってしまった。

 七歳ながらものすごい説得力だ。

 神妙な顔で言い聞かせていたレトだが、そこで意地悪そうに笑った。

「もちろん、天才が努力したら、もっと高みにいけるかもしれないけどな」

「それって私のことーー!?」

 急に話に割り込んだのはロロナだ。

 いつでも自信満々な彼女がやっぱり羨ましい。フローリアは、あそこまで説明されてこの理解度だ。

「天才は他人の食いものを奪わねーだろ」

「それを言うなら、むしろ私の朝ごはんを用意してくれればいいじゃないー! 思う存分もてなしてくれていいのよ!」

「なぜ私に、飛び火。団長なのに」

「だって育ち盛りだもん!」

 メルエは半眼で部下を見つめつつも、最終的には頷いていた。

 何はともあれ、明るく前向きなロロナが可愛いのだろう。おそらく、レトと一緒くたに我が子として面倒をみている。きっとおまけでフローリアも。

 とはいえ、親しくなったつもりでも、まだまだ知らないことは多いらしい。

 今日はより親交を深め、たくさんの面を知っていけるよう頑張りたい。それが楽しみですらあった。

 騒がしい馬車の中で、フローリアはこっそりと笑みをこぼした。




 小高い丘にある領主邸から、王都へと続いている街道。そこを馬車で進んでいくと、領都の目抜き通りが見えてきた。

 地形の起伏を利用した、やや傾斜のある商店通り。突き当たりには広場があって、その向こうにはいくつもの民家が見える。

 フローリアも、ギルレイド領に来た時、この道をたどった。

 あの頃は、こんなふうに穏やかな気持ちで歩けるようになるとは思わなかった。

 それもきっと、春の澄んだ青空と、一緒にいる大切な人達のおかげ。

 馬車を降りたフローリアは、広場に建設されている見覚えのない木の櫓に気付いた。

「あれは何ですか?」

「知らないの? 花祭り用の櫓よ。当日はたくさんの花を持ち寄って飾るの。花を贈って結ばれた恋人達は、あの周りで踊りながら夜を明かすのよ!」

 なぜかロロナが得意げに説明してくれる。

 おそらく彼女の目には、辺境伯と夜をすごす自分が見えているのだろう。

 けれど、そわそわしているのはロロナだけではないようだ。

 街を行く若者の多くが、浮き足立っている。

 衣装を新調している女性、花以外の贈りものを物色する男性。

 花を売る商人のところには人だかりができていて、意中の相手に似合う花を懸命に見繕っている。当日には入手困難になるらしく予約に余念がない。

「本当に、活気がありますね」

「フローリア、あまり私から、離れないで」

「す、すみません……」

 賑やかな店先を眺めながら歩いていたら、メルエに腕を引かれた。誰より先に迷子になりそうだった自分が恥ずかしい。

「気にすんなよ。ねーちゃんは初めてだもんな」

「あんまりキョロキョロしてると、田舎者だと笑われるわよー」

「ロロナ、よくそんな偉そうにできるよな。ねーちゃんは王都の出身じゃねぇか」

「うっさい! でも確かに!」

 レトとロロナのやり取りに癒やされる。

 フローリアは、あまりの人の多さに緊張していたことに気付いた。半年ほど辺境伯邸の敷地内に引き籠もっていたせいだ。

 レトが近付いてきて、フローリアの手を握った。

 馬車の中でも思ったが、彼は人の顔色を読む力に、非常に長けている。

「……レト、コルラッドさんに似ているわ。こちらが喋っていないのに、会話が成立するところとか」

「たぶん、ねーちゃんが読みやすすぎるんだよ。あと父ちゃんと一緒にされるの嫌だ。性格悪そう」

「え、コルラッドさんはいい人じゃないですか。確かに、素直に褒めようとした場合、躊躇するかもしれませんが……」

「そうやって善人を複雑な気持ちにさせるとこが嫌なんだよ」

 ただのいい人にあそこまでの迫力は出せない。

 フローリアは妙に感心してしまった。

「お昼ごはん、どこがいい?」

 メルエが気の早い話をはじめる。

 もちろんフローリアはどのような店があるのか知らないので、彼らにお任せとなる。

 そうなるとロロナの独壇場だった。

「はーい! 私、がっつりお肉の気分!」

「言うと思った」

「周りにもちゃんと意見聞けよ」

「だってコルラッド様がお金出してくれるならここぞと贅沢したい! 絶対高いお肉! うちの実家じゃ一生出てこないようなやつー!」

 おそらく肉で決まるだろうと思っていたら、メルエがフローリアを振り向いた。

「フローリアは、久しぶりに小麦のパン、食べたいんじゃない?」

「え……ギルレイド領に、小麦のパンが?」

「辺境伯が率先してライ麦を食べてるから、俺達も食べづらいだろ。実際この辺じゃ高価だし、高級店以外では出してねぇしな」

 レトの補足説明に、なるほどと頷く。

 辺境伯に仕えるコルラッドの屋敷で食べたことがないから、領地自体にないものだと思っていた。

 ライ麦パンではなく、小麦でできた白いパン。

 それは、確かに食べたい。だがロロナの気持ちを考えれば、自分の主張ばかりはできない。

 そうして悩みに悩んだ末……フローリアは落としどころを口にした。

「あの、食べたいですが……おいしいお肉も小麦のパンも、どちらも食べられるお店が、いいです」

 どっちつかずな結論だが、レトとメルエは面白そうに笑ってくれた。

「フローリアらしい」

「そういうと思ってたから、目を付けてた料理店があるんだ。広場の近くにあるんだけど――……」

 レトの言葉が中途半端に掻き消される。

 重いものがなぎ倒される音、男性の怒号。

 突然不穏な騒ぎが起こった。

 物音がした方を見ると、旅装のフードを深く被った、いかにも怪しげな風体の者がいた。おそらく酒が入っているだろう赤ら顔の男性が、その胸倉を乱暴に掴んでいる。

 オロオロとするフローリアをしり目に、メルエがロロナに視線で合図を送る。

 ロロナは嫌そうな顔で歩き出したけれど、その足取りはどこか軽やかだった。




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