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なぜかチャイナドレスをいつも着ている転校生は僕の恋人を名乗る、記憶喪失なかわいそうな子だった。

作者: 犬のおじさん



10月1日




「会いたかったアル!!かくし!!」



青を基調とした生地にラメやら模様やら入っているチャイナドレス。

服の上からもわかる女性らしい凹凸。

それでいて、スリッドが腰骨あたりまで入っており、下着が見えそうだ。

髪型は両脇をお団子のようにして結わえている。




季節は秋。

紅葉が散りゆく中、転校生とは珍しい。

しかも、この日本ではなくおそらく中華圏から来たであろう服装と話し方。




「アル。」なんてはっきり言ってステレオタイプの中の中華系女子が使うであろう言葉だ。






しかしそれが事実俺の前にいる。

しかも抱き着かれている。



クラスの雰囲気は控え目にいっても、凍り付いている。




「えっと・・・・心根くん。感動の再会は構わないのだけども・・・・ホームルームなのよ。」


「いや、いいんちょ。俺じゃなくて、この中華系女子もとい転校生が勝手に抱き着いてきているのであって。」



「そんな言い訳認めないわ。いったいこの子とどういう関係なのかしら?」


「どういうも何も・・・」


「あなたにとっては記憶がないのかもしれないけど・・・・この子にとっては異国からきて・・・

そして久しぶりに再会を果たした恋人なのよ!?」


「いや・・・・だから知らんて。人違いでは・・・?」



「うーん、隠ぃい・・・・会いたかったアルよお・・・・」






三つ編みおさげの眼鏡女子のいいんちょはあきれていた。





チャイナドレス姿のりん 田林でんりんと名乗る転校生は

俺の右腕にしがみついて、頬をすりすりしている。





教壇に立つ先生はこちらを一瞥して教室中に宣言するように話す。




「転校生の蓮だが、諸々事情があって、記憶喪失をしている状況だ。だから

どんな些細な情報でもいい。彼女のことを知っているものがいたら先生まで報告するように。」



クラスメイト達は「はーい。」とやる気のない感じで返事をする。


いや、そもそも転校生なんだから、些細な情報も何も知らないのではという疑問を抱く自分が

おかしいのではと感じていた。






蓮はやっと離れる。


「隠!これからよろしくアル!!」


「うん・・・・ああ・・・。」



二かっとはにかむ蓮。

こうしているとかわいいのにな。







♦♦♦♦♦♦

昼休みになる。




「いいんちょ。飯食いにいかないか?」


「いいわよ。今日は何があるのかしら。」


「隠ぃいい、私も連れていってほしいアルよ!!」



蓮がいいんちょと俺の間に割り込んでくる。



「あら。私はお邪魔虫かしら?」


「そんなことねえよ。3人で食おうぜ。」


「あら、心根くん。もうこの子に適応したのね。」


「ああ・・・いつも(・・・)こんな感じじゃねえか。慣れたもんだよ。」



そういうといいんちょは少し怪訝そうな顔をする。




「いやいや、転校生の扱いってこんなもんだろ?ほら、蓮も違う国からやってきたからさ。

こうやって大切にしないとな。」



「ああ・・・そうね。確かに。転校生だものね。」


いいんちょは眼鏡を指でかけなおす。





「ということだ。蓮。記憶がないのかもしれないけど・・・・とりあえず腹は減るだろう。

食堂へ行こう。」



「隠はさすがある!!私の彼氏として合格アル!!」



「あらやっぱりそういう関係なのかしら?」


「いやだから、蓮は記憶喪失なんだろ?誰かと間違っているだけだって。」



いいんちょに耳打ちする。


いいんちょは眼鏡をきらりんと光らせながら




「まんざらでもないじゃない?こんなかわいい子。」


「う・・・うるせえよ、いいんちょ。早く飯食いに行こうぜ。」



「何を話しているアルか??昼休みは終わってしまうアルよ!!食堂は1階の体育館の横アルか??」



「うん?蓮なんで知っているんだ?今日が転校初日だろ?」




不自然だ。

転校初日にして、あんな奥にある食堂の位置を把握するなんて。





いいんちょが割って入る。


「まあ・・・・・食事の楽しみは万国共通じゃない?だとしたら私が転校生だとしても

そこは事前にチェックするわよ?」


「ふーん。そんなものなのかねえ・・・」



いいんちょは蓮を見る。


連は肩をすくめるように上目遣いでいいんちょと俺を交互にみる。






「・・・・まあいいか。とりあえず行こうか。腹も減ったし。」


「そうアル!!飯は万国共通の楽しみ!!食は命アル!!」





目を輝かせながら拳をあげる蓮。

まあ・・・異国の人間からしたら、日本の学校の食堂はそれなりに興味深いのだろう。






蓮が先頭になる形で俺らは、食堂へと向かった。
















♦♦♦♦♦♦


「かっ!!!カレーが!!!!」



目を輝かせているのは記憶喪失系チャイナドレス女子ではない。



三つ編みおさげのいいんちょだ。




いいんちょはカレーには目がない。

カレーの為に生きているといっても過言ではないのだ。





「誕生は何がいい?」って聞いたら、

「カレーがいい!」と即答しそうなほどカレーが好きだ。




聞いたことはないけれども。




そういや、いいんちょの誕生日知らないな。




「なあ・・・いいんちょって誕生日とかもカレーが食べたい感じか?」


「何言ってんの。心根くん。カレーを食べない日なんてあるの?」



「愚問でした・・・・そういやさ、いいんちょの誕生日っていつだっけ・・・?」





その質問をした瞬間、いいんちょの顔が険しくなった。

しかしすぐに表情を崩し、柔和な笑顔でこちらを向く。




「やだなあ・・・・心根くん。また忘れっちゃったの?」



「いや・・・・聞いたことあったっけ?いや・・・・うんごめん。」



「隠は私の誕生日知っているアルな!?」




蓮が少し気まずい感じの空気をとかしてくれる。




「うーんいつだったかな・・・・・。」


「ひどいアル・・・・私の体であんなに楽しんだのに・・・・誕生を忘れるなんて・・・」



「心根くん?」




いいんちょが鬼の形相だ。




「いやいや、だからさ!いいんちょも知っているだろ?蓮は記憶喪失で・・・だから俺のことも・・・」



「だから今日が転校初日なんでしょ?そこは知らないって言わないと・・・・心根くんが記憶を

失っているみたいに聞こえるわ。」



「ああ・・・・確かにそうだな・・・・」



蓮の方をちらりと見ると、舌を出してあっかんべーのポーズだ。



心なしかすこしふくれっ面である。




「えっと・・・蓮さん。自分何かしましたか?」


「知らないアル。いいんちょとばーっかり。」





この転校生は非常に面倒くさい。

彼女面するし、妬む。






こちらにしてみれば今日知り合ったばかりの、しかも記憶喪失の子を歓待してやっているのだ。





やはり衝撃的すぎる設定と衣装としかも、俺の彼女だ。

先生も一応、記憶喪失と説明はあったものの、正直お荷物なのだろう。



いいんちょに任されるのはわかるが、俺に接待係が回ってくるのはなんとも釈然としない。








♦♦♦♦♦♦


10月15日








「はい!授業はここまで。」


「起立!礼!ありがとうございました!」




いいんちょの掛け声でクラスメイトたちは一糸乱れず動き、身支度をして岐路につく。



「なあ・・・・蓮。お前記憶喪失のなのに、家への帰り方はわかるのか?」



「わからないアル。」


「え・・・・どうやって帰るんだよ?」




クラス中を見わたす。


残っているのは教室の掃除をしているいいんちょだけだ。



いいんちょはこちらを見て、

親指をぐっと、立てている。



いやいや、どういう意味だよ。





「住所とかわかんねえのか?」


「住所か・・・・うーん。あ!!下宿先を紹介されたアル!」


「それどこだよ?」



「えーっと、ここアル。」




蓮はスマホを取り出して見せてきた。


それはちょうどうちの隣にある、コンビニの2階だ。



「この2階を使うよう言われているアル。」


「言われているか・・・・って誰にそんなこと言われているんだ?」


「え・・・・まあ・・・・お世話してくれている人。」


「そんな人いるのか。まあいいや。じゃあうち、近いからさ。一緒に帰ろう。」



「そう言ってくれることを期待していたアル!!さすがダーリン!!」




肩に腕を回して抱き着いてくる。


「くっつきすぎだ、蓮」


蓮の肩をつかみ距離を取る。



「え・・・あ・・・なんかごめんなさいアル。。」




蓮がうつむく。



「あ・・・いや・・・・俺が嫌とかじゃなくてな。記憶喪失のお前が本当に俺の彼女かもわからないし。

そもそもお前のそういう記憶がない状態に付け込む感じでもよくないし、いやでも・・・別に嫌ではないというか・・・・」




「隠・・・・」




蓮と目が合う。


校舎に降り注ぐ夕日が、俺と蓮のムードを高めてくれる。



「そのだからさ・・・・・まあ・・・ゆっくりな。。。別にお前のこと・・・嫌いじゃないから。」














「あーーーーーーーーーーーー!!!!!!あの!!ムードいいとこ申し訳ないんだけど。

よそでやってくれる??ここにいいんちょがいるんですけど!!!!!」




いいんちょが俺と蓮の間にダン!と水が並々入ったバケツを置いた。





完全にいいんちょの存在・・・・忘れていたよ。



♦♦♦♦♦♦




「隠ぃ・・・また明日アル!!」


「ああ・・・・じゃあな。」




蓮はいそいそとコンビニの2階にある下宿先へと上っていった。

女子高生の一人暮らしとしては、いささか頼りのない構造だ。



外付けの階段に、オートロックなんてシロモノはついていない。





「コンビニは24時間だから安心アル!!」



鼻をならしながら、蓮はそういって上がっていったが

だからこそ治安は気になるところだ。


うん・・・まあ蓮なら大丈夫だとは思うけど、

一応まあ・・・その女子高生だしな。





あとで様子を見に行くか。






さて・・・・

自分の家の前に立つ。コンクリート作りの1軒家だ。


2階建てで、簡単な庭もある。




ちゃんと個室もあてがわれており、

年頃の高校生にとっては非常に申し分のない作りである。





そう。


同居人を除いては。




時間は夜7時。

なんとまあ、微妙な時間で、、

蓮といいんちょと話し込んでいたらこんな時間になってしまっただけなのだが、

そんなものは通用しない。





鍵は・・・・あった。


ポケットから鍵を出す。

音が立たないようにゆっくり鍵をあける。




キイ・・・・と音を立てるドアを横目に

袖で額から出る脂汗をぬぐい、靴をそっと・・・脱ぐ。




物音を立てたが最後。

そろりそろりと、今日日こんな言葉を使う人がいるのだろうか、

まさに抜き足差し足で廊下を進む。



リビングからは何やら音が聞こえる。



「うらあああ!!!!」


「てめ!!ぶっ飛ばすぞ!!!!」



「あーーーーっと!!ここで渾身のドロップキックだあ!!!!!」





今日もプロレス観戦にいそしんでいらっしゃるようだ。


これなら・・・・




「え・・・・」


階段に足をかけた時。



視界が反転した。




「うぎゃっ!!ひざがあああ!!!!!!!!」




その影はそのままあおむけになった俺の足元に絡みつき、

きれいなインディアンデスロックをかけてきた。




「いたああああああああ!!!!!!!!!!!!ギブギブ!!!!!」



「お兄ちゃん。どこいってたの。」




そういってこちらに顔を近づけるのは、さらさらの赤い髪が肩くらいまであり

黄色のリボンに体系はしなやかに筋肉でしまっていて胸元も

筋肉のせいでぺったんこのわが妹(以下 シスタ)由美だ。




「ねえ・・・・私いったよね。今日はお夕飯、お兄ちゃんの好きなカレーにするから

早く帰ってきてって・・・・ねえ?どうして??」



さらに顔を近づけるシスタ由美。


「あだだだだだ!!!!!!!!!!!!!!!」


「くんくん。なあに?このにおい。メスのにおいがする。しかも違うにおいが混ざっていて。

不潔・・・・だめだよ?お兄ちゃん。そうやって、私に殺されたいの?」



「わああああtった!!!とにかく技を解いてくれ!!ひざがあああ!!!!!!!!」




「だめよ。こうやって汗かいて、私と触れ合って、どこの馬の骨ともわからない女の

においを消さないと。そうしないと、私、、、お兄ちゃんを殺してしまうかも。」




「ああ!!!!!!!!!だったらふろ!風呂入ればいいだろう!!」



「お風呂??え・・・わ・・・・私まだそんな・・・・」




少しシスタ由美はのけぞる。

頬をポッと赤らめて、顔を振りながらその反動がひざにくる。


インディアンデスロックはのけぞっても技が決まってしまう。





「があああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」




「お兄ちゃん、いくら私がかわいいからって・・・そんな実の妹とお風呂に入ろうなんて・・・・

そりゃあ・・・・私がそんなに魅力的なのがよくないんだけど・・・・・うーーん、まだ早いってば!!!」





起き上がろうとしていたところを突き飛ばされる。

しかも技は決まったままだ。




ぐき!!!!




「あああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」








明日から歩けるのだろうか。

そのくらい嫌な音が膝から聞こえた。











♦♦♦♦♦♦



「シスタ由美」


「はい♪あーん。」



カレーを口に運んでくれるのはいい。

カレーは別に好物ではない。


誰かと間違っているのだろう。



嫌いでもないから別にいいのだ。


いいのだが・・・・・





「なあ・・・・シスタ由美。水をいただけないだろうか。お兄ちゃんの下がひりひりしてきたよ。」


「ああ・・・・おいしいでしょ?これ、なんでも世界一辛い唐辛子スパイスを入れてコクが増しているから」





カレーの皿の横にある、ビンには骸骨の絵が描かれている。

赤くなく、どちらかというと黒々としていてヘドロに近い。





そして何口目だろうか。

ひりひりが半端ない。


いや、これでも耐えている方か。

この手の拷問は慣れているからな・・・




そんなことでは負けない。




「あ・・・・こぼれちゃった・・・・」



そういって、目とか鼻の穴にカレールーを落とされそうになるのはなんとか

首を横にふって避ける。





「あの・・・・どうして縛られているのでしょうか?」


「え・・・だって逃げちゃうし。」




椅子にぐるぐる巻きになっている。

膝をやられたのをいい気に、拘束されてしまった。




「いやあのな。さすがにこれが目に入ったら失明してしまうぞ。」


「大丈夫だよ。お兄ちゃん、、強いから。」


そういうシスタ由美の目に輝きはなく、虚ろで焦点があってない。



「だからさ。。。転校生だって・・・・あといいんちょと話をしてたの!!!」



「高校生がこんなにおいの香水つけないよ。酒場の女でしょ。」


「酒場って・・・・ここは異世界ですかっ!!!」



「・・・・・あながち間違ってないかもねえ・・・・」



そういうと怪しいソースをコップに注がれた水にいれる。

水はどういう化学反応か、黒から血のように真っ赤になっていく。



シスタ由美はペロリと舌なめずりをして、コップを持つ。



「ああああ!!!!悪かったって・・・・明日からは門限守るからさ!!!許してくれよ。」



「え?別に怒ってないよ。お兄ちゃんが焦っている姿が面白いだけ。それに明日は私も部活で遅いしさ。」



「ああ。ずいぶんといかれちまっているようだな。はあ・・・・」






暴力。

ヤンデレ。

顔はかわいい。

実の妹。







ラノベでありそうな設定をもりもりに持っている、妹だ。

不自然なくらいにラノベだ。





この際の突破口はヤンデレをうまく突っつくことだ。

そうと相場は決まっている。





「そういえば・・・・シスタ由美。髪切った??似合うね、その髪型。」


「髪切ってないよ。どこの女と間違えているの?」




顎を手ですりすりしてくる。

片手には赤い水。




「あれえええ???いやあああそうだっけか。うん!!いつも通り!!髪の色がいいね!かわいい!!

リボンもよく似合っているし。そうだ!!この前ショッピングモールにいったらさ、シスタ由美に

似合いそうな服があるんだ!!今度の休みに買いに・・・・」




「ショッピングモール?それは誰といったの?私の部活の日にこっそり目を盗んでいったのね。」


そういうとシスタ由美は何やらハードカバーの本のようなものにさらさらと記入をする。



「何を書いて・・・うん・・・・??部活の日・・・・?お前部活やってんのか。誰って・・・・えっと・・・・誰だっけ??」



思い出せない。





「お・ん・な?」


そう言いながら、さらにシスタ由美はさらさらとハードカバーに記入を続ける。



「違う!!一人だよ!」


「一人でなんで女性ものの服の売り場にいるのかしら?」




えっと・・・・なんでだっけ?





「いやあ・・・・たまたまトイレを借りようと入ってさ。そしたら・・・・」



「女性もののフロアに男子トイレはないよ。どこの女といたの??」




ああ・・・・目が虚ろだ。

殺気を感じる。




「お兄ちゃん。もうあきらめなって。私はお兄ちゃんのことは大好きだからさ。

うん・・・・一回眠った方がいいよ。」




「ああああ!!!やめてえええええ!!!」





赤い水が入ったコップを一気に口に流し込まれる。






飲み切る。



「なあんだ・・・・大したことな・・・・い・・・」






視界がぐにゃりとゆがむ。


「あれ・・・・なんだこれ・・・?」



「お兄ちゃん。人間味覚がマヒしすぎるとめまいがするんだってね。」



頭がぐらんぐらん。



これは・・・・



「大丈夫。起きたらちゃんととなりにいてあげるからね・・・・・」






視界が歪みに歪んで・・・・・・







パチン!と音を立てて一気に暗転した。











♦♦♦♦♦♦


10月31日



ちゅん。ちゅん。



朝か。


カーテンの隙間からは朝日がこぼれている。


すべすべのベッドの感触を少しかみしめながら、

のそっりと起きようとする。



「ん・・・・・」



体温を感じる。

すべすべなのはベッドの感触ではなかった。


人肌。


「え・・・・」


隣に寝ているのは、リボンを解いたわが妹。



妹が寝ているだけであれば、何も問題ない。


そう。


隣に寝ている妹は生まれたままの姿で腕に絡みついて寝ているのだ。



部屋の机の上には、下着やらなんやらが積み上げられている。

机の本来の用途ではないような気がするが・・・・

下着の山だ。



そんなことはどうでもいい!



そして俺も何も着ていない。







「あばばばばばばばばばばば!!!!!!」




思わず絶叫する。



「ん・・・・お兄ちゃん。おはよう。」



「なななななな!!!!!なんでシスタ由美!!!!!なんで・・・・」


「ああ・・・ううん、昨日は楽しかったね・・・・」






楽しかったって!!?

何が!!?


俺は!!!!!!!!!!!?





近親的な・・・あれを!!!!!!?







「じーーーーー。」



カーテンに人影が見える。


「えっと・・・・・蓮さん??」



蓮が顔を真っ赤にして口をゆがめて立っていた。

ここ2階なんだけど・・・・




スパイかなんかですか、あなたは。





「不潔あるううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」





手には機関銃。


「蓮・・・?なんでそんなものを・・・・」



隣にいる妹を守らねば・・・・




「あれ???」




人肌を感じない。





「かくしいぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!」





蓮は俺の部屋をハチの巣にした。






♦♦♦♦♦♦


「はあ・・・・死ぬかと思った・・・・」


「よく機関銃の連射に耐えられたアルね。」






蓮と肩を並べて歩く。


それだけならどんなに平和なことだろう。




「お兄ちゃん。」



瞳から光を失った、口元は笑っている怪しげなシスタ由美が、

腕を絡ませながら歩く。


片方の手には例のハードカバー。



「由美、それなんだよ。お兄ちゃんがもっていてやろうか?」


「いいの、お兄ちゃんは気にしないで。」



「なあ。。。隠、私というものがありながら・・・・・その妹と・・・・」


「違うんだって。これは・・・いや昨日気を失ってな・・・・・・・・・」



「気を失うくらい激しかったね、お兄ちゃん。」



ぼそりとシスタ由美がつぶやく。



「隠、まだ撃たれ足りないアルか?」




蓮は懐に手をいれる。



「いやいや!!!!!はあ・・・・・」




何を言っても信用されなさそうだ。




そうこう歩いていると、前方におさげのスラっとした女性。






「心根くん!!おはよう!!」



大手を振ってこちらに近づいてくる。





「おはよう・・・・いいんちょ。」




「おはよう・・・って、なんだか修羅場な空気感をビンビンに感じるんだけど・・・・」


「うん・・・そうだね・・・・」






何も言うまい。






「そういや、心根くん、明日は朝礼前に委員会があるから・・・・第二視聴覚室にきてちょうだい。」


「委員会・・・?ああうん。わかった。」


「うん。委員会。私たちは今日、部活があるから・・・・代わりに出てほしいわ。」


今日部活なら明日は出れるだろうに。



委員会か。

いったい何の委員会かわからないが、

この状況下で何かを言える状況でなかった。





♦♦♦♦♦♦



11月1日 朝礼。


「会いたかったアル!!かくし!!」



青を基調とした生地にラメやら模様やら入っているチャイナドレス。

服の上からもわかる女性らしい凹凸。

それでいて、スリッドが腰骨あたりまで入っており、下着が見えそうだ。

髪型は両脇をお団子のようにして結わえている。




季節は冬に近づいた。

紅葉が散りゆく中、転校生とは珍しい。

しかも、この日本ではなくおそらく中華圏から来たであろう服装と話し方。




「アル。」なんてはっきり言ってステレオタイプの中の中華系女子が使うであろう言葉だ。






しかしそれが事実俺の前にいる。

しかも抱き着かれている。



クラスの雰囲気は控え目にいっても、凍り付いている。




「えっと・・・・心根くん。感動の再会は構わないのだけども・・・・ホームルームなのよ。」


「いや、いいんちょ。俺じゃなくて、この中華系女子もとい転校生が勝手に抱き着いてきているのであって。」



「そんな言い訳認めないわ。いったいこの子とどういう関係なのかしら?」


「どういうも何も・・・」


「あなたにとっては記憶がないのかもしれないけど・・・・この子にとっては異国からきて・・・

そして久しぶりに再会を果たした恋人なのよ!?」


「いや・・・・だから知らんて。人違いでは・・・?」



「うーん、隠ぃい・・・・会いたかったアルよお・・・・」



♦♦♦♦♦♦


~いいんちょ視点~



11月1日  朝礼前。委員会。


場所は第二視聴覚室。

机が1つぽつんと置かれている。



机の上にはテスト用紙。




誰もいない部屋を監視カメラで覗いてみる。



「委員長、来ないですね。」


「うむ。」


「全く今回も・・・・記憶を失ったのかしら。」




チャイナドレスと赤髪の少女が後ろからモニターを覗く。




「由美は夜間の隠を監視しているのだろう?」


「昨日と同じ通り。朝、隣で同衾したわ。」


「ふむ・・・・同衾か。」




シスタ由美の監視業務は目を見張るものがある。

隠の記憶が万が一戻っていた場合、大変危険が付きまとう。

その為、毎晩隠を拘束し、気絶させて、さらに服をすべて剥いで寝ている。


なぜシスタ由美まで裸になるかはいささか彼女の心理状況を読むことができず

不明ではあるが、ミッションはこなしている。




朝、起きて腕にしがみつき、蓮とともに監視体制をしきながら昇降口までは来た。




視聴覚室に来るようにという指示は毎朝のことである。

彼は毎回、必ず視聴覚室に来ては、この机に座り作業をこなしてから朝礼に出る。



ただ1か月周期でやはり、すべての記憶は失われる。

その為、月の最初の登校日についてはここに彼はいない。




「またですね・・・・にしても、暖房が熱すぎる。」


蓮はチャイナドレスの第一ボタンを外す。






心根隠。


わが国家機密を諸外国に売り渡そうとした、スパイだ。

彼の行為は断固許されない。




「委員長、いつまでこんなきつきつのチャイナドレスを着ていないといけないのだろうか。」


「しかたなかろう。心根が記憶を失う前のお前の服装がそれだったのだ。記憶を引き出すきっかけになるかもしれない。」



「そんなこと言って・・・・何回目?1月から始めて、1か月超えて記憶も保持できないし・・・・

国家機密って何?」


「それにリーチするための鍵を心根が持っているのに、彼が記憶を失った。だから困っているんでしょ?」



由美が髪をバサッと手の甲で肩の後ろに払う。


そう。

それこそが一番の問題なのである。




国家機密が書かれているファイルは銃撃戦の末、押収できた。

問題はそこからだった。



心根はパスワードをかけてしまったのだ。

これでは、機密情報にアクセスができない。





機密情報は何万テラという膨大な規模のデータとして保管されている。

だからこそ人間の記憶でどうにかなるものでもないのだ。





参った。

記憶が戻らないと私たちのミッションも終わらないのだ。





「だいたいさ・・・委員長がさ。」




扇子を広げて、それを口元にかざす。

蓮、様になっているな。

その服装気に入っているんじゃないのか、なんて野暮なことは聞かない。




「それは言わない約束だろ・・・・。」




「でもさすがにそろそろ結果出さないとまずいのでは・・・・」



「わかってる・・・・」



そう。

蓮がパスワードを握っているのは特定していたのに、

記憶喪失にしてしまったのは我々の落ち度だ。




国からは早急にパスワードを入手するよう言われている。

そうでないと私らは〈処分〉されてしまう。





急がねばならないのだ。






♦♦♦♦♦♦

~蓮視点~



11月2日


「いいんちょ、飯食いに行こうぜ。」


「ああ・・・・そうだね・・・」





「隠ぃいい、私も連れていってほしいアルよ!!」




こうやって、スパイ野郎の男に抱き着くのは何度目か。





「あら。私はお邪魔虫かしら?」


「そんなことねえよ。3人で食おうぜ。」


「あら、心根くん。もうこの子に適応したのね。」


「ああ・・・いつも(・・・)こんな感じじゃねえか。慣れたもんだよ。」


委員長、少し油断していないか?

適応なんて言葉は非常に不自然だ。




「いやいや、転校生の扱いってこんなもんだろ?ほら、蓮も違う国からやってきたからさ。

こうやって大切にしないとな。」



「ああ・・・そうね。確かに。転校生だものね。」


委員長は自分のミスに気付いたようだ。

額から汗が流れている。

そのせいでずれた眼鏡をかけなおしている。





「ということだ。蓮。記憶がないのかもしれないけど・・・・とりあえず腹は減るだろう。食堂へ行こう。」



「隠はさすがある!!私の彼氏として合格アル!!」


不自然さはこれでチャラだ。






「あらやっぱりそういう関係なのかしら?」


「いやだから、蓮は記憶喪失なんだろ?誰かと間違っているだけだって。」





「まんざらでもないじゃない?こんなかわいい子。」


「う・・・うるせえよ、いいんちょ。早く飯食いに行こうぜ。」



「何を話しているアルか??昼休みは終わってしまうアルよ!!食堂は1階の体育館の横アルか??」



「うん?蓮なんで知っているんだ?今日が転校初日だろ?」




緊張が走る。

委員長がこちらをにらむように見ている。

まずい、何度もこの学校で1か月を繰り返しているというヒントを与えてしまったか。

だが、これをきっかけに記憶を取り戻してもいいのではないか。





11回目の同じことを繰り返しているうちに、私にも焦りが出てしまったか。




委員長が割って入る。


「まあ・・・・・食事の楽しみは万国共通じゃない?だとしたら私が転校生だとしてもそこは事前にチェックするわよ?」


「ふーん。そんなものなのかねえ・・・」



委員長が私を睨みつける。

私はこの場を取り繕うため、交互に委員長と隠を見る。




「・・・・まあいいか。とりあえず行こうか。腹も減ったし。」


隠は少し表情を緩ませた。

大丈夫なようだ。



「そうアル!!飯は万国共通の楽しみ!!食は命アル!!」



目を輝かせながら拳をあげる。演技をし続けるのも疲れてきた。

好奇心旺盛な転校生を演じ続けねばならない。






私が先頭になる形で、食堂へと向かった。




♦♦♦♦♦♦


「かっ!!!カレーが!!!!」



目を輝かせているのは委員長だ。



我々のミッションの楽しみは食事だけだ。



委員長はカレーには目がない。

カレーの為に生きているといっても過言ではないのだ。





「誕生は何がいい?」って聞いたら、

「カレーがいい!」と即答しそうなほどカレーが好きだ。





「なあ・・・いいんちょって誕生日とかもカレーが食べたい感じか?」


「何言ってんの。心根くん。カレーを食べない日なんてあるの?」



「愚問でした・・・・そういやさ、いいんちょの誕生日っていつだっけ・・・?」



やはり隠は記憶がない。


その質問をした瞬間察したのか、委員長の顔も険しくなった。

しかしすぐに表情を崩し、柔和な笑顔でこちらを向く。




「やだなあ・・・・心根くん。また忘れっちゃったの?」



そう忘れちゃったの?ということでこんな会話を繰り返しているということを理解させる。

委員長も焦っているのだろうか。





「いや・・・・聞いたことあったっけ?いや・・・・うんごめん。」



「隠は私の誕生日知っているアルな!?」


確認する。

時間がないからだ。



「うーんいつだったかな・・・・・。」


「ひどいアル・・・・私の体であんなに楽しんだのに・・・・誕生日を忘れるなんて・・・」



さらに深堀る。

そう何か月目だっただろうか。

誕生日を祝うイベントを行った。

隠はどんな記憶なら保持できるかどうかを検証するために、誕生日パーティを実施したことがある。



そのイベントも忘れてしまっていた。







「心根くん?」




委員長が鬼の形相だ。

思い出すように圧をかけているように見える。




「いやいや、だからさ!いいんちょも知っているだろ?蓮は記憶喪失で・・・だから俺のことも・・・」



「だから今日が転校初日なんでしょ?そこは知らないって言わないと・・・・心根くんが記憶を

失っているみたいに聞こえるわ。」



お前は記憶を失っている。

そう告げたのだ。


隠の表情は曇っていく。



「ああ・・・・確かにそうだな・・・・」



こちらの方をちらりと見てきた。

舌を出してあっかんべーのポーズをしてみる。


これもまた誕生日にこのポーズを行った。



隠は頭をポリポリと掻いて目をぱちくりさせている。




「えっと・・・蓮さん。自分何かしましたか?」


「知らないアル。いいんちょとばーっかり。」





いつになったら思い出すのだ。





私の衣装・表情すべてをもってしても隠の記憶には残らないのだろうか。

面倒くさそうにこちらを見る。






ちらりと窓の移る自分の姿を見る。



それなりに女を磨いてきた。

仕事の為に、相手を惑わすために、


それをすべて否定されているような気がした。









今までと同じではだめだ。

私を思い出させる。




「ねえ!!隠!!!」


「な。。。なんだよ。」



「デート!!デートいくアル!!!」



「え・・・・デートって・・・あんた・・・」



委員長が計画にない行動を行うことに待ったをかけることがわかる。




「うーん・・・・まあ・・・行くか。」






あとから管理委員会から何を言われるかわからない。

指示にないことをやることで、懲罰があるかもしれない。





それでも・・・・

私の美貌を忘れるなんて・・・・








許さないから。





♦♦♦♦♦♦


土曜日。

学校が休みの日だ。



デートであるのだが、学校で待ち合わせすることになった。




「お待たせアルー!!」


「ああ・・・蓮。」



連はいつも通りのチャイナドレス。

髪型だけ違う。


おだんごにしている髪型は今日はハーフアップだ。




「髪型・・・違うんだな。」


「うん・・・どうアルか?」



「どうも何も・・・・いいんじゃないか。」


「えへへ。」



両腕を後ろに組み、上半身を傾ける蓮。





「・・・・でなんで学校なんだ??」


「え・・・?学校でデート場所だからアル。」


「デート場所って・・・・他に場所ないのか・・・・」



「いいじゃないアルか。おあつらえ向きアルよ。私らの思い出を彩るには。」




「うーん・・・・なんかもっといい場所があるだろうに・・・・」




蓮が眉をひそめる。


なぜ、こんな学校でやらねばならないのだ。

そう思っていると、、




「見てみて!!お弁当作ってきたアル!!」



とはいっても・・・せっかく蓮がプランを立ててくれているのだ。

そのプランに乗っかることにしよう。





「・・・・・で最初は何をするんだ??」



「そうアルね・・・・実はデザートを作ってないアルから・・・調理実習室でお菓子を作りたいと

思っているアル。」




蓮を見る。



偏見ではあるが、なんだろうか、

月餅でも作ってくれそうな見た目をしてはいるが・・・・







♦♦♦♦♦♦

「できたアル!!!」



「ああ・・・・まあ・・・・うまそうだが・・・」



月餅でも中華まんでもなんでもない。





こてこての和菓子。

みたらし団子とあんこの団子だ。




これじゃあ、日本の和菓子ではないか。






蓮の出身はやはり・・・・




「さあ!!団子もできたし、デートある!!」




「団子をもって・・・どこに行くんだ??」




「茶道研究部の部室アル!!!」」








畳。

掛け軸。

ふすま。




そしてチャイナドレス。

なんという異文化交流だろうか。





茶器を用意し、カチャカチャと音をたてながら抹茶を用意する蓮。





まあ・・・・その光景は悪くない。

しかし・・・蓮のこのデートプランはなんなのだろうか。



「なあ・・・・蓮。」


「何アル?」


「俺らは昔もこういう風にデートをしていたのかな??」


「うーん・・・どうだったかアルなあ・・・・」




「覚えていないのか・・・?」


「昔のことはよく覚えていないアル。それより今を楽しむアル。」


「そうか・・・蓮の誕生日や昔・・・そのお前で楽しんだっていう俺に対しては執着をもっていたのに、

その辺はドライなんだな。」



「え・・・・まあ・・・。」





連の目が泳いでいる。

明らかに頭から汗が飛んでいるようなそんな感じで焦っている。




「隠、そろそろお昼アルね。」


「ああ・・・・もうそんな時間か。どこで食べようか。」



「うん・・・・天気がいいから校庭はどうアル?」


「そうだな。天気がいいからな。」








♦♦♦♦♦♦



シートを広げる。

蓮は竹で編まれた弁当箱を取り出した。


「頑張ってつくったアル。」



おにぎりに出し巻き卵、唐揚げだ。


「こっちには味噌汁が入っているアル。」


「お・・・ありがたいな。ちょっと冷えるからな。」



蓮が両手でちょこんと差し出したカップを手に取る。




蓮もまたカップからずずっと味噌汁を飲む。

ネギとみょうがの味噌汁だ。



「はあ・・・しみわたるなあ・・・・・」


「なんだか、隠はおっさんっぽいアルね。」



「そうかあ??まあ、最近はちょっと体がしんどいがな・・・・」


「まだまだ若いじゃないアル。」



おにぎりにかぶりつく。


非常に和の味だ。

そして具は明太子を使っている。

米の炊き方は・・・昆布だしとこめ油、料理酒を使っていて口あたりがいい。

そしてのr


「蓮は和食が好きなのか。非常に俺の口に合うな。」


「え・・・・いやあ、そりゃ、頑張ったアルからね・・・愛しの隠の為だから・・・」



両てのひらをこちらに向けて、ブンブン振る。

照れているのだろうか。


「悪い気はしないな・・・・」


「え・・・・?」



「蓮、正直お前が俺の彼女なのかどうか、俺にその感情があるかどうかなんてわからない。でも

純粋に俺の食の好みを精通しているのはうれしい。」



「あ・・・ありがとう。」




「そして俺は一つ蓮に聞きたい事がある・・・・」



蓮の肩をつかむ。




「な・・・・人気がないからって・・・・・こんな外で・・・・だめあるよ!!」



「蓮・・・・お前は確か記憶喪失だ。そうだよな?」


「え・・・・?」


「先生からはそう聞いている。だったら。なぜ、団子、茶道、そして和食、しかも非常にいいコメの炊き方。

俺の趣味、誰にも言ったことのないコメの炊き方までできる??その辺の記憶だけあるというのは・・・・

非常に不可解だ。」




「え・・・それは・・・・。」


蓮の目が泳ぐ。




わかりやすいやつだ。





「蓮・・・・お前・・・・何者だ??」



♦♦♦♦♦♦

~蓮 視点~


「ええ!!!いやいやいや!!!!!!!!隠の彼女あるよ!?知っているに決まっているアル!」


「はっきり言う。俺はお前が彼女かどうかなんて知らない。でもな、コメの炊き方はな・・・こればかりは

俺流の炊き方でこれは俺の肉親以外知らないんだ。門外不出の炊き方なんだ。」



ええ・・・・そんなコメの炊き方なんてあるのか・・・




てか、心根家って何、おにぎり屋でもやっていたの??




「そ・・・それは隠が寝物語で教えてくれたアル!!!」


「・・・・・。」



ベッドインした際に教えた。

そういうことにしておけば・・・・



「じゃあ・・・俺のサイズ。わかるのか・・・?」




「23センチ!!!」




「・・・・そのくらいあればよかったよな。」




そんなはずはない。だって彼が記憶喪失した際に隅々まで調べたのだ。

調べさせたというのが正しいが。





(シスタ由美、違ったサイズを教えたか!!?)



そんな下ネタトークに興じたいわけではない。







「えっと・・・・・いや・・・なんというか、そんなに悪いことしているアルか??」




瞳に涙をためる。

そして両手で顔を隠すようにすすり泣くふりをする。

嗚咽を混ぜながら、なるべく泣いているいのがわかるように泣く。



指と指の間から隠の表情をうかがう。




隠は、片手を額にあてて、勘弁してくれよと言わんばかりの困った表情をしている。


これなら・・・騙せるかもしれない。








「はあ・・・・・ここまではいつも通りなのにな・・・・」



隠がよくわからないことを言っている。


「ああ・・・悪かったよ。蓮。俺だってデートに水を差したいわけではないんだ。だから、泣くのをやめて・・・・」



なんとか回避できた。




「ほんとアルか・・・?」


「ああ・・・・デートの続きしようぜ。いつまで持つか・・・・わからないからな。」



「・・・・・??」


「あ、いや、ごめん、独り言だから。大丈夫だ。俺はどんなお前でもずっとずっとそばにいるから・・・」



隠は手を握ってくる。


心臓から血液が全身に駆け巡る感覚を覚えた。


そんなバカなことがあるか。だって、相手はこの国の秘密を外国に暴こうとしている犯罪者だぞ?

顔を熱い。


こんな戦犯如きにときめいてどうするのだ。




「エっと・・・・手が痛いアル。」


「あ・・・・ごめん。」



隠が手をそっと放す。




風が吹く。

とにもかくにも、少し危うい展開であった。

隠が記憶を取り戻した際に対処するには、今はとても危険なのだ。

誰もいない校舎、校庭。

そこに二人きり。





「いやあ、、しかし蓮、料理うまくなったんだな。最初はびっくりしたよ。日本食もここまでうまくなれば・・・・そうだな。。。定食屋くらいは開けそうだぞ?」


「・・・・・え・・・・あ・・・・うん。」



隠はよくわからないことを話す。



「俺はな・・・・日本食が好きなんだ。特にコメの感じ。おにぎりとか炊き込みご飯とか・・・・なんというか味わい深いというかな。そこに味噌汁があれば・・・・・

幸せなんだ。この日本という国に生まれてよかったと心底思っているよ。」




背伸びする隠を横目に見る。

隠は笑っていた。


そう・・・・・

笑っているのだが、なんだからその笑いはうれしいから笑っている感じではなかった。

何かをあきらめたような、そうとりくろうような笑い方。




隠の言っていることがわからなかった。

隠はやはり記憶喪失だからから、それとも何か変な記憶が混じっているのかよくわからないことを発していた。



でも、もしかしたらそれは、記憶を取り戻すための鍵・・・

いやそのキーワードこそもしかしたら、鍵なのかもしれない。





このデートを通じて思い出しているのかもしれない。






♦♦♦♦♦♦


~いいんちょ視点~



「いいんちょ、以上がデートの報告よ。」


「蓮。あまり無理はしないでくれ。デートなんて我々の計画になかったことを・・・・」


「いや、、、おかげでいろいろ知れた。まずは・・・私が隠の食の好みを知っていて趣味のことを知っていることを疑ってきた。

お前は何者なのだ?と・・・・」



「それは、そうなるわよね。蓮、あなたは記憶がないのだから・・・・」




シスタ由美が割って入る。

ここは委員会室。




学校のとある場所に設置されている会議室だ。

モニターがたくさん並んでおり、隠を監視するために作られた場所だ。



「記憶がない・・・という設定であろう。言い方には気をつけてほしい・・・」


「・・・・・・・。」



シスタ由美は唇をかむようなしぐさをする。


蓮はたぶんこの意味を違う意味でとるだろう。

なんと直情的で暴力的な女だろう。

そんな風に蓮は思っているに違いない。


これまでの傾向からしても。






「まあ・・・・二人とも。それで?他に何か気になったことはなかったかしら?」


「そうだな・・・・隠がよくわからないことを言っていた。」


「それはどういうことを・・・・・・・・?」




「蓮、料理うまくなったんだな。最初はびっくりしたよ。日本食もここまでうまくなれば・・・・そうだな。。。定食屋くらいは開けそうだぞ?」



「ふむ・・・・・それで?」


「俺はな・・・・日本食が好きなんだ。特にコメの感じ。おにぎりとか炊き込みご飯とか・・・・なんというか味わい深いというかな。そこに味噌汁があれば・・・・・

幸せなんだ。この日本という国に生まれてよかったと心底思っているよ。」



「ふむ・・・・・・・・蓮はどう思った。」


「こいつは何を言っているだろうな・・・・そう思うよ。」



「確かにそうだろうな。」




「それは・・・・もしかしたら記憶を取り戻す鍵になるかもしれないわね。」




シスタ由美がまたもや割って入る。

蓮はそれを一瞥し、ため息を吐く。




「まあ・・・・そうなのかもしれないけど・・・・そうだとしたら結構なサイコパスかもしれないな・・・」


「ほほう・・・・どうしてそう思う?」


「シスタ由美・・・・お前もわからないか・・・・」



「蓮。私たちは謎かけ遊びをしているわけではないの。端的に伝えて頂戴。些細な情報のやり取りも大事なのよ。」


「はいはい・・・・いいんちょも変だと思わない?」


「・・・・・・。」


「わかったわよ。えっとね・・・隠が言っていたことで一番意味の分からないワードはね・・・」



連は間をおく。







「日本という国なんて・・・・存在しないのに・・・・それをさもあるかのように言っている記憶は少しずつ狂い始めているんじゃないかしら?

私が言いたいのはそういうこと。」





「・・・・そうかもな。」


「でしょ?全く本当に早くしないと・・・政府に処分されちゃうわね。」



「急がねばならないな・・・・。」







それだけ伝えると私は、監視部屋をあとにした。

「どこに行くのかしら?」



シスタ由美が呼び止めてくる。



「わかっているくせに。」



それだけ言い残して私は部屋をあとにした。




♦♦♦♦♦♦

12月3日


~隠 視点~


「はあ・・・・・」


放課後になり、家に帰る時間が近づく。




家はゆううつだ。


「どうした?隠?」


蓮が近づいてくる。



「いや・・・・まあ・・・放課後だしな。」


「隠はそんなに学校が好きアルか?」


「うーん・・・・今日ももうすぐ終わるなと思うとな・・・・」


「何言っているアル。夜こそ、やることが多くて大変じゃないアルか。」



「・・・・・まあな。たまには静かな夜を過ごしたいものだ。」


「そんなに・・・大変アルか??」


「・・・何がだ?」


「え・・・・いやあ・・・・私は一人暮らしだから・・特に何も静かに一人でいられるアルけど・・・・」


「ふーん。じゃあ・・・・昨日のプロレスのメインカードいえるか?」


「ええと・・・・テレビでやっていたやつアルね・・・・バニラ風間VS小山内影アル!!」


「あたりだ。」



そうリビングでいつもいつも流している、30年前のプロレスの動画だ。


それを、蓮が知っている。



「・・・・・。そろそろ帰るアルね。」



「その前にほら、いいんちょを見ろよ。一人で掃除しているぞ。手伝わないか。」


「そ・・・そうアルね・・・」



いいんちょを手伝って、毎日夜7時くらいには帰る。

これが俺らの日課だ。






♦♦♦♦♦♦


「じゃあ・・・・また明日な。」


「うん・・・・」



連はそういうとうちの隣のコンビニの下宿先へと駆け上がっていく。




「行ったな。」


「了解。」


俺はそれだけ告げると、

胸元の校章バッジの裏にあるマイクのスイッチを切った。



家のドアを開けて、今日も繰り返される、宴のことを考えながら、靴を脱いだ。






「ねえ・・・・お兄ちゃん。どうして今日も遅いの・・・・?」



ろうそくが机に置かれている。


その机には相変わらず、下着の山が積まれていた。



「由美さん、あんな下着の山の近くにろうそくがおいてあったら燃え広がってしまうのでは・・・」



「そうね、お兄ちゃん。さっさと動かさないとね。」



「あちちちちい!!!!!!!!!!」


「ああ・・・かわいそうなお兄ちゃん。その苦痛にゆがんだ顔もまた・・・・いいわあ。」



今日はろうそくを垂らす日みたいだ。


シスタ由美は今日はボンテージ姿の日なのか、鞭とろうそくを手にもち、薄気味悪い笑みを口元に

浮かべて椅子に縛られている俺を見ている。



俺は苦痛に悶えながら、窓の方に目をやる。

人影が見える。





シスタ由美が耳元でささやく。



「どこ見ているの?こちらを見ていなくてはだめよ。」



そういうと、ろうそくの火をまた垂らしてくる。



「ひいい!!!!!!」



俺が反応している間にまた、例のハードカバーに何やら書き物をさらさらしている。



そう。

見てはいけない。

見ていると思われてはいけない。

そうしなくては成りたつことない、ナイトルーティンなのだ。





♦♦♦♦♦♦


~蓮 視点~



「あちちちちい!!!!!!!!!!」


隠の悲鳴が聞こえる。

そしてろうそくの火に悶え苦しんでいる姿が見える。


この兄妹のいびつな関係を知ったのはいつからだろうか。

いや、これはこれでそういうことなのだ。



隠の記憶を取り戻す。


いいんちょ曰く、

「隠は記憶喪失の前はMだったのだ。」


「は・・・・?」


「だからMだった。今は自分がMだという認識はない。だが、人間というのは手続き記憶・・・・

まあつまるところ体で覚えていることもあるのだ・・・だから・・・・」


「だから?」


「由美には毎晩、激辛のカレーを食べさせるか、ろうそく、鞭などで隠の記憶を取り戻せるよう

手伝ってもらう。」


「は・・・・?」



由美が会議室のテーブルから乗り出す。



「な・・・・なんでカレー!!!?」


私のツッコミポイントはずれていたのか、由美はこちらを睨みつけてきた。



「なんで・・・カレーかって??由美。あなた料理はできる??」


「できるわけないだろ?ずっとこうやって・・・・仕事してんだからさ。」



「うむ・・・・そう。そうなのだ。そして、この様子を観察するのは、蓮。つまり料理を作る暇はない。」


「で・・・?」


「私しかいないだろ。私が作れるのは好物のカレーだけだ。」




カレーである必要はあるのだろうか。

決まって辛いカレー。

においは嫌でも覚える。



なんとなく・・・・懐かしい匂い。





「し・・・・しかし・・・・任務とはいえ、こうやって、他人の情事を見るのは・・・気がひけるものだ。」



隠の悲鳴が聞こえる。


今日は満月だ。





空はこんなにきれいなのに、隠にとって夜は苦痛の連続でしかないのだ。





♦♦♦♦♦♦


1月1日


「あけましておめでとう。」


「とうとう年が明けてしまったな・・・・」


「何の成果も残せないまま・・・・記憶が戻ることはない。」


「記憶喪失のまま・・・・症状が悪化することはないのでしょうか。」


「悪化か・・・・うーん・・・脳に外傷または病魔がついていればその限りではないが・・・・」


「今の状態だと記憶の現状維持にとどまっている。」


「それは・・・・この1か月のルーティンをこなしているからなんとか成り立っているのものなのか?」



「・・・・・それはありうる。」


「だとしたら・・・!!!あと何回これをしなくてはいけないのだ!!!」


「・・・・・」




既に記憶喪失が起こり、記憶の再生の為に奔走して1年がたってしまった。

次第に同じことの繰り返し、見えない成果、永遠に続く時間・・・・



そんなことをしていると人間の心は崩壊してしまうのは・・・・目に見えてのことであった。



♦♦♦♦♦♦


1月1日


「隠ぃぃぃ!!!!!!!!!会いたかったアル!!」


何回目だ。



「えっと・・・・心根くん。感動の再会は構わないのだけども・・・・ホームルームなのよ。」


「いや、いいんちょ。俺じゃなくて、この中華系女子もとい転校生が勝手に抱き着いてきているのであって。」



「そんな言い訳認めないわ。いったいこの子とどういう関係なのかしら?」


「どういうも何も・・・」


「あなたにとっては記憶がないのかもしれないけど・・・・この子にとっては異国からきて・・・

そして久しぶりに再会を果たした恋人なのよ!?」


「いや・・・・だから知らんて。人違いでは・・・?」



「うーん、隠ぃい・・・・会いたかったアルよお・・・・」




こんな脚本と化したありきたりな寸劇をいつまでやらないといけない。




「転校生の蓮だが、諸々事情があって、記憶喪失をしている状況だ。だから

どんな些細な情報でもいい。彼女のことを知っているものがいたら先生まで報告するように。」




その言葉をかみしめる。

些細なことでも・・・・些細なことでも思い出してさえくれれば。




それだけでうれしいのに。





この後の学校での食事も、

放課後のことも。



夜の繰り返される情景もすべて。



リビングでいつもいつも流している、30年前のプロレスの動画も。

コメの炊き方も、、、

何度も繰り返したであろう抹茶のたてかたも。

辛いカレーも。






すべて・・・

すべて・・・君との思い出にすらないのか・・・














「蓮・・・・・」



院長先生に聞いた。




「日本という国なんて・・・・存在しないのに・・・・それをさもあるかのように言っている記憶は少しずつ狂い始めているんじゃないかしら?

私が言いたいのはそういうこと。」




彼女の中では、あくまで俺はどこかの国のスパイであり、それをとらえようとしている

政府のエージェントである。





その中二病みたいな設定の君も。

そういって、チャイナドレスのコスプレをする君も。

たまに辛いカレーを作って俺にふるまってくれる君も。

カレーは苦手なくせにコメの炊き方は一流な君も・・・・・



全部全部好きなのに・・・・・







それでも君は俺を「ただもスパイ」としか見てくれない。





そんな悲しみにくれている、シスター由美は慰めてくれた。






蓮がいなくなれば、俺はシスター由美に懺悔した。





「どうして・・・・俺はもっと・・・もっと・・・・頑張らないといけないのに・・・・」



シスター由美は自分の役割をこなしながら、罪深い俺を慰めてくれた。

夜通し俺の懺悔を、そして蓮の記憶の再生を一緒に祈ってくれた。



「じゃあ・・・・そろそろ蓮が来るから・・・・」


そう言って、衣服を脱ぎ、必死に蓮に思い出させようとしていた。





「蓮には嫉妬の感情があったはずだ。」


院長先生の助言に基づき、同衾しているかのように見せる。


ショックが大きければ大きいほどいい。

だから同衾。




俺だって、男だ。

男だからシスターと同衾してどうにかなりそうになる精神を

なんとか保っていた。


それは・・・・蓮を裏切れないという俺の信念がそうさせた。





だからここまでしても。

こんな箱庭で同じ役者を演じ続けることに疲れてしまったのかもしれない。






蓮の記憶がなくなってから1年という歳月は俺の精神を壊すのに、十分な時間であった。



治療費用もばかにならない。

保険適用がきくのはあと2か月。


あと2か月で蓮の記憶が戻らないのであれば・・・・俺の経済状況では彼女を救うことができない。


♦♦♦♦♦♦



まだ結果が出ない。


それに苛立ちを感じる。



「えっと・・・・心根くん。感動の再会は構わないのだけども・・・・ホームルームなのよ。」


「いや、いいんちょ。俺じゃなくて、この中華系女子もとい転校生が勝手に抱き着いてきているのであって。」



「そんな言い訳認めないわ。いったいこの子とどういう関係なのかしら?」


「どういうも何も・・・」


「あなたにとっては記憶がないのかもしれないけど・・・・この子にとっては異国からきて・・・

そして久しぶりに再会を果たした恋人なのよ!?」


「いや・・・・だから知らんて。人違いでは・・・?」



「うーん、隠ぃい・・・・会いたかったアルよお・・・・」


歯がゆい糞みたいなセリフ。



たかだかスパイである隠の記憶を再生して、政府の機密情報にアクセスする。



その為だけに自分の女という武器を晒して・・・・

他の女との情事をのぞき見して、嫉妬深い女を演じる。




そして、普通にコメを炊いて、抹茶を作り、デートをして・・・・

こんな箱庭で何が楽しいのか・・・



仕事でなければ気が狂う。

いやすでに気が狂った。



そこに来て、委員長から言われた衝撃的な言葉。





「年度内に決着をつけないのであれば・・・・私たちは‘‘処分‘‘である。」





年が明けた。

私たちが後3か月以内に、、、

記憶を再生できなければ・・・・・




この箱庭を繰り返している意味もすべて無に帰するのである。





♦♦♦♦♦♦





1月2日




隠視点






時間がない。


蓮は未だに自分をスパイだと思っている。




『隠!おはようアル!』




『・・・何しにきたのよ、泥棒猫。』




シスター由美が俺の腕に絡み、蓮をゴミを見るように睨む。






『お前こそ、何アル!ただの妹のくせに、、、』






これも芝居。




ため息をつく。


この芝居はいつまで続くのか。


蓮とシスター由美の言い合いは続く。




なんだか滑稽だ。


シスター由美も蓮も恋心はないのだ。


ドラマの主人公役はこんな心境か。




主人公ならまだ。


いつか終わるこの役を全うすればいいだけ。


俺にはいつかがない。




ドラマのようにハッピーエンドもない。


あるのはただ後2ヶ月で、蓮の治療が出来なくなるその残酷な事実だけ。




俺はもう、脚本から降りたくなったのだろう。








気がつけば、


シスター由美を突き飛ばし、蓮を思いきり


抱きしめていた。








『は・・・か、隠・・・?』






蓮はあっけにとられている。


俺は優しくでも強く抱き寄せる。






シスター由美が、あれはそう憐憫の眼差しというのが正しいのだろう。






『蓮・・・俺は・・・俺は!!!』






ドン!




ふわりと体が離れる。








俺の体を突き飛ばしたのは、


俺の最愛の、


俺の恋人だった。










♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


蓮 視点




『待って!!蓮!』






突き飛ばしてすぐ、私は走り出していた。


私を追ってきたのは、隠じゃない。






『バカかよ、、、』






シスタ由美が私を追いかけてくる。






『待ちなさい!』






学校とは正反対の道。


気がつくと、住宅街を抜けて、道も何も無い、宇宙船の床のようなフローリングが敷かれている空間に出た。






違和感を感じた。


私はあゆみを止めて、息を整えた。












『ここは、、、何?』




いきなり住宅街から宇宙船のような空間。


空を見上げると、漆黒の空間が広がる。




黒い。




しかし、何かに見られているような不思議な感覚。










『誰・・・?』










『蓮。』




めまいを覚える。






『蓮。』




そんな、私のいた世界はどこに?




『蓮、帰るわよ。』




『由美、これは、、、』




『帰るわよ。』




『いったい!!』




『あなたは、、、』




『由美!』














『私達は所詮、幻に過ぎないのよ。』






由美はそれだけ言い残して、私の腕を引っ張る。






箱庭に過ぎないはずだった。


その為に没入した世界のはずだった。




『どういうこと、、、、』


由美は何も答えない。




『私はただ、隠の記憶を引き出す為にこの箱庭でセッションを繰り返しているだけのはず、、』



『だとしたら何だというの。』


『だから、そうして国家機密のパスワードを解いて国に貢献するの。そうすれば、富も名声も得られる。』


『富と名声ね、、この世界にそんなものは必要がないものだと思うけども、、』



由美は静かに顔を伏せる。


富と名声が必要がない世界。




『富はあれば、あるほうがいいでしょうよ。』


『それは、、、それが必要とされた頃にはあったのよ。。』


『は・・・?』


『とにかくあなたは、、、隠の記憶を取り戻すことね。』


『それは、やるさ。国が救われる。』


『・・・救われるのは、、、はあ・・・あなた達のこれからよ。』




なんとなく要領を得ない。



『この話はやめましょう。蓮、あなたはあなたのミッションをこなす。やることはただそれだけよ。』



『言われなくても、、やるわ。』




ここまで平行線になる、会話はなかった。




♦♦♦♦♦♦


「委員長。失礼します。」


「何かしら?」




監視ルームに入る。


委員長は基本的にこちらの部屋で隠の監視を行っているようだった。





何個もあるスクリーンを一人で監視している。

監視漏れが出てきそうなくらいの数を一人で把握しているのだろうか?


委員長くらいの能力なら朝飯前なのだろう。





「少し伺いしたいことがあって・・・・。」



「なにかしら?」


「えっと・・・・わたしたちは・・・・隠の記憶を取り戻して、国家機密のファイルを開く。これが私らのミッションですよね?」


「そうね。」


「そのために・・・この箱庭は用意された。」


「そうよ。だから・・・」


「デートコースも学校という非常に不自然なコースになった。」


「そうよ。」


「箱庭の外は・・・・どうなってますか??」



「そんなことあなたは知っているでしょ・・・」





委員長がハンカチを取り出して額をぬぐう。


「そうだったら・・・・よかったです。」


「何を言いたいの?」


「いえ、ただ私もこの任務に疲れてしまったのか・・・・よく覚えていないのんです。」


「覚えていないとは・・・?」



「この箱庭に来る前・・・・」



「ここに来たのは・・・心根くんの記憶を取り戻すためでしょう・・・・」


「委員長。私はそんなことを聞いているんじゃないんです。」




「ちょっと!!蓮!!」


そこに由美が来る。



「あら?なんでここがわかった・・・・」


「なんで夜の任務を放り出してきているの!!こんなことじゃ、心根の記憶は・・・・」



肩をつかむ由美を振り払う。




「委員長、この箱庭の外に関して私は何も知りません。外はどうなっているんですか??」



「・・・・・・」




委員長は黙っている。



「夜の任務を放り出して・・・・なんの質問をしに来ているのかしら・・・」


「委員長こそ、任務はこなせているのですか?」


「何を・・・・・?」


「蓮!!委員長に対して・・・・失礼な!!」


「だって、、しっかり監視できているのであれば・・・・私がこうやってここに来ることだって!!わかったはず!!どうして!?なんでここには委員長しかいないんですか?

無理でしょう!!私らはここに来る前に・・・・何かあったんじゃないですか!!???」






「任務に・・・戻りなさい・・・蓮・・・・お願い・・・・・」



委員長は爪を噛み始める。


爪を噛む・・・・?なんだろうか、、既視感を感じた。



「委員長!!」


「・・・!!!」



「蓮!!戻りなさい!!」



「いやだ!!!}


「命令よ・・・戻りなさい。シスタ由美と・・・夜の任務に。」




委員長は有無を言わさないといわんばかりに睨みつけて指示を出す。




「ひ・・・・。ごめんなさい!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!」


「謝らないで。蓮・・・・早く戻りなさい・・・・」





なんだろうか。

記憶ではない。

いや、手続き記憶。

体が覚えている。


これは・・・幼いころからの・・・恐れだ。

昔もこうやって・・・・


怒られた・・・・ような気がする。

でも・・なんだろう。恐れはあるが。じんわりと体の芯が温まるような感覚。




「行くわよ・・・蓮。」


由美に腕を引っ張られる。




夜の任務に連れていかれた。





♦♦♦♦♦♦


~隠 視点~



今日はとびきり辛いカレーだった。

記憶を飛ばすくらいに辛く、倒れた。




目を覚ますと月明りがカーテンから俺の顔を照らしていた。


「ああ・・・・うう・・・・」




腹がぎゅるぎゅる鳴る。


「ああ・・・・トイレに行かないと・・・・」




起きてすぐトイレに駆け込む。

「今日は・・・いつもよりひどいな・・・・」



トイレに駆け込むくらいの辛さは初めてだった。




「なんで・・・・今日はこんな辛いのだろう・・・シスター・・・俺を殺す気だろうか。」



トイレから出る。



どのくらいいただろうか。

1時間・・・いや2時間ほどか。




「はあ・・・・。」


ベッドに入る。


何だかいつもより冷たい。


「シスターはどこに行ったのだろうか・・・・」


いつもなら、同衾している時間のはずだ。



だが、いない。


カーテンの方を見る。

いつもはいる、蓮もいない。




「・・・・なんでだろうか・・・」



部屋を見わたす。

そういや、こっちに来てからあまりこの箱庭に作られた我が家をあまり見わたすことはなかった。




机の方を見る。


「あ・・・・」



シスターの衣服が積み重なっている。

脱ぎかけのものも中にはある。


見てはならないようなものな気がした。




「下着とかあったら・・・ちょっとまずいよな・・・・」


下着があるのは知っている。

机の本来の用途ではない。

そんな机。




蓮に俺への恋心があると思い出してもらうために、同衾こそしているが

肌にも触れないし、下着を見るなんてとんでもない。




ただ・・・・今日は誰もいない。

誰もいないのだ。





ゴクリ・・・・

つばを飲み込む音がだけが体内を支配する。

いつも同衾している女性の下着を見るだけだ。


机に座って何かこう、勉強するふりでもしておけば・・・万が一戻ってきても問題はないはずだ。



「俺も・・・・思春期の男なのだ。」



同衾している女性に手を出さないこの理性をほめてほしい。

だから下着くらい・・・・・




机に座って衣服をどかすようなしぐさをしながら、ちらりと見る。





「うん・・・・??」




黒いレースの下着、紫、赤・・・色とりどりの下着がある。


しかし気になったのはそれだけではなかった。





その下着に隠されているように、

重なっている下着の下に何か、角ばっているものがある。




「本・・・・・?」



分厚いハードカバーに包まれているの表紙には

「DIARY」とだけ書かれているものが出てきた。





開いてはいけない。

だけども。



そりゃあ・・・気になる。

どんなことが書かれているのだろうか。








辛さにやられていたからかもしれない。

一途に蓮を思っていた俺は、少しいつも同衾している女性が何を考えているのかくらいは気になっていたのだ。






ブックカバーに手をかけてに「DIARY」を読み始めた。




DIARY






1月1日




始まった。


記憶を取り戻す作業。




最愛の家族の為に、私ができることは


やらなくてはならない。




1月2日




大まかな脚本通りの展開ではある。


思い出してくれたら、とびきりのカレーを


ごちそうしてあげたい。




1月10日




はじめてから10日。


蓮への愛の深さを感じる。


彼なら蓮を任せることができるかもしれない。






2月1日




また全てがリセットされた。


恋人を助けたい、パスコードを思い出して欲しい。2人の思惑は違うが、向かうゴールは一緒であって欲しい。




3月1日




また、記憶がリセットされた。


積み上げを再びはじめなくてはならない。


いつまでもつかわからない。


だからこそ、来月こそは。




4月1日




ミッションは難航している。


この世界に残された時間が姉さんから言い渡された。次の桜は見れない。






8月1日




この4ヶ月。


私と姉さんの心は壊れていった。


蓮と同衾しなさい。


それに同意した私はどうせまたリセットされるのだからと言って、手を出した。


そのくらい切羽詰まっていた。


でもどうせ記憶は壊されるから。






9月1日




あらゆる欲は乾いた。


私と姉さんは半ば諦めている。


しかし私らがいなくなったら2人はどうなるのだ。


世界はもう枯れている。


助けて合わなくては生きていけない。


桜が咲くまでに、決めなければならない。




2人は箱庭が壊れた時、放り出される。


姉さんはなんでこんな中途半端な箱庭を作ったのだろう。




どうせなら、












永遠にこの箱庭が続けば、ずっとみんなで


居られるのに。














♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




蓮 視点






『意味がわからない!なんでよ!何で、記憶がないの!箱庭に来る前!私は何してたの!』




『蓮・・・・。お願いだから落ちついて。』




『これが落ちつけるわけないじゃ無い!』






私はどこから来たのだ。


なんとなく隠の記憶をもとに戻すって思いながらやっていたけど、、






そもそも私はどこから来て、なぜ今知りもしない国のエージェントをやっている。






『由美!あなたは、日本という国は知ってるわね!??』




『え・・・あ・・・まあ。』






『そこはどこなの!なんの国!?私はそれとどう関係してるのっ!!』




『・・・・っ。。』






由美は拳を握りしめて、歯を噛むようにしながら震えている。






『ねえっ!何を知ってるのっ!!』




『蓮!お願いっ!そうやって、そうやって!お姉ちゃんを困らせないでよっ!!』






『は・・・?お姉ちゃん??』




由美はかっと目を開き、こちらを見る。




片目を掌で覆う。








『く・・・・ああああああ!!』






『由美!』




由美は自分の家へと駆けていく。


こちらを見ずに、逃げるように。






『待ちなさいよ!!』




玄関を力任せに開けるとすぐ閉める。








私は由美を追いかけて、ドアを何度も何度も叩く。






『どういうことよ!!開けなさい!由美!』








♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




隠 視点






『シスター。』




シスター由美が玄関の前で硬直していた。


俺は片手にDIARYを持って立ち尽くす。








『お兄ちゃん・・・・それ、読んだの?』




由美は目をガッと開き、こちらを力無く見ている。






『ああ見たよ。』




『なんで、、、なんで!!机は触るなって!!』




『仕方ないだろ。あんなものを机に置かれてたら・・・・。』






『やっぱり・・・私をそういう風な目で、、、』






『違うだろ。俺をそういう風に・・・』




『うるさい!あなたに何がわかる!何度も何度もやっても!何も上手くいかなくて!いいじゃない!一度や二度くらい!!あなた達はまだ大丈夫だけど、、、次の桜が咲くまでに私と、、、お姉ちゃんは・・・。』






チクン!!




視界が突然揺れる。






ぐわんぐわんと気がつくと


天井が視界を占有していた。






ああ倒れたのだな。






うとうとと、眠気が全身を支配していく。




『や、、め、、、、ろ。』








揺れる視界の中で泣き叫ぶ由美の側にもう一つの影が立ち尽くす。




由美は突き飛ばされていた。












俺はそのまま意識を消失した。









♦♦♦♦♦♦


~? 視点~


1月1日



「会いたかったアル!!かくし!!」



青を基調とした生地にラメやら模様やら入っているチャイナドレス。

服の上からもわかる女性らしい凹凸。

それでいて、スリッドが腰骨あたりまで入っており、下着が見えそうだ。

髪型は両脇をお団子のようにして結わえている。




季節は秋。

紅葉が散りゆく中、転校生とは珍しい。

しかも、この日本ではなくおそらく中華圏から来たであろう服装と話し方。




「アル。」なんてはっきり言ってステレオタイプの中の中華系女子が使う。





「えっと・・・・心根くん。感動の再会は構わないのだけども・・・・ホームルームなのよ。」


「いや、いいんちょ。俺じゃなくて、この中華系女子もとい転校生が勝手に抱き着いてきているのであって。」



「そんな言い訳認めないわ。いったいこの子とどういう関係なのかしら?」


「どういうも何も・・・」


「あなたにとっては記憶がないのかもしれないけど・・・・この子にとっては異国からきて・・・

そして久しぶりに再会を果たした恋人なのよ!?」


「いや・・・・だから知らんて。人違いでは・・・?」



「うーん、隠ぃい・・・・会いたかったアルよお・・・・」








チャイナドレス姿のりん 田林でんりんと名乗る転校生。






教壇に立つ先生はこちらを一瞥して教室中に宣言するように話す。




「転校生の蓮だが、諸々事情があって、記憶喪失をしている状況だ。だから

どんな些細な情報でもいい。彼女のことを知っているものがいたら先生まで報告するように。」



クラスメイト達は「はーい。」とやる気のない感じで返事をする。








「隠!これからよろしくアル!!」


「うん・・・・ああ・・・。」







♦♦♦♦♦♦

1月2。

夜。


辛いカレーを食べている隠。

それを眺める、由美。

覗きみる、蓮。


心根の家を出る。



家を出ると、学校にいく道と正反対の道がある。




ビキビキと音がする。

空間にノイズ走るようなそんな音。




「この箱庭ももう限界か・・・・」


そりゃそうだ。


間に合わせで作ったこの箱庭では、1年持ったのも奇跡だ。

12月の自分の決断は正しかったのだろうか。

もしかしたら記憶を取り戻せたかもしれない。



でも私らのことを思い出してほしいわけではなかった。

私たちを忘れて二人のことだけ、覚えておいてもらう。


それはあまりにも都合がよすぎるだろうか。




難しいミッションだ。

でもそうでなければこの先は難しいだろう。






だから、

私たちのことは忘れてもらって・・・・







そう思っていた。


私の前に彼らはいた・・・・






「委員長。いや、姉さん。」






「・・・・れ・・・ん。」




蓮とその恋人、隠。

そして蓮の姉の由美。





「なんで・・・蓮。そんな・・・・まだ1月1日。記憶は・・・・・?」



「記憶は・・・・残念ながら戻ってない・・・みたい。」


「だったら・・・どうして・・・・」




隠が紙切れを1枚出す。


「12月に・・・由美のDIARYを見たときに、、すべてのことをここに書いた。」



「それでも・・・その紙切れに書いた・・・という記憶そのものがなくなるのだから・・・

その紙を探すのも無理だろう!!」



私は息があがる。

過呼吸気味だ。





1か月で蓮も隠も記憶を失うのに。

その症状が緩和されたわけでもないのに。



「1か月経っても。誰にも見つからることがなく、目に入れられるところに置いておけばいい。」


「・・・そんなところ・・・・どこに・・・」





「蓮は・・・下宿先を俺に紹介する際にスマホを取り出す。」


「だから・・・何・・・?」



「メモしたものを写真にとってスケジュールに入れて、1か月後に通知が来るようにすれば・・・・

記憶は戻らなくとも・・・・」



「あ・・・・・」



そんなところに仕掛けておいたのか。




「なあ・・・いいんちょ。そこまでしてなんで俺らに隠していたんだ?お前らと蓮が・・・・」


「うるさい!!」


「姉妹だということを。」



「そんなことを知ってどうなる!?意味がない!!」


「そして・・・・俺と蓮、どちらかが記憶を失っているのではなく・・・俺も蓮も記憶が抜けている部分がある。」




「うるさい!!」



「蓮は俺と蓮が本当に恋人であること。そして、俺は本当に情報を国から奪ったスパイであること。」



うるさい。


「すなわち、俺はたぶん蓮とは恋人だったが国を裏切った。でもなんでだ?由美といいんちょはなぜ、

その記憶を再生しようとする?」



「・・・・それはあんたたちしかいないからよ。」


「は・・・?」



「もう必要ないわね。由美。役割は・・・・」


「姉さん・・・・」


「うん・・・二人ともきてちょうだい。すべてを話すわ。」



♦♦♦♦♦♦


~隠 視点~




そこは、夜の学校。

明かりがつけられる。



教室に入る。

その教室は視聴覚室と書かれているが・・・中身はいつか見たロボットアニメの司令官室のように

無数のモニターがあり薄暗い感じの機械的な部屋だ。



いるのは俺らだけで、それこそありがちな部下みたいなのは一切いない。





「ここでね。1年くらいかな。あなたたちの記憶が戻らないかずっとずっと挑戦してきたわ。でも

結局戻らなかった。蓮だって実感ないでしょ?心根くんがあなたの彼氏だってこと。」


「うん・・・・」


「でもそれは本当のお話。心根くんも。自分が国のスパイだってこと、、」


「ああ・・・」


「それで・・・恋人なんてね。でもそれも本当。だって・・・・蓮は一つだけ。心根くんの彼女だったころの

名残があるわ。」


「それはどういう・・・・?」


「だって・・・蓮は最初から何があっても。心根くんのことを‘隠‘って名前で呼ぶじゃない。」


「え・・・・そんなことだけで・・・」


「そういったものが大事なのよ。好きあってもない人間同士が名前で呼ぶわけないじゃない。」



なんてこった。



「だからね。それだけでも・・・それだけでも・・・蓮の記憶がよみがえる可能性に期待したわ。」



院長先生は眼鏡をはずす。




「でもだめだった。蓮・・・あなた今でも隠くんの記憶がよみがえったら国に引き渡そうと思っているでしょ?」


「うん・・・・。」



「でも私は伝えたと思うわ。富も名声も意味のない世界に私たちはいるの。だからあなたのその行動は

意味をなさい。」



「だったら姉さんはなんで隠の記憶を取り戻そうとしたの!!???」



「・・・・そういったものをすべて受け入れて・・・・それで二人で生きていってほしい。そう思ったから。」



「二人でって・・・・どういう・・・・?」




空間にまたもやノイズが走るような音がする。




バチバチバチとそれはかなり空間が歪んでいくような・・・音。





周りの機械から電気が走る。

バチバチバチと壊れていく音。



「ここは・・・・もう終わり。あなたたちは何もない世界で二人で生きていってほしいの・・・。」



院長先生は、おさげを解く。


はらりと解かれた髪は蓮と同じでとてもきれいだった・・・・。





「由美・・・・蓮にお別れを・・・・」


「由美姉さん・・・・?」


「ごめんね、蓮。私は罪深いと思うわ。でもね、お願いすべてを受け入れて・・・・二人で生きていって。」



由美は蓮をきつく抱きしめると、すっと体を離す。












空間がノイズだらけになる。

壊れかけのTVが映らなくなっていくように・・・


視界が歪んで、

世界は一気に暗闇へと落ちた。













♦♦♦♦♦♦


目を開ける。

「う・・・・うん??」


空が見える。

太陽が煌々と顔を照らす。



起き上がるとそこは、あたりは枯れた大地が広がっていた。


俺はカプセルのようなものに入れられていた。



「蓮は・・・・?」



カプセルから出る。




隣に同じようなカプセルがある。





「蓮!!!」


「う・・・・か・・・隠・・・・。」




蓮を抱き上げる。



「ここは・・・・」


「わからない。何もないな・・・・」





少し先に見えるのは、荒廃したビル群。

その周りは枯れた大地。



水も緑も何もない・・・・




「くっ・・・・!!!」


蓮が身構える。


記憶はない。

お互い、ここに来る前の記憶はないのだ。

だが、蓮は俺を敵とみなしている。


俺は蓮を恋人だと思っているが、失われている記憶の中には・・・・敵対する国のスパイという

役回りもあったのだ。





だから・・・・仕方ない。

蓮に俺を受け入れてもらうなんてことは都合の良すぎる事実であった。


だが・・・・・冷静に話し合う必要はあった。




「なあ・・・蓮。俺らはいきなり何もない空間に放り出された。どうやらこの世界は俺ら以外誰もいない。

だとしたら、お互いの記憶が補完されるまでは・・・助け合わないといけないのだと思う。」



「くっ・・・・・そんなことは私でもわかる・・・・。」



「いいんちょと由美がお前と姉妹だという事実すらも受け入れがたい・・・が事実なのかもしれない。」


「ああ・・・・」



「そして、今あの二人はいない。」


「うん。」


「それはどうしてなんだろうか??」


「わからない・・・・」


「それの理由を探すのと、この世界について探索する必要がある。だからそれまでは同盟・・・ということで

行動を共にした方がいいと感じている。」



「そう・・・だな。」





蓮は構えを解く。




どこまでも続く道。

二人しかいない世界。

この世界ですべてを受け入れて生きていかなくてはいけない。




それは過去がどうであろうとこれからどう生きるか、それが大事なのだろうと思う。









そういう風に蓮に思ってもらえるのであれば・・・・


蓮は俺の罪を許してくれるだろうか。










どうなのだろうか。


そもそも蓮には姉妹なんていたのだろうか。






カプセルを見る。






「made by kakushi kokorone」







ああ・・・・俺が作った。

だとしたら、この事実は伏せた方がいいのかもしれない。



蓮をこのカプセルに押し込めなくてはいけない事情があったこと。

記憶喪失であることを植え付けなくてはいけなかったこと。



この世界に二人しかいない男女。

そういったものを俺自身が作りたかっただけなのだろうか。



一つ言えることがある。





なぜかチャイナドレスをいつも着ている転校生は僕の恋人を名乗る、記憶喪失なかわいそうな子だった。




そのことは事実であった。

そうでなければ、こんな荒廃した世界に俺みたいな人間といることなく、命を終えられたのだから。





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