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其の三

それでは、なろう系とはどのような作品をさしているのでしょうか。

ここでは、いわゆるなろうテンプレートを使用した作品と、定義することにします。なろう系テンプレートとは、ここでいう表層の物語を構成するためのシステムということになります。ただ、なろうテンプレートが重要であるのは、主人公をそこから逸脱した存在として定義する機能を持っていることになります。

例えば、表層のシステム内では勇者や聖女といった再コード化された英雄たちが登場することになりますが、それら再コード化された英雄は表層のシステムの物語を駆動する装置としては機能します。しかしそれらの装置が主人公の領域に触れることは、無いのです。

なろうテンプレは表層の物語が届かない領域が存在することを示すためだけに、機能することになります。この構造は、なろう主人公と指輪物語におけるフロドの位置づけと構造類型をとりうるものだと考えています。

ただ、なろう系の物語は指輪物語のように二重構造を、もってはいません。トールキンは注意深く周到にフロドをアンチヒーローとして造型しています。なろう系の主人公はフロドを、符号逆転させています。彼らはアンチヒーローというよりは、ハイパーヒーローというべきでしょうか。ゆえに物語外にいながら、物語を駆動する装置としても役割を担います。時として、彼らは表層のシステムを破壊することになりますが、そのことは彼らの持つ領域に触れることはないのです。表層におけるあらゆる虐殺、絶望、苦悩、喜び、快楽も、彼らの持つ固有領域には届かないのです。

では、フロドやなろう系主人公は、深層のメタファーなのでしょうか。

彼らには、そのような役割は与えられていません。ファンタジーにおいて深層は比喩的な形においても、登場することはないかと思えます。

深層は、とどかぬ領域ですらないのです。表層の物語は破壊されたとしても、そこからなにも露呈せずただ破壊された地点からさらに表層が続くことを示すにすぎません。指輪物語やなろう系はそこに届かない領域が厳然としてあるのだという事実のみを暗喩しますが、それが何ものであるかについて明示的にも暗喩的にも語られることはありません。

それらは、ただヴェイユの不在神学において神が存在の一片たりともこの世に顕現させないことと同様に、一片たりとも物語に関わることはありえません。

では、なぜこのような物語の中にとどかない領域をもった作品群が、現代において蘇ったのでしょうか。そこについては、語るべきことをわたしは持っていません。


それでは最後に、指輪物語以降のヒロイックファンタジーについても少しだけ言及しておこうかと思います。

マイケル・ムアコックがエルリックシリーズの最初の作品「夢見る都」を発表したのは、1961年のことになります。ムアコックはおそらくハワードのコナンを裏返したような主人公を、造型したのではないかと思われます。

ムアコックのエルリックシリーズは、指輪物語となろう系を繋ぐミッシリングリングのように思えます。ムアコックの作り上げたエターナルチャンピオンというシステムは、なろう系のテンプレートのように働きます。

それは有る意味物語を駆動するシステムとはなりますが、そこで駆動される物語は必ずしも主人公の本質へとは到達するものではないのです。

決して主人公はなろう系のように届かない領域を持つ訳では、ありません。むしろそのような届かない領域こそ、エターナルチャンピオンたちの憧れる世界なのだと言えます。

おそらくムアコックはなろう系まであと数歩というところまでは来ていたのではないかと、思えます。けれども最終的に指輪物語がその正当な後継を得るまでには、随分と長い時間が必要とされました。



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