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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第三話 混沌を呼ぶ異世界の門
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第3話-13.質屋の店主、敗北する

 マレクの視線はフィオナに向けられていた。

 落ち着き払っていた先程までとは別人のように呼吸が荒く、目も血走っている。

 明らかに様子がおかいい。


「フィオナは人間です」


 トワルは左手を横に伸ばしフィオナを遮るように立った。

 フィオナも怯えの色を浮かべながらトワルの背後に隠れる。


「嘘を付け。そんな気味の悪い物のどこが人間なんだ」


 フィオナを侮辱されてトワルは頭に血が上った。


「黙れ。フィオナはれっきとした人間だ」

「と、トワル、落ち着いて……私、別に気にしてないから……」

「埒が明かないな。いいからその女を渡せ。そんな物を持っていたら君のためにもならないぞ」

「誰が渡すか。それ以上近付くな」


 トワルはそう言いながらフィオナとともに後退した。

 室内には何もない。手持ちの物で武器に使えそうなのはラニウス遺跡で使うかもしれないと懐に入れていた『魔封じの札』――古代文明の遺産を無力化できる札が数枚だけ。心許ないというレベルではないがこれでなんとか凌ぐしかない。

 トワルたちが抵抗の姿勢を示すとマレクはうんざりしたというように首を振った。


「やれやれ。手荒なことはしたくないんだけどな」

「なら諦めてくれませんかね」

「そういう訳にはいかない。それはひょっとすると僕が求める物の鍵になるかもしれないんだ」


 そう言うとマレクは片手をトワルのほうへ向けた。


「君は僕の弟弟子だったな」

「ええ、そうですが」

「なら手加減はいらないな」


 トワルは身構えた。何をするつもりかわからないが、隙を突いて接近できれば封印の札で無力化できるかもしれない。

 しかしトワルはそんな認識の甘さを思い知ることになった。


「ラニウスのコアを使えばこういうこともできるんだよ」


 マレクはトワルに向けた手首を軽く振り降ろした。

 同時にゴトンとトワルのすぐ傍で音がした。


「……え?」


 トワルは目を疑った。

 足元に何かが落ちていた。

 腕。

 トワルの左腕だ。


「―――ッ!」


 腕を切り落とされたのだと認識した途端、トワルはこれまで経験したことのない激痛に襲われた。

 声も出せず口をぱくぱくさせながら、傷口を押さえてその場にうずくまる。


「トワル!」


 フィオナが真っ青な顔でトワルの身体を支えた。

 トワルは痛み以上に混乱していた。

 何をされたのかわからなかった。

 それでも必死にマレクへ目を向ける。


「安心してくれ、君の腕を本当に切り落としたわけじゃない。ラニウスの力で君の肩の辺りの空間を切断したんだ。まあ切れていないだけで相応の痛みはあるだろうけどね」


 トワルは脂汗を流しながら落ちている自分の腕を見た。

 言われてみれば切断面からは血が全く出ていなかった。左腕は床に触れている感覚があるし、指も思い通りに動く。

 原理はわからないが物理的に離れているだけでこの腕は確かにまだ自分の身体と繋がっているようだ。


「トワルと元に戻して!」


 フィオナが叫んだ。

 だがマレクは冷ややかに言う。


「君がこちらへ来れば戻してあげるよ」

「………ッ!」


 フィオナは狼狽えた様子でトワルとマレクの間に視線を彷徨わせる。

 トワルは歯を食い縛りながら頭を上げた。


「フィオナ、大丈夫だ。あいつの言うことなんて聞かなくていい」

「で、でも……」

「驚いたな。まだ強がりを言えるとはなかなか根性がある」


 トワルは無理やり口端を上げて笑みを作った。


「こういう実験台をするのは我らが師匠のお陰で慣れてますからね。なんならあと二、三本切って貰っても構いませんよ」

「なるほどそれは厄介だな。だが残念、時間切れだ。そこのお嬢さんの解析は終わったよ」

「え?」


 フィオナが怪訝な顔をする。

 何かされたのかと思ったが特に変わった様子はない。

 だが次の瞬間――体中に亀裂が走り、フィオナは光の破片となって粉々に弾け飛んだ。


「な……!?」


 フィオナが付けていた青いブレスレットが宙を舞い、床に転がる。

 トワルは愕然としたままそのブレスレットを見つめた。。


「なるほど、イリストヘルの霊石か。盲点だったな。こういう使い方ができたとは」

「フィオナに何をした」

「ちょっと機能を制限しただけさ。持ち運ぶのに邪魔だからね。それで本体の霊石はその首に掛けている小袋の中のようだね。すまないが渡して貰えないか。僕にはそれが必要なんだ」

「ふざけるな! 誰が渡すもんか!」

「悪いが君に拒否権はないよ」


 マレクは手を横に振った。

 トワルの視界がぐるんと回転し、やがて真っ暗になった。


 首を切り落とされたのだ。

 そう気付いた時には既にトワルは意識を失っていた。

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