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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第三話 混沌を呼ぶ異世界の門
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第3話-11.質屋の店主、授業を終える

 ふと気が付くと視界が明るくなり、普通の部屋に戻っていた。

 いつからそこにいたのかユメスも目の前に立っている。


「以上が私たちの歴史よ。三分間お疲れさまでした」

「え、三分?」


 フィオナが目を丸くする。

 トワルも同じ感想だった。てっきり一時間以上話を聞いていた感覚だったのだが……。

 そう思って入口の扉の時計に目をやると、確かにここへ入った時からほとんど時間は過ぎていなかった。

 あれだけの情報をたったの三分で頭に入れてしまったのか。学習装置というだけのことはある。


「それでは続けてで悪いけど、本題について話させてもらうわね」


 ユメスがポンと両手を合わせる。

 トワルはそんなユメスを探るように見つめた。

 創造主たちを異世界へ送り出し、自害する権利を与えられた上で千年以上の間その帰りを待ち続けた人工知能。

 どんな思いでこの千年以上を過ごしてきたのだろう。

 自分たちに感情は無いと言っていたが、本当なのだろうか。

 こんなことをトワルが考えても仕方ないのはわかっているのだが……。

 トワルがそんな事を考えていると、ユメスは不思議そうな顔をした。


「どうしたの? もしあまり疲れているなら休憩時間を取りましょうか?」

「あ、いや大丈夫です。続きをお願いします」


 トワルは慌てて言った。

 ユメスは尚も不思議そうにしていたが、やがて本題に入った。


「私たちの目標はマレクを拘束して『神の槍』などの使用をやめさせること。具体的には、マレクの所持しているダンジョンコアを取り返さなければならないわ」

「……へ?」

「ダンジョンコア、奪われてるんですか?」


 トワルとフィオナはギョッとするが、ユメスは平然と頷く。


「そうよ。四年前の窃盗団騒ぎの時にね。マレクが窃盗団を手引きして私たちの施設に侵入したのはダンジョンコアを手に入れるためだったのよ」

「リンに聞いた話だと、四年前の遺跡荒らしって、複数の古代遺跡が狙われたんですよね……?」

「ええ。ラニウスやシンラを含めて五ヶ所の施設が暴かれたわ。マレクは恐らくそれら全てのコアを手にしていると思われる」

「そんな……」


 フィオナが絶句する。

 トワルもてっきり、マレクがどこかの古代遺跡から『神の槍』を持ち出して騒ぎを起こしているのかと思っていた。

 それがまさか『神の槍』どころかダンジョンコアとは。


 今ユメスに聞いた話の通りなら、ダンジョンコアは一つ手にしただけでも使い方によって今の世界を容易に滅ぼせるような代物だろう。

 それが五つ。そしてその犯人が自分の元一番弟子。

 あの師匠がサミエルに戻る時間を惜しんでまで追いかけるのを優先するわけだ。


「あの……質問してもいいですか?」


 フィオナがおずおずと手を上げた。


「なあに?」

「ダンジョンコアを盗み出したのが四年前なら、そのマレクという人はどうして今更になって動き出したんですか?」

「そこは特に深い意味はないと思うわ。手に入れたコアを解析して使えるようになるまで四年間掛かったというだけでしょう。ただ、それとは別に不自然な点はあるんだけど」

「というと?」

「どうして『神の槍』などを持ち出したのかが私には理解できないの」


 トワルはそれを聞いて怪訝な顔をした。


「それは何かおかしいんですか? 手に入れた力を使うのは普通のことだと思いますが……」

「確かに、力を誇示したいとか世界征服がしたいとかであればその通りでしょう。でも、マレクの目的はそうじゃなかったはずなのよ。だからこそ私もそこまでの緊急性は無いと判断して『禁じ手』は実行せずマレクの追跡もオーエンに一任していたんだもの」


 フィオナが戸惑いがちに首を傾げる。


「ダンジョンコアがいくつも奪われているのに、危険ではないんですか……?」

「マレクも今のあなたたちのように私から話を聞いてダンジョンコアの危険性や『禁じ手』のことは知っているからね。余程の事がない限り無謀なことはしないはずだもの。とそれにオーエンからマレクの事情を聞いた限りでは、彼がダンジョンコアを狙った理由は――」


 そこまで言って、ユメスは不自然に言葉を切った。

 何か異常が起こったようだった。

 表情は張り付いたように固まり、体の動きも髪の毛一本まで完全に静止している。

 トワルとフィオナは困惑した。


「どうかしたんですか?」

「馬鹿な……私のセンサーが、全く感知できなかったなんて……」


 絞り出すような声とともにユメスの顔に亀裂が入った

 それを見たフィオナが悲鳴を上げてバランスを崩す。

 トワルはフィオナを抱きとめた。


「ユメスさん、一体何が」


 ユメスはトワルの問いかけには答えず、強引に体を軋ませながらトワルとフィオナのほうへ両手を向けた。 


「あなたタチだけデも逃がス……」


 トワルとフィオナを包み込むように球体が現れた。

 ここに来るときにミューニアが発生させたのと同じ転送の球体だ。


 だが、転送は上手くいかなかった。

 二人の転送が完了する前に球体が消えた。同時にユメスの右腕にひびが走り、そのままボキッと折れて床に落ちた。

 それが合図のように他の部位も崩れ始める。

 ユメスはトワルたちに何かを訴えかけるように見つめたまま光の欠片になって消滅した

 二人はユメスの消えた床を茫然と見下ろしていた。


 そんな二人の背後から声がした。


「おやおや。転送の反応があったからてっきりオーエン殿かと思ったが違ったようだ。誰かな君たちは」


 振り返ると、部屋の入口にローブ姿の男が立っていた。

 声で男であることはわかるが、すっぽりとローブを纏っている上に仮面を付けているため細かい容姿はわからない。かろうじてわかるのは背が高いことくらいだった。


 トワルは片手を広げてフィオナを庇いながら後ずさりした。

 男の異様な外見がその理由だったが、それ以上にここはユメス古代図書館。古代文明の遺跡の中なのだ。

 普通の人間がこんな場所へ入って来れる訳がない。

 入って来れるとすれば……。

 トワルたちが返事をしないので男は再び質問をした。


「あれ、聞こえなかったかな? 君たちが一体誰なのか知りたいんだが」

「あなたこそ誰? あなたがユメスさんに何かしたの!?」

「大したことはしていない。ただ、ここのダンジョンコアを拝借しただけだよ。面倒なことに、僕の望みを叶えるにはこれがもっと必要なようなんだ」


 そう言ってローブの隙間から片腕を出す。

 その手には銀色の光沢を放つ金属の球体が握られていた。

 ついさっき見たばかりなのだから間違いようがない。ダンジョンコアだ。

 それも恐らくこの遺跡の――ユメスのコアだろう。

 あれを奪われたから少女の形代も維持できず消滅してしまったのだ。


「それじゃああんたが、ユメスの言っていた……」

「ほう、彼女から聞いていたのか。それなら話は早い」


 男は腕を引っ込めると丁寧に一礼してみせた。


「僕はマレク。考古学者だよ」

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