第3話-6.質屋の店主、立ち尽くす
トワルたちが立ち尽くす中、巨大な黒い柱はサミエルの街目掛けて落下していった。
そのまま街を押し潰すか、と思われたのだが――。
「……止まった?」
フィオナが口元に手を当てながら呟いた。
一体何が起こったのか、黒い柱は空中で停止していた。
目を凝らしてよく見ると、街全体を包むようにドーム状の透明な膜ができている。
それが黒い柱を受け止めているのだ。
ベルカークが目を見張りながらも呟く。
「まさかあれは……」
「ベルカークさん、あれが何か知ってるんですか?」
「ここへ来る途中で話しただろう。オーエン氏がミューニアを持ち出すために勝手に遺跡の壁を破壊しようとして殺されかけたと。その時にオーエン氏を拘束するためにユメスが――ユメス古代図書館のダンジョンコアが発生させた障壁によく似ている。ただの薄い膜に見えるが、物理的な影響の一切を遮断してしまうんだ。もちろんあんな広範囲な物ではなかったが……」
「じゃまさかあのドーム、ミューニアが……?」
黒い柱はドームごと街を潰そうと試みるが、ドームはやや形を歪ませながらも圧力に耐え続ける。
トワルたちは固唾を飲んでその様子を見守った。
実際は十数秒にも満たない出来事だったが、トワルたちにはそれが永遠にも似た長い時間に感じられた。
根負けしたのは黒い柱のほうだった。
黒い柱に細かい亀裂が入ったかと思うと、次の瞬間柱は粉々に砕け散った。
飛び散った破片は溶けるように空気中に消えてしまった。
柱の破片が完全に消滅したあと、ドームは安堵したようにスッと消えていった。
柱によって無理やりこじ開けられていた雲の穴が戻っていき、みるみるうちに元の何の変哲もない曇り空に戻る。
幻でも見ていたような気分だった。
だが、幻などではないことはこの場にいる全員が理解していた。
「遺跡調査は中止だ。一刻も早くサミエルに戻るぞ」
ベルカークが隊員たちに大声で伝える。調査隊は足早に元来た道を戻って行った。
「みなさんご無事でしたか」
三日後、ようやく街へ戻った調査隊を自警団副団長のアンブレが出迎えた。
アンブレ。二十代半ばの長身の女性。肩書きに対して随分と若いが、野盗の一団程度なら単身で真正面から制圧できてしまうほどの実力者なので異議を唱える者はいない。貴族や兵士団との折衝や事務手続きに忙しい自警団長に代わって現場の管理を任されている。
「街の被害は?」
ベルカークは足を止めず歩き続けながら尋ねた。
アンブレも並んで歩きながら答える。
「直接的な被害はありませんでしたが、市民に動揺が広がっています。あの黒い物とあれから守ってくれたドーム状のものは一体なんだったのですか」
「ラニウス遺跡はあの黒い奴に跡形も無く押し潰されていたよ。それ以上のことは我々にもわからない。まずは事情を知っているであろう者に話を聞きに行こう。君も来れるかね」
「問題ありませんがどちらへ?」
「オーエン質店だ。恐らくミューニアが何かしら話してくれるだろう」