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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第2話 幸せを呼ぶ祝福の壺
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第2話-29.質屋の店主、起こされる

「トワル、おいトワル! 起きろ、一体何があった?」

「ん……」


 体を揺すられてトワルは意識を取り戻した。

 まだ思い目蓋を上げると、そこにいたのはシルマリだった。


「シルマリ……? ドワルド国行ってたはずじゃ……?」

「たった今戻ってきたんだよ。で、様子がおかしいから勝手に上がらせてもらったらお前が倒れてたんだが……リンの奴はどこだ?」

「リン? リンなら……」


 そこまで言いかけて、トワルのぼんやりしていた記憶が一気に鮮明になった。

 そうだ、眠り薬を盛られて――。


「フィオナ!」


 トワルは起き上がると急いで階段を駆け上がった。

 シルマリがその後に続く。


 フィオナの部屋のドアを開けると、フィオナはベッドの上で何事もなく眠っていた。

 トワルは安堵の溜め息を漏らした。

 だが、別の方向へ目をやり愕然とした。

 部屋の奥の棚の引き出しが一つ開けたままになっている。


 フィオナの本体――『イリストヘルの霊石』を仕舞っている引き出しだ。

 トワルは真っ青になり、恐る恐る引き出しの中を覗き込んだ。


「……あれ?」


 引き出しの中には宝石が入ったままだった。

 手に取ってみるが間違いなく本物だ。


「それがあいつが探してた『イリストヘルの霊石』ってやつか?」

「ああ。てっきりこれを狙ったんだと思ったんだが……」


 トワルは宝石を戻し、フィオナを起こさないようシルマリとそっと部屋を出た。

 店舗エリアに移動しリンに睡眠薬を盛られた経緯を説明する。

 シルマリはふむ、と顎に手をやって思案顔になる。


「それじゃやっぱりあの宝石を奪うつもりだったんだろうな。実際は持って行かなかったようだが」


 トワルは天井を見上げた。


「ミューニア、俺が寝ている間の事を教えてくれ」

『リンはフィオナの正体に気付いて宝石を持ち出すのを止めたようです』

「……やはりそうか」


 宝石の在り処まで突き止めたのに持って行かなかった理由としてはそれ以外に思いつかない。


『それから、トワルとフィオナに伝言を頼まれました』

「なんだ?」

『ごめんね、とのことです』

「そうか……。それで、リンがどこへ行ったのかはわかるか?」

『わかりません』


 ごめんね、か。

 リンはもう自分たちの前には姿を見せないつもりなのかもしれない、とトワルは思った。

 トワルはリンからどうして元の世界へ戻りたいかも聞いている。

 ようやく戻るための手段に手が届いた矢先にその宝石の正体を知り、持ち去るのを諦めた。

 一体どんな気持ちだったのだろう。


「宝石のこと、隠さず正直に話してやったほうが良かったのかな」

「まあ仕方ないさ。あいつの事情を考えれば話したところで持ってかれる可能性もあったんだ。あいつ自身もそれがわかってるからこんな言葉遺してったんだろう」


 シルマリはトワルの肩をぽんぽん叩く。

 ただ、その顔にはわずかに焦りの色が浮かんでいた。


「しかし不味いな」

「何がだ?」

「リンがこんなお粗末な手段で盗みを働こうとしたって事は、十分に策を練る時間が無かったってこった。これでも全力で戻ってきたつもりだったんだがどうやら一足遅かったらしい。恐らく宝石じゃねえほうの標的が到着しちまったんだろう」

「標的が到着って……一体どういうことだ?」

「リンの奴、この街へ来たのは宝石探しの他にもう一つ目的があるって言ってただろ? その目的ってのはどうやら仇討ちだたようなんだ」

「仇討ち……?」

「ああ。ドワルド国でわかったことから推測すると恐らく間違いない。ただあいつ一人じゃ下手すりゃ返り討ちだ。だから出来れば行動起こされる前に止めたかったんだが……」


 シルマリは苛立たしげに髪を掻き毟った。

 詳しい事情を説明する時間も惜しいらしい。今にも店を飛び出して探しに行ってしまいそうだ。

 トワルは言った。


「少し時間が貰えるならリンの居場所は特定できるぞ」


 シルマリは驚いた顔でトワルを見た。


「本当か?」

「実はさっきリンの服に発信器を忍ばせておいたんだ。あからさまに態度が怪しかったもんだから念のためって思ってね。まだこの街にいるのなら捕捉できるはずだ」


 トワルは後ろの棚から受信機を引っ張り出してカウンターに置く。

 メインのスイッチを入れると画面上に赤い点がいくつか表示された。

 トワルは画面を少し見つめたあと、赤い点の内の一つを指差した。


「多分リンはこれだ」

「この動いてる奴か。この図は上が北でいいのか?」

「ああ。北区へ向かっているみたいだが……って、あれ?」

「どうした」

「リンに仕掛けた発信器とは別に、反応がもう一つ増えてる」


 北区の隅のほう、画面ギリギリの辺りに赤い点が増えていた。

 壺に仕掛けられて街に散らばった発信器は前回確認した位置からどれも動いていない。

 一体何なのかわからないが、どうやら街の外からやってきたらしい。

 リンはこの点に向かっているようだが……。


「すると、こいつがリンの標的さんかね。こっちは動く気配無いし、こっちの場所を目指せば良さそうだな」


 シルマリが向かおうとする。

 それをトワルは呼び止めた。


「俺も付いて行っていいか?」


 シルマリは少し考えてから頷いた。


「そうだな。もし見失ったらまたその受信機の世話になるだろうし、一緒に来てくれ」

「わかった」

「私も行くわ」


 不意に声がした。

 声のほうを見るととフィオナが立っていた。寝巻きではなく本来のドレス姿だった。


「フィオナ、起きたのか」

「リンの所に行くんでしょ? 私も連れて行って。足手まといにはならないから」


 フィオナの表情は真剣だった。

 どうやら随分前からトワルたちの会話を聞いていたらしい。

 シルマリはポリポリと顎を掻いた。


「……まあ荒事になる可能性もあるし、時間的に他に援軍を呼ぶ余裕はない。俺としてはお嬢さんは戦力になりそうだから来てくれるならありがたいが、どうする店長さん」


 そう言うと判断を仰ぐようにトワルを見る。

 フィオナの意志は堅そうだった。

 危ない真似はさせたくないが、フィオナだってリンと話をしたいのは同じだろう。

 それにいざとなれば空を飛べるフィオナなら人探しには間違いなく役に立つ。


「よし、フィオナも一緒に行こう」

「決まりだな。じゃあ悪いが急ぐぞ」


 シルマリが店を飛び出していく。フィオナがその後に続き、最後にトワルが受信機を抱えてそれを追いかけた。


『行ってらっしゃいませ』


 走り去る三人にミューニアが声を掛けた。

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