表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第2話 幸せを呼ぶ祝福の壺
55/89

第2話-27.質屋の店主、介抱をする

 夜。

 明日の準備を済ませたトワルがそろそろ寝るかと考えていたところ、ドンドンドン、と店のほうから何か叩く音がした。


「なんだ?」


 店に出てみると、誰かが喚きながら玄関を叩いている。


「てんちょー。おーい、トワルてんちょおー。あけてよー」


 声の主はどうやらリンのようだった。

 今日は外回りをしたらそのまま帰ると言っていたはずだが……。

 忘れ物でもしたんだろうかと思ったが、声の調子からするに随分と酔っているらしい。


「どうしたの?」


 騒ぎに気付いたフィオナがやってきた。フィオナのほうも寝る直前だったらしく、リンがこの間外着のついでに買ってくれた寝巻きの上にカーディガンを羽織っている。

 その無防備な姿にトワルは内心ドキリとしたが、今はまずリンをどうにかしないといけない。

 慌てて顔を逸らすと、とりあえず玄関のカギを開けてリンを中へ招き入れた。


「やっと開いたあ。もー、待たせるなんて酷いわねえ。あはは」


 リンは入ってくるなりトワルにもたれ掛かってきた。

 吐いた息が物凄く酒臭い。トワルは思わず顔をしかめた。


「おいおい、一体どれだけ飲んだんだ?」

「ん~? らって今日はお祝いじゃないの」

「お祝いって何のことだ」

「お祝いのお祝いはお祝いに決まってるじゃない。兄弟子ならわかるでしょー?」


 わからない。

 何があったのか知らないが想像以上に酔っているらしい。

 トワルはリンがここまで泥酔しているのを初めて見た。

 というか、シルマリやリンのような人種はいくら飲んでも本気では酔わないと思っていたのだが……そうでもないのか?


「トワル、大丈夫そう?」


 フィオナが不安そうな顔で聞いてきた。

 トワルは首を振った。


「放っておくわけにもいかない。とりあえず落ちつかせよう」


 トワルは半ば引きずるようにリンをリビングへ連れて行った。




「ほら、これ飲んで」


 ソファに寝転がしたリンにトワルはコップを差し出した。

 リンが虚ろな目を向ける。


「それなあに?」

「ただの水だ」

「えー。お酒はー?」

「それだけ飲んだらもう十分だろ。ほら」

「むぅ……」


 リンは不満顔になりながらも体を起こしてコップを受け取った。

 だが口に付ける間際に水をじっと見つめたまま数秒間固まり、突然スッと立ち上がるとふらふら台所へ歩いて行ってしまった。

 トワルとフィオナは呆気に取られたが、慌ててあとを追いかけた。


「おいおい、何する気だ?」

「折角だから乾杯しよー。水でいいからさ」


 いつの間に用意したのか、水の入ったコップが三つ置かれていた。


「なんでそんなことを」

「いーじゃん乾杯しようよう。水飲んだって減るもんじゃないんだし」

「いや減るだろ」


 トワルはそう答えたがリンに無理やりコップを押し付けられる。

 本当にリンはどうしたのだろう。

 二人は不安げに顔を見合わせた。

 当のリンは上機嫌にコップを持った手を掲げる。


「それじゃーみなさまご一緒に、カンパーイ!」

「乾杯……」

「かんぱーい……」


 トワルとフィオナも勢いに押されてリン合わせ、とりあえずコップを口へ運んだのだが――コップの液体を一口飲んだ途端、トワルはむせ返った。


「ちょっと待て、これ酒じゃないか!」

「え? そうよ? だって乾杯だもの」

「お前な……」


 トワルはいい加減苛立ってきて文句を言おうとした。

 だが、それより先に背後から妙な声がした。


「……わあ、トワルとリンが沢山いる。こんなの困っちゃう」

「へ?」


 トワルとリンが同時に声のほうへ顔を向けると、フィオナがコップを両手で持ったまま棒立ちしていた。

 据わった目でぼんやりとこちらを見つめているが、焦点が合っていない。

 そういえば、とトワルは思った。

 フィオナは今まで酒飲んだことなかった。

 どうやら相当弱いらしい。


「フィオナ、大丈夫か?」

「平気よ。何人に増えてもトワルはトワルだもの。私も増えてあげるから安心して」

「……うん?」


 戸惑うトワルに対してフィオナはニヘラと笑う。

 ただでさえリンがいるのにさらに酔っ払いが増えたようだ。


「どうすんだよこれ……」

「ごめんなさい、悪乗りが過ぎたみたいね」


 唐突にリンの口調がまともなになった。

 どうやたフィオナの様子を見て一気によいが醒めたのか、表情もそれまでとはまるで別人だ。


「フィオナの部屋は二階だったわよね? 私が連れて行くわ」

「大丈夫か?」

「任せて、こういうのは慣れてるから。……ほらフィオナ、今夜はもう寝るわよ」

「んー……?」


 完全に酩酊してしまったフィオナの肩を抱えながらリンは階段を上がっていった。

 リンもかなり飲んでいるように見えたが、足取りはしっかりしている。フィオナの歩調に合わせて階段を上り切り、特に問題もなく部屋に入っていった。

 トワルはそれを確認するとリビングへ戻り、ソファへ腰かけた。


「一体何だったんだ?」


 もうすぐリンも戻ってくるだろう。そしたら事情を聞こう。

 そう思って待っていたのだが……。


 トワルは突然眠気に襲われた。


 おかしいな、とトワルは思った。

 トワルは普段酒は飲まないようにしているが、別に飲めない訳ではない。一口や二口飲んだところで潰れるようなことはないはずなのだが……。

 酔いが回ったというより、昔師匠に睡眠薬を盛られた時のような感覚だった。


 ――睡眠薬?


 ひょっとしてさっきのリンの酒に何か盛られていたんだろうか。

 他に原因は考えられない。

 やはり渡されたコップなど飲むべきじゃなかった。警戒していたつもりだったのに、どこか油断してしまっていた。

 リンは一体何かするつもりなんだ。


「フィオナ……」


 二階へ行かなければ、と思ったがもう体は思うように動かなかった。

 視界が暗くなり、トワルはそのまま意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ