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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第2話 幸せを呼ぶ祝福の壺
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第2話-15.質屋の店主、乱入される

「なっ……どうしてお前がここにいるんだ!?」


 シルマリが驚愕の色を浮かべる。

 するとリンは楽しそうに笑った。


「おーおー、驚いている。情報屋さんのそんな顔見れただけでもこの街に来た甲斐あったわね」

「な、なんだと?」

「だってさあ、ドワルド国にいた頃はあんたにお仕事何度も邪魔されたんだもの。ようやくこれで少しは留飲も下がったわ。ほんのちょっとだけだけどね」

「なーにが邪魔されただよ。最初に妨害仕掛けてきたのはお前のほうだろ」

「違うわよ。私はやられたからやり返しただけだもの」

「なんだ、やんのかてめえ」

「なによー」


 シルマリとリンはギャーギャーと喚き合いを始めた。

 先ほどは禍根のある仇敵みたいな言い方をしていたが、随分仲が良さそうに見える。

 トワルとフィオナはどう反応すればいいのか対応に困り、ただ固唾を飲んでその様子を窺っていた。


「――で? 冗談はこの辺にして、一体何の用で出てきたんだ? お前のことだから本当に俺の驚いた面拝むためだけにノコノコやって来た訳じゃないんだろ?」


 唐突にシルマリが真顔になり、カウンターに肘を付く。

 するとリンのほうも肩をすくめ、静かにグラスに口を付けた。

 途端に二人の空気がヒリつき始めた。

 迂闊に声を掛けられる雰囲気ではなくなり、トワルとフィオナは沈黙を継続する。


「まあ、虚を衝いて一矢報いてやりたかったってのは本当だけどね。情報屋さんに動かれるんならあんたの庭のこの街で勝負しても勝ち目無いなって思ったのよ。私がどんなに隠れようと見つかるのは時間の問題だし、それならこっちから出向いたほうがお互い面倒少なくて済むかなって」

「へえ、そりゃ殊勝な心掛けで」

「そうでしょう。私は奥ゆかしさがモットーの女ですので」

「さいですか。ならついでにこの街へ来た目的も話してくれると助かるんだがな。発信器付けた壺ばら撒いて一体何を企んでやがるんだ? この街でも何か盗む気か?」


 するとリンはニコリと笑う。


「それは内緒」

「は?」

「ちょっと事情があってね。それについては今はまだ言えないのよ」

「こっちだって事情があるから、はいそうですかじゃ済ませられないんだが」

「そう? じゃ、私を捕まえて無理やり吐かせてみる?」


 リンがそう言い終わると同時に、ブン……と羽音のような音がする。

 そしてリンの姿が消えた。


「なっ!?」


 シルマリが立ち上がり、慌てて辺りを見回す。

 トワルとフィオナもギョッとして目を見張り、それから同じように消えたリンを探そうとした。

 しかしその前にフィオナのすぐ後ろから声がした。


「――せっかく久々にのんびり話せるんだから、手荒なことは無しにしましょう。ね?」

「ひゃっ!?」


 フィオナが思わず小さく悲鳴を上げてトワルに縋りつく。

 見れば、いつの間に移動したのかフィオナの隣の席にリンが腰掛け、からかうようにグラスの中の氷を鳴らしている。


「ああ、わかったよ」


 シルマリは苦虫を噛み潰したような顔をして舌打ちした。

 トワルはフィオナを引き寄せて自分が盾になりながらリンをじっと見つめていた。

 これが先ほどシルマリの言っていた『妙な術』というやつらしい。


 今の『術』を使えば少なくともこの場はシルマリを振り切って逃げきることもできるし、やろうと思えば誰かを人質にすることだってできるだろう。

 そのリスクを考えると、シルマリのほうは迂闊に手荒な手段には出られない。


 ただ、トワルはリンの左手に目を向けていた。


「その小指に付けた石――ひょっとして古代文明の遺産か何かか?」


 リンの左手の小指には小さな石の指輪が嵌められていた。

 店に壺を売りに来た時には無かったものだったので何となく気になっていたのだ。

 そしてその石はリンが先程姿を消す直前、微かに光っていた。

 パッと見の印象ではあるが相当な年代物に見える。


「あらら、まさかたった一回で見破られるなんて」


 リンがわざとらしく目を丸くする。

 トワルは胡散臭そうにリンを睨んだ。


「見破るも何も、気付くかどうか試したんじゃないのか?」


 リンはここへ来てから何度もグラスを持ったり置いたりしていた。

 その度に小指の指輪が目に入るのだ。嫌でも何かあるのではと意識する。

 シルマリがトワルとリンの左てとを交互に見ながら言った。


「すると何か? あの妙な術はその指輪の力って事なのか?」

「ええそうよ。これ、古代文明の遺産の一つで、使うと周りの時間を止められるの。厳密には自分の神経を瞬間的に向上させて超高速で行動できるようにするとか何とか、結構複雑なことしてるらしいんだけどね。体への負担が大きいから連続では使えないのが欠点だけど見ての通りとても便利なのよ」

「お前、ドワルド国にいたころそんなもん付けてなかっただろ」

「そりゃそうよ。別にこれ、指に嵌めなくても発動できるもの。隠してたに決まってるでしょう」

「なるほど、そりゃわからなかった訳だ」


 シルマリはようやく納得したという様子で溜め息をついた。

 連続で使えないとリンは言っていたが、シルマリは発動直後であるこのチャンスにも拘らず奪おうとする気はないらしい。大人しく自分の席へ戻ると酒を煽った。

 リンが言った連続では使えないという言葉をブラフだと警戒しているのか、それとも種が割れたならどうにでもなるという余裕なのか。

 とりあえずシルマリが何も言わないので、トワルがリンに聞いた。


「どうしてわざわざその指輪の解説をしたんだ?」


 これ見よがしに指輪を出されなければトワルだって気付かなかっただろう。

 切り札を自分からバラす意味が分からない。

 するとリンはニコリと笑った。


「こちらが手の内を明かせば少しは信用してもらえるかなって思ったのよ。実を言うとね、今日ここへ来た一番の目的は情報屋さんじゃなく、トワル兄さんたちにお願いあったからなの」

「お願い?」


「明日からオーエン質店で働きたいんだけど、雇ってくれない?」


「……は?」


 いきなり何を言い出した?

 全く予想していなかった提案に三人は言葉を失った。

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