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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第2話 幸せを呼ぶ祝福の壺
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第2話-9.質屋の店主、試運転をする

 出来上がったのは、やや大きな弁当箱くらいの鉄製の箱だった。

 正面部分の上半分は黒いガラスのようなものが嵌めこまれており、その下にはボタンが並んでいる。


「これが受信機?」

「ああ。本物は片手に納まるくらい小さいんだけどね。今の俺の腕じゃこれが限界だ」

「そうなの? 私には十分凄いものに見えるけど。ねえ、どう使うの?」


 フィオナに促されるとトワルは側面のスイッチを入れた。

 ブゥン……と内部から振動音が聞こえ、同時にガラス部分がうっすら発光する。

 それからガラスの中心を通るように縦横十字の白い線が表示されたが、それからは何も変化なかった。

 トワルが納得がいかない様子で首をひねる。


「あれ?」

「どうしたの?」

「いや、本当ならここから発信器の位置が赤く表示されるはずなんだが……」


 トワルはそこまで言ってからハッとした様子で天井を見上げた。


「あ、そうか。――ミューニア、受信機の動作確認をしたいから信号の遮断止めてもらっていいか?」

『了解しました』


 ミューニアの返事が聞こえたのと同時に、ガラス部分に複数の赤い点が表示された。

 トワルはホッとしたように頷いた。


「よし、出た出た。どうやらちゃんと作れてたらしい」

「この赤いのが発信器の場所?」

「ああ。この白い縦横の線が交わった所がこの受信機がある場所――つまりこの店で、検知できる範囲内にある発信器が赤い点で表示されるようになってる。まあどの方向にどれくらい離れているかがざっくりだけわかる程度だけどね」

「へえ……」


 フィオナは顎に手をやりながらしげしげとガラスを見る。

 赤い点は白線が交差した中央部分に一つ、それ以外には五つの赤い点があちこちに分散していた。

 中央の点はヴァンデが持ち込んだ壺に付いていた発信器だろう。


「中央以外の散らばっている赤点は他の壺の発信器なのかしら」

「多分そうなんじゃないかな。アンブレさんは壺を誰が買ったかまではまだ特定できてないと言ってたし、回収も出来てないはずだ」


 自警団によれば詐欺師の女はヴァンデ以外にも既にいくつか壺を売っていたらしい。

 ヴァンデの壺だけが特別だったとも思えないし、他の壺にも発信器が仕掛けられていてもおかしくはない。


「ちなみにこれ、どれくらい遠くまでわかるの?」

「この街全体を把握できるように調整したよ。それから一応部分的に拡大して表示できるようにもしてみたが……こっちはちょっとわかり辛いから改良が必要だな」


 トワルがボタンを操作すると白線が太くなり、五つの赤い点が画面外へ逃げて行く。

 それがこの店の周囲を拡大した図だと理解するのにフィオナは少し時間が掛かった。

 確かに少々わかり辛いかもしれない。


 ただ、フィオナはふと妙なものに気付いた。


「店のすぐ近くに沢山赤い点があるけど、これは何かしら」


 街全体を表示していた時は近過ぎてヴァンデの発信器の赤点と重なっていたようだが、店のすぐ近くに十数個もの赤い点が表示されている。

 だがトワルはその問いにあっさり答えた。


「そいつらについては気にしなくて大丈夫だ。師匠が使ってた発信器で、今は倉庫に仕舞ってある奴だから」

「あー……そういえばあなたのお師匠様も愛用していたんだったわね……」


 フィオナはこの間聞いた話を思い出していた。

 言われてみれば店に残っていても何もおかしくはない。

 そこまで考えて、ふと疑問が湧いた。


「あれ? それならこれを作らなくてもお師匠様が使っていた受信機があるんじゃないの?」


 発信器だけあっても受信機がなければ意味がない。

 トワルの師であるオーエンが発信器をよく使っていたのなら、当然受信機も持っていたはずだ。


 するとトワルはやや困った顔をして頭を掻いた。


「それがさ……倉庫に無かったんだよ、師匠が愛用してた受信機。俺はてっきり倉庫に残ってると思っていたんだが」

「無くなっていたってこと?」

「いや、誰かが持ち出したのならミューニアが気付いて教えてくれたはずだ。多分だけど、最初から倉庫には無かったんだと思う」

「それって……」

「恐らく、四年前のあの日に師匠が持って行ってたんだろうな」


 四年前、オーエンは置き手紙を残してラニウス遺跡へ向かい、遺跡の爆発事故とともに消息を絶っている。


 そのオーエンが受信機を持ち出していたという。

 一体何のために?

 フィオナは疑問に思ったが、トワルの表情から察するにトワルにも見当が付いていないようだった。


 理由がわかればオーエンが遺跡へ向かった理由を知る手掛かりになるかもしれないが……。

 

「ま、推測だけであれこれ考えても仕方ない」


 トワルが気持ちを切り替えるように首をぶんぶん振った。


「今はまず壺の詐欺の件だ。これで受信機も用意出来たし、とりあえず今日は――」


 そこまで言いかけてトワルは言葉を切った。

 その目は受信機に釘付けになっている。


「どうしたの?」

「発信器が一個、うちの店へ近付いて来てる」

「え?」


 フィオナも横からガラス板を覗き込んだ。

 確かに、赤い点が一つ真っ直ぐこちらへ移動している。


「なにこれ? どういうこと?」


 フィオナが不安そうに尋ねる。

 トワルは答えず、代わりに玄関へ目を向けた。


 カランカラン、と玄関が開いた。



「良かったー。今日はお店、開いてたわね」



 来店してきたのは初めて見る客だった。

 しかしトワルもフィオナも、その客が何者なのか一目で思い当たった。


 二十歳くらい、小柄で、赤みがかった長い黒髪の女。

 しかもその手には壺を抱えている。


 ほぼ間違いなく、ヴァンデに壺を売りつけたという詐欺師の女だ。


「………」


 頭の整理が追い付かない。


 どうしてここへ現れた?

 一体何をしに来たのだ?


「ここ、質屋で合ってるのよね? この壺を買い取って欲しいんだけど」


 凍り付いたように動かないトワルとフィオナに対し、壺の女は悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。

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