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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第2話 幸せを呼ぶ祝福の壺
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第2話-8.質屋の店主、受信機を作る

 壺の詐欺の件は情報屋や自警団からの連絡待ちということで、トワルたちは翌日もいつも通り質屋を開けて商いをしていた。


 夕方の客足が途絶えたころ、トワルは店の裏手にある倉庫から何やら大きな木箱を抱えてきてカウンターの横、比較的歩くのに邪魔にならない場所に置いた。


 一体何かとフィオナが覗き込んでみると、小型の機械が山盛りに入っている。

 見たところ種類はバラバラで、ヒビが入っていたり真っ黒に焦げた跡があったりとどれも壊れているようだ。


「なにこれ?」

「師匠が壊した古代文明の遺産の残骸」

「これも遺産なの? 普通の機械に見えるけど」


 フィオナは思わず首を傾げた。

 箱の中の機械は確かに見慣れないものだったが、それでも機械であることはわかる。

 上手く言えないが、知識のある人間になら頑張れば作れそうなのだ。

 古代文明の遺産というと使い方はわかってもどうやって作られたのかわからない魔法のアイテム、みたいなイメージがあったのだが……。


 そう疑問を口にするとトワルは少し苦笑しながら説明してくれた。

 古代文明の遺産といってもどうやら全部が全部未知の技術で作られた物ばかりではないらしい。

 構造や原理を推測できるものも多く、今の技術でも再現できる簡単な物もあるのだそうだ。


 むしろ本来ならフィオナの宝石やダンジョンコアのミューニア級の遺産のほうが珍しいはずで、そんな最上級クラスの物がその辺に転がっているこの店がおかしいらしい。


「でもこれだけの数を壊したというのはどういうことなの?」

「初めて見るものはどうしても手探りで調べることになるから失敗することも多いのさ。遺跡で発見された時点で既に壊れていたものもあったらしいけどね」

「ふうん……。でもこんなものどうするの?」

「壊れたと言っても生きてる部品も多いから、そいつらを組み合わせて受信機を――あの大豆みたいな発信器の信号を拾って場所を表示する装置を作ろうかと思ってさ。ひょっとしたら必要になるかもしれないから」


 トワルは答えながら木箱から一つずつ機械を取り出して品定めを始める。

 フィオナは目を丸くした。


「受信機を作るって、そんなことができるの?」

「発信器はともかく受信機のほうはそこまで複雑な物じゃないからね。詳しい原理はわからない部分も多いけど、必要な部品の組み合わせ方さえ覚えてしまえばある程度の再現は可能だよ」


 そう言いながら見慣れない工具を使って機械の蓋をカパッと外す。

 機械の中は固定された複数の小さな部品と、それらを繋げる無数の細い金属の線。

 一部は錆びたり黒く焦げて溶けていたりするものの、トワルは手慣れた様子で無傷の部品だけを器用に取り外していく。


 トワルはそこまで複雑じゃないと言っていたが、フィオナにはこの時点で十分複雑に見える。

 フィオナは感心したように溜め息をついた。


「凄いわね。私にはちょっと真似できそうにないわ」

「そうか? 基本的なことを頭に入れてしまえばあとは数をこなして慣れるだけだよ。俺も最初は全く分からなかったけど、師匠が作ってるの横で見たり修理手伝ったりしてるうちに覚えたし」

「そういうものかしら……」


 話している間にトワルは一つ目の機械から必要な部品を取り終えたらしく、それを木箱に戻すと次の機械を取り出して同じ作業を繰り返す。


 フィオナには部品の違いも良くわからないし下手に触ったら壊してしまいそうなので手を出す気にもなれなかったが、トワルの顔は心なしか楽しそうに見える。

 そういえば時計やブリキの玩具なんかの分解修理をしている時もこんな顔をしていた気がする。元々こういった作業が好きなのだろう。


 こんな風に真剣に打ち込んでる顔って、何か良いな……。


 フィオナは窓辺に寄りかかってトワルの作業を眺めていた。

 トワルがふとその視線に気付いたのか顔を上げた。


「悪い。退屈にさせてしまったか」

「ううん、気にしないで。好きでこうしているだけだから」

「そうか……?」


 トワルは不思議そうな顔をしたが、すぐに箱に視線を戻し作業に意識を集中させた。




 その日の夕暮れ時、トワルは受信機のための部品を全て揃え終えた。

 小指の爪ほどの小さな物から握り拳ほどもあるゴツゴツした塊まで様々な部品がカウンターを埋め尽くしている。


 トワルはそのまま徹夜で組み立てをするつもりだったようだが、フィオナに体に悪いからちゃんと寝なさいと言われてしぶしぶ諦めた。


 そんな訳で組み立て作業は翌日の朝から始まった。

 客対応や優先依頼の修理などでちょこちょこ作業が中断されたものの、仕事の合間の時間で無数の部品たちが組み上げられて段々形になっていく。


 そして三日後の夕方。


「よし、完成」


 トワルは工具を置きながらホッと息をついた。

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