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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第1話:災いを呼ぶ死神の石
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第1話-21.呪いの宝石、探し回る

 ベルカークの屋敷を文字通り飛び出したフィオナは一直線にオーエン質店へ向かった。

 行き交う街の人々が驚いた顔でフィオナを見上げる。だがそんな事に構う余裕は無かった。

 オーエン質店が見えてくるとフィオナは片手をかざし念動力で玄関の鍵を外して開けた。そしてそのままのスピードで店内に突っ込むと、急ブレーキを掛け、周囲をきょろきょろ見回した。

『フィオナ、お帰りなさい。慌てているようですがマスター代理はどうしたのですか?』

 天井からミューニアの声がした。

 フィオナは目に付いた棚を手当たり次第に開けながら、

「ミューニア、あれはどこ? トワルを探すために必要なの!」

『あれとは何のことですか?』


「あれよあれ。ええと……『魔封じの札』!」


 ベルカークがフィオナになら可能だと言ったトワルを探し出す方法。

 それは魔封じの札を利用することだった。

 正確には魔封じの札の副次的な作用である『五感の共有』。

 初対面の時にフィオナがトワルに思い切りくすぐられたあれである。

 フィオナが魔封じの札を貼られると、『災いを呼ぶ死神の石』に加えられた負荷がそっくりそのままフィオナに伝わる。

 そして、宝石とフィオナとの距離が近ければ近いほどその感度は上がるのだ。


 逆に言えば、札を付けたフィオナが体のむずむずが強くなる方へ向かって行けば、宝石のありかまで――宝石を持っているはずのトワルの居場所まで辿り着けるはず。


『魔封じの札ですか。それならカウンター左側の上から二番目の引き出しにストックがあるはずです』

 ミューニアに言われた場所を開けると目当ての札が数枚入っていた。

「ありがとうミューニア!」

 フィオナは額に札を貼った。

 体がみるみるうちに霊体から実体へと変化する。

 同時に、覚えのあるむずむずした感覚が体に伝わってきた。

 良かった、とフィオナは安堵した。これならきっと探し出せる。

「トワルを取り返してくるわ! 店番お願いね」

『事情はわかりませんがわかりました。お気をつけて』

 フィオナは店を飛び出してひたすら走った。

 とにかくむずむずが大きくなる方向へ道なりにまっすぐ走り、感度が弱くなったら引き返して一番近い横道に入ってまた走る。ひたすらそれを繰り返した。

 非効率極まりないやり方だが、札を付けてしまった以上飛ぶこともできないのだからこうするより他にない。

 すぐに息も上がり心臓がバクバクと悲鳴を上げたがフィオナは足を止めなかった。

 いや、止められなかった。

 今回の事件にトワルが巻き込まれてしまったのは、きっとフィオナの宝石の呪いのせいなのだ。

 だから絶対に助け出さなければならない。

 もしも途中で休んだりしたせいで間に合わなかったら……と考えたら、止まることなどとても出来なかった。


 そうして走り続けたフィオナは、やがてむずむずが最も大きくなる地点まで辿り着いた。

 だが。

「……どういうこと?」

 フィオナが立っていたのはサミエルの中心街、表通りの道路の真ん中だった。

 時刻は既に夕暮れ時でいくつかの店は閉まっているが、まだまだ人の数も多く賑やか。平和そのものといった感じでトワルはおろかあの連中がいる様子もない。

 ひょっとして近くの建物の中かとも思ったが、今立っている道の中央部から少しでも動くと露骨に感度が下がる。封印の札は間違いなくここだと言っている。

 しかし、いくら探してもトワルの姿はない。

「どういうこと……?」

 もしかして、探し方を間違えていたのだろうか。

 でも今更他の探し方なんて……。

 フィオナが泣きそうな顔で必死にきょろきょろしていると向こうからアンブレが部下を伴ってやってきた。

「フィオナここにいたのか。トワルは見付けたのか?」

「わかりません」

 フィオナは涙声で言った。「ここで間違いないはずなんです。でもどこにもいなくて……どうしよう。このままじゃ、トワルが……」

 声は次第に途切れ途切れになり、やがて両手で顔を覆ってすすり泣きを始めてしまう。

 アンブレはそんなフィオナの様子を心配そうに見つめていたが、ふと思いついたように、

「そうか、地下水路か」

「え?」

「この街の道の下にはこの街全体に水を供給するための地下水路とそれを管理するための通路が張り巡らされている。あそこなら身を隠すにはうってつけだろう。トワルとあの連中はそこにいるのかもしれない」

 地下通路。

 つまり、フィオナが立っているこの場所の真下。

「それはどこから入れるんですか?」

「この通りの向こうに大きな橋があっただろう。あの橋の下に入口がある。急ごう」

 アンブレはそう言うなり走り出した。

 だがフィオナは下を向いたままその場から動かなかった。

 アンブレがフィオナが付いて来ないのに気が付いて、

「フィオナ?」

 ただでさえ時間が過ぎてしまっている。

 これ以上遠回りなどしていられない。

 フィオナは額の札を掴んで剥がそうとした。

 途端に文字通り皮膚を引きちぎられるような痛みが襲う。

 無理やり剥がせば皮も一緒に持っていかれるぞ、とトワルは言っていた。

 正直怖い。

 でも、トワルを失う方がもっと怖い。

 フィオナは歯を食いしばり、力任せに引き剥がした。

 ベリッと何かが裂けるような音とともに激痛が走り、封印の札が剥がれた。

 自分の顔がどうなったかなど構う余裕も無かった。

 再び霊体に姿を変えたフィオナは札を放り出すとそのまま地面の中へ飛び込んでいった。

 アンブレは唖然としてそれを見送っていたが、すぐに我に返ると、

「我々も急ぐぞ!」

 部下たちとともに地下水道の入口へ向かった。

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