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異世界質屋と呪宝の少女  作者: 鈴木空論
第1話:災いを呼ぶ死神の石
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第1話-10.質屋の店主、兄弟子と会う

 トワルが店に向かうと、一人の男が棚の品をしげしげと眺めていた。

 二メートルはありそうな巨漢で、横幅も同じくらい広い。きっちりと整えられ固められた髪と髭、豪華な刺繍をあしらった外套、最高級の生地を使った流行りの型のスーツ。首には金のフレームに宝石をいくつも埋め込んだネックレス。両手の指には大きな石の付いた指輪をじゃらじゃら嵌めている。

 いかにも成金でござい、という出で立ちだが、不思議と調和がとれていて嫌味な印象は受けない。

 金に物を言わせただけに見せかけて、その実は計算された装いなのだろう。

「お久し振りです、ベルカークさん」

と、トワルは声を掛けた。「というか店は鍵が掛かってたはずなんですが」

「なんだ、トワルいたのか」

 巨漢の男――ベルカークは手にしていた壺を棚に戻しながら言った。


 ベルカーク。この街の豪商の一人で、領主とさえ比肩しうると言われる強権の持ち主。

 狸と豚を混ぜたような愛嬌のある顔で、生まれつきなのか頬と二重あごの贅肉に引っ張られてそうなったのかわからないが、常に目じりが垂れて笑っているように見える。

 抜け目ない性格で運動は嫌いだが行動力と決断は早い。


 そしてこの男、一時期ではあるがオーエンに師事していたことがあり、トワルにとっては兄弟子にあたる。


「この店の鍵のことなら不思議なことは無いだろう。この店の所有者は私なんだ。鍵くらい持っているさ」

 ベルカークはポケットから鍵を見せてにやりと笑う。「しかし相変わらず貧相な店だなここは。ちゃんと利益は出ているのか?」

「月々の返済はきっちりお支払いしているでしょう。……それよりも、今日いらした要件は何です。ベルカークさんご自身がこんな早くにやって来るのですから余程重要なことなのでしょう?」

 ベルカークは手広い商いをしている上にこの街の行政にも関わっているため非常に多忙だった。

 だから誰かに用がある時は自分の屋敷に呼びつけるか部下を向かわせる場合がほとんど。

 こうして自ら足を運んでくるというのは相当に珍しい。

「そうだな。私は忙しいんだ。せっかく早く来たのに時間を無駄にするわけにはいかん。さっさと本題に入ろうか」

と、ベルカークは言った。「商売人の大先輩として、お前に助け舟を出してやろうと思ってね」

 トワルは怪訝な顔をした。

「話が見えませんが」


「昨日、流れ者から厄介なものを買い取っただろう? それを私に寄こせ。あれはお前のような小僧が扱うには難しい代物だ。仕入れ値の百倍で買い取ってやる」


「どうしてそれを知っているんです」

と、口に出しかけたが、トワルはすぐに思い当たった。

 この街の商業はこの人がほぼ独占しているようなものだ。この街で珍しいことがあれば大体この人の耳に入る。

 トワルが昨日あの浮浪者の行方を聞き回っていたのを誰かから聞いたのだろう。

「日中この店から滅多に出ないお前が元の持ち主を探し回るくらいだ。どれだけ厄介な代物かは理解しているのだろう。私なら上手く捌くことができる。利益が出たらお前に分け前をくれてやってもいいぞ?」

 この人はどこまで事情を知っているのだろう、とトワルは思った。

 実際、この人の商人としての手腕はかなりのものだ。

 言われた通りにあの宝石を渡せば莫大な利益を稼ぎ出すだろうし、トワルももうこの問題を気にしなくてよくなる。

 だが……。


「申し出はありがたいですが、お断りします」


 トワルははっきりと言った。

 ベルカークから笑みが消えた。

「なんだと?」

「あれを売りに来た方を探していたのは事実ですが、それはちょっとばかり聞きたいことがあったからです。扱いに困って突っ返そうとしていたわけじゃありません」

 トワルは淡々と言った。「厄介な物なのは認めますが、一度受け取った以上は手前でどうにかするつもりです」

 ベルカークはフンと鼻を鳴らした。

「オーエン師匠の教えか。理想を貫くのもいいが、地に足を付けて生きたいなら現実もしっかり見るべきだぞ。あの人も確かに口は回るし目利きの腕も相当なものだったが、余計なことに首を突っ込み過ぎた。それが祟って最後はあんな馬鹿みたいな死に方を――」

「………」

「いや、すまない。さすがに今のは失言だったな」

 ベルカークはわざとらしくゴホゴホと咳払いした。「だが、私の提案を断るということがどういう意味かは分かっているんだろうな?」

 今後『災いを呼ぶ死神の石』絡みでどんな窮地に立たされても、ベルカークは一切助けないし援助を求められても応じないということだ。

 ベルカークが言うと半ば脅しになってしまうが、商売人としては当然の対応だろう。

「はい、わかっています」

 トワルは頷いた。

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