Ⅲ 作戦開始
地恵期20年 6月24日
クライスターレ ブイルド区中央部 立ち入り禁止区域 午前11時00分頃
「こちらリテレ=スマル!クライスターレのブイルド区にて、上級クリーチャー{アーモラームズ}を発見!現在は建設中の立ち入り禁止区域内で暴走中!迅速に従業員を退避させた後、パトロール中の他部隊と合流次第、討伐を行います!」
現場の付近で全力疾走しながら、リテレはそう報告した。
「エルフォンド君!君には東側から避難経路の確保をお願いするわ!」
「了解です!」
{アーモラームズ}
体長3m程の異形型上級クリーチャー。
頭の無い巨人の姿をしており、腕部が異様に発達している。
特筆すべきはその硬さ。全身を巨大な銀の鱗が覆っており、その硬さはダイヤモンドをも超える。僅かに除く鱗の隙間からは人間のような目が計30個あり、それによって360度全方向の攻撃に反応することが出来る。
無暗に戦いを挑めば勝ち目は薄いが、知能は低く機動力も低い為、それを理解した上で作戦を立てれば討伐も可能である。
ゴォンッッ!
「みなさん、避難経路を作りました!速やかにこの隙間から外に避難して下さい!」
鉄骨が重なり合って完全に退路を失った人の集まりを発見したイーロンは、鉄骨や瓦礫を殴り飛ばして避難経路を確保し、大声で勧告した。
「トレイルブレイザーの方ですか!?助けてくださって本当にありがとうございます!うちの息子も憧れてるんです!ぜひ今度感謝状を!」
「あー、分かった分かった。分かりましたから速く進んで下さい!後ろ詰まってますんで!」
厳格な顔をした男性が涙目でイーロンに感謝をする。ぶっきらぼうな態度であしらったものの、イーロンも内心では喜んでいた。
(あの人達の為にも、絶対ぶっ飛ばさなきゃな・・・!)
改めて決意を固めていると、無線から連絡が入る。
「エルフォンド君!こっちの避難は終わったわ!そっちわ?」
「こっちも全員の避難完了しました!」
「グッジョブ!近くのスタジアムのゲートで待ち合わせようだわ!周辺のパトロール部隊にも伝えたから、人数が揃ったら作戦を立てようだわ!」
「了解しました!」
言われた通り、イーロンはブイルド区でもひと際目を引く巨大スタジアムの方へと駆け出した。
「ちょっとあんた!音がしたのはそっちの方角じゃない!どこ行くつもり!?」
同じ頃、ネリアは地面を走るキュアレを追いかけながら彼女の行動に文句を言っていた。
「無線で連絡があった。巨大スタジアムのゲートで集合すると。聞いていなかったの?」
(げっ・・・!)
鬱陶しいから無線を外した、なんて言えるはずもなく、青ざめた表情で建物の屋上に跳ぶネリア。キュアレのその言葉を聞くと、ネリアは彼女にお構いなく建物の上をぴょんぴょんと移動した。
(あんな奴の事なんて、待ってやるもんか・・・!)
数分後、スタジアムのゲートにネリアやイーロンを始めとした10人のトレイルブレイザーが集合した。
「・・・作戦は以上ですわ。何か質問がある人わ?」
作戦の全容を聞いた隊員達は全員首を横に振る。
「無いようですので、この作戦を実行しますわ。総員、ただちに持ち場に向かってくださいですわ!」
「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」
「設定割合500%!」
隊員の一人であるビゲロ=ラゲロが、注射銃型オブジェクト《ギガンティック〉をネリアとキュアレのオブジェクトに打ち込んだ。するとみるみるうちにそれらが巨大化し、5倍ほどの大きさになった。
「すっご!こんなに大きくなるの!?」
「驚いてる場合じゃないッス!速く行くッス!」
隊員の1人『ビゲロ=ラゲロ』は、身長2m10㎝、体重170㎏の超巨体の青年。年齢は25歳。
巨体の割に性格は優しく、垂れ目垂れ眉でかっ鼻と、顔立ちからもその優しさが滲み出ている。
そんな彼が使うオブジェクトは《ギガンティック》。文字通り〈大〉のジェクトが使われており、生物非生物問わず、注射を打ち込んだ対象物の体積・質量・密度全てを指定した分だけ巨大化する。限界サイズは10倍。
隊員3人がかりでそれぞれのオブジェクトを指定位置まで運び終わると、無線から連絡が入った。
「これより、アーモラームズ討伐作戦を実行しますわ!総員、作戦開始!」
シュルルルルルッッッッッ!!!!!
デュボボボボボッッッッッ!!!!!
ネリアのオブジェクトからは糸が、キュアレのオブジェクトからは水が勢いよく射出された。それらはアーモラームズの巨大な腕を絡めとり、瞬く間に動きを封じる。
「よし、全力で支えるぞ!!!」
先輩隊員の掛け声で、それぞれの腕を3人体制で抑える。
それは綱引きなどバカにならない程の重さ。
怪力に自信のあるイーロンが手伝ってさえ、その状況をキープするのは困難であった。
「くっっそ!なんて馬鹿力だ!」
「オブジェクトを巨大化して糸の耐久力を上げたが、それより先にこっちが吹っ飛ばされそうだ・・・!」
「・・・・・っ!」
「やっべぇ!重すぎて無理かもしれねぇ・・・!」
「弱音吐くなイーロン!アタシ達が踏ん張らなかったら、この街も終わっちゃうのよ!?」
「お前ら!口動かす暇あるならちゃんと持て!早くそこの柱にでも括り付けるぞ!」
頑丈そうな柱を見つけた先輩隊員がネリア達に指示を出し、全筋力を振り絞りながら柱に括り付ける。
「ふぅ・・・。なんとか柱に括り付けられたが、これだけじゃ心配だ。まだ俺達も支えとくぞ。ビゲロはさっさと仕事しろ!」
「分かってるッス!今行ってるッス!」
無線からビゲロの図太い声が聞こえた。その瞬間、遠くの物陰から巨体が飛び出してきた。300mは離れているのに、その巨体のおかげで誰なのかはすぐに分かった。
「設定割合300%!」
ドクンッ!
まるで軽トラックのようなビゲロがアーモラームズに突っ込んでいくと、動けないアーモラームズの鱗の隙間にギガンティックの針を差し込んだ。
「巨大化するッス!気を付けてくださいッス!」
その言葉通り、アーモラームズの体がたちまち巨大化していく。3倍ほどの大きさになったせいで、括り付けた柱もグラグラと揺れ始めている。
「巨大化確認!目標を直ちに射撃しますわ!」
ドヒュン!ドヒュン!
頭を割るような銃声が二発。同時に、アーモラームズの鱗の隙間から赤い血が二か所から噴き出た。
「目標命中。続けて攻撃を行いますわ!」
** * * *
「10人・・・これ以上の待機は被害の拡大もあり得る為、この10人で作戦を立案、実行したいと思いますわ。指揮を執るのはワタシ。『リテレ=スマル』が行いますわ。」
この「~わ」が口癖の少女の名は『リテレ=スマル』。身長130㎝体重30㎏の幼女体型だが、年齢は24歳。釣り目釣り眉でビゲロとは真反対の様な姿をしているが、人格者であることは変わらない。
彼女は〈小〉のジェクトを使った『ミニアチュア』という麻酔銃型オブジェクトを戦闘に用いる。生物非生物問わず、射撃した対象の体積・質量・密度を微小化させる事が出来る。その限界は元々の大きさの0.1倍。尚、設定を変える事で通常の重火器として扱う事も出来る。
「・・・!・・・了解。」
少し驚きながらもリテレの発言を承諾する彼の名は、『ジョット=スニペル』。標準体型の28歳。ペネトラと同様に、開拓の際は班長を任されることもある手練れのスナイパー。全身を黒いスーツで纏い、普段はシルクハットを深く被って目元を隠している。
そのやり取りを聞いていたイーロンは、何故班長の素質を持つジョットではなく、通常隊員のリテレが指揮を執るのかと一瞬疑問に思ったが、彼の喋り方を聞いてすぐに納得がいった。
彼女の作戦はこうだ。
手順1 ビゲロのギガンティックでネリアとキュアレのオブジェクトを巨大化し、拘束具としての耐久性を向上させる。
手順2 それぞれ3~4人がかりでアーモラームズの両腕を縛り、動きを封じる。
手順3 ギガンティックを用いて、アーモラームズの鱗の隙間に注射を打ち込み、その大きさを3倍に巨大化させる。
手順4 巨大化して的が大きくなったアーモラームズの目を、ジョットとリテレが全て撃ち抜く。全ての目を失ったアーモラームズは活動を停止する為、事実上の討伐となる。
** * * *
以上がこの作戦の全容である。
一番の鬼門であるアーモラームズを縛る点をクリアした以上、倒すのは時間の問題だ。
(さて、あとはリテレさん達に任せるか・・・。)
少なくともイーロンとネリアと先輩隊員の3人は心の中でそう考え、気をわずかに緩めていた。
しかし、上級クリーチャーはそこまで簡単に討伐できるほど甘くないと、彼らはすぐに知るのだった。
ミシ・・・ミシミシ・・・




