転生したら魔王のペットだった件外伝 ~ 星に思いを ~ 戦場に散った恋の華
七夕から思いついた悲恋の物語です。
後書きにちょっとしたお知らせがありますので、もしよろしければお読みくださいm(_ _)m
これは遥か昔、ルーンフェリア王国すら建国されていなかった頃の話である。
ここは魔族領の辺境にあるフェリア王国、後にルーンと呼ばれる町となる場所…。
「ルル様…。仕事の手が止まってますよ。」
深海を思わせる濃藍の髪に星のような白銀の瞳をした濃藍色のローブ姿の少年が少々あきれた様子で執務机に座る頭に白い二本の角を生やした銀髪碧眼の少女に声をかけた。
彼はレイナード=フォン=ルーン…。深海の魔道士の異名を持つ、今は滅んだルーン魔道王国の第二王子にしてこの国の宮廷魔道士、そして今代の聖杖ルーンの使い手である。
そして少女はルル=フォン=フェリア…。この国の若き女王である。
「疲れたんだもん。しょうがないじゃない!レイの意地悪!」
頬を膨らませながらも再び手を動かし始めたルル。
ちなみにレイはレイナードの愛称である。
ルルとレイナードは幼馴染みであり、両国の橋渡しとして婚約を打診されていた仲でもある。
ー それはルーン魔道王国が滅んだ事で立ち消えてしまった訳であるがそれが縁で彼はこの国の宮廷魔道士をしているわけである。
ただし見ての通り腐れ縁もあるからか護衛兼侍従のような事も任されているようだ。
「…。それが終われば美味しいクッキーとコーヒーをお持ちしましょう…。どうです?少しは疲れが吹き飛びましたか?」
「うん!」
ルルはニッコリと笑った。
ー 私、ルルはレイナードの事が好きだ。
どちらかと言うと口数が少なく物静か…。それでいて少し意地悪。だけど彼の優しげな微笑みと声、彼の何気無い気遣いに私の心は奪われていた。
でもきっとレイは私の事は嫌いだろうな…。だって私はレイの前では子供っぽいし甘えてばかりだもの…。
クッキーとコーヒーを準備するために部屋から出ていくレイナードをルルはチラリと見ていた。
ー 私、レイナードはルル様の事が好きだ。
女王として民の為に頑張る彼女も私にだけ見せる子供っぽい所も彼女の全てが愛しい。
国さえ健在であれば迷うことなくプロポーズしていただろう。
だが、きっと彼女は私の事が嫌いだろう。
私はどちらかと言うと口数が少ないうえについ意地悪を言ってしまう。きっと私が彼女を嫌いだと誤解されているだろうし意地悪を言う男など好かれはしないだろう…。
レイナードはクッキーとコーヒーを準備しながらため息をついていた。
片思いに見えてこの二人、実は両思いだったらしい。
こんな生活がいつまでも続くと思っていた。
そう、あの日が来るまでは…。
「なんですって!ルーン高原に大きな『ホール』が開く前兆が現れたですって!」
ルルは思わず声を荒げていた。
「はい。しかも規模は今までになく巨大な物になるかと…。」
伝えに来た兵士は真剣な顔で答えた。
「分かったわ。今すぐに軍を派遣する準備を始めましょう…。猶予はどのくらいありますか?」
「恐らく3~4日かと思われます。」
「そうですか…。急がなくてはなりませんね。」
ルルは険しい顔をしていた。
ルーン高原はここから5kmすら離れていない所だ…。下手をすれば民にも被害が出るかもしれない。
「ルル様…。少しお時間よろしいですか?」
出撃の前日の夜、レイナードがルルの部屋を訪れた。
「いいけどレイ。夜遅くにどうしたの?」
ルルが尋ねるとレイナードは少し照れくさそうに懐から青い小箱を取り出した。そして ー
「…。もし、今回の戦いで生き残れたら結婚してくれませんか?」
と、箱を手に跪いた。
「…。え?」
レイナードは勿論の事、突然のプロポーズにルルの顔も茹で蛸の様に真っ赤になっていた。
「…。今回の『ホール』の規模は過去最大と聞きました。今まで以上に生きて帰れる保証はありません。ですのでせめて思い残す事の無いように思いを伝えさせてもらいました。」
ー 返事は帰ってこられた時でかまいません。
レイナードは小箱をルルに渡すと足早に去って行った。
小箱を開けると中にはラピスラズリのはまったプラチナリングが入っていた。
「レイ…。無事に帰って来るのよ。」
ルルは愛しい魔道士の無事を祈るのであった。
この時の『侵略者』との戦いは後に『ルーン高原の戦い』と呼ばれる後にも先にも無いほどの大規模な戦いとなるのであった。
「『地獄大火炎』!」
レイナードが放ったどす黒い火炎が『侵略者』に襲いかかり数数えきれないほどの『侵略者』を焼き滅ぼした。
しかし、レイナードが、兵士達が、獅子奮迅の活躍を見せるも多勢に無勢、少しづつ戦線は町へと近づきつつあった。
これ以上近づくといくらルルが町に防御結界を張っているといっても被害が出る恐れがある。
「もう、千は倒したはずなの全然減った気がしませんね。」
兵士達にも疲労の色が見え始めていた。
『ホール』からは『侵略者』がまだまだ溢れだしている。
ー このままでは遅かれ早かれ戦線が崩れるだろう。
レイナードは国を、愛する人を守るためある決断をする…。
ズガァァァァァァァァン…。
途轍もない轟音と共に銀色の光が世界を包み込んだ。
「!!何があったの?」
ルルは思わず窓の外を見ていた。
「…。ルルサマ…。」
「??レイ?」
今は聞こえるはずのない聞き慣れた声に思わず後ろ振り向いたルル。
そこにいたのは半透明のレイナードの姿だった。
「レイ…。その体は?」
「ルルサマ…。モウシワケアリマセン サキダツフコウヲ ドウカ オユルシクダサイ。」
「ちょ、どういう事よ!レイ!」
ルルが思わず手を伸ばすがレイナードの姿はまるで幻の様に消えてしまいその手が触れることはなかった。
ー ルル様。心から愛しておりました ー
それが消える前にルルの耳に微かに聞こえた言葉であった。
これはルルの元にレイナード訃報が届く数分前の出来事であった。
部下から伝えられた話によると、国を守りきれないと悟ったレイナードは最終手段として聖杖ルーンに全魔力と生命力を捧げ、秘技『浄化ノ聖光』を発動させたそうだ。
『浄化ノ聖光』とは莫大な魔力を持つ使い手のみが使える全魔力と生命力を引き換えに邪悪な者を浄化すると共に『聖封呪結界』を発動し、結界を張り直すという秘技中の秘技である。
レイナードはそれを発動させることで『侵略者』を一網打尽にした。
お陰で兵士達には数多くの死傷者は出たものの民間人の犠牲者は一人も出なかった。
後日、今回の戦いの死者達の葬式が行われるともに重大な発表が行われた。
女王ルルが聖杖ルーンの新たな主に選ばれた事、今回の事で魔族領の統一が必要だと感じた事、それに伴いルルが魔王を僭称し、国名をルーンフェリア王国と改めるとの発表だ。
後に彼女は魔族領に散らばる国々を交渉により併呑し、統合国家となったルーンフェリア王国の初代国王ルル=フォン=ルーンフェリアとして歴史に名を刻む事になる。
ルルは誰もいない執務室でポツリと呟いた。
「レイ…。魂でも良い…。もう一度貴方に会いたいよ…。」
ルルの目からは止めどなく涙が溢れていた。
ー いくらがむしゃらに仕事をしても、趣味に没頭しても美味しいご飯を食べてもこの胸にポッカリと空いた穴が埋まることはなかった。それどころか穴は広く、より深くなるばかりだ。
「…。気分転換に夜風にでもあたってこよう。」
ルルはバルコニーに出た。
何気なく見上げた空には天ノ川が輝いていた。
「…。天ノ川か…。そー言えばレイが何か言ってたような…。」
ルルは幼い頃の記憶を必死で掘り起こしていた。
ー なぁルル。知ってるか?死んだ奴は…。
ー なぁ、ルル。知ってるか?死んだ奴は星になるんだってさ。
ー 天ノ川はあの世とこの世の境で、最も天ノ川が美しく見える7月7日の日は最もあの世とこの世の距離が近くなってあの世からもこの世の様子が見えると言われているんだ。
それが幼い頃レイナードが言ってた話だった。
「…。もし、手紙でも燃やしたらレイに届くかなあ?」
思いはつきは実行に移され、遺族や残された恋人達が死者への手紙や届けたい燃えるものを持ち寄り7月7日の夜、天ノ川が夜空に輝く中、町の中央広場で焚き上げられた。
この、ルルのふとした思いつきが後に『七夕祭り』と呼ばれる鎮魂の祭りの由来となるのであった。
◯ ● ◯ ● ◯ ● ◯ ●
昇れよ昇れ、星まで昇れ
愛しさ悲しさ煙に乗せて…。
もう届く事無き思いよ届け
英霊達へと伝えておくれ
愛しき人よ恋しき人よ
彼方に感謝と愛しさ込めて
これが我らの鎮魂歌
祈りの灯火送ります
届けよ届け思いよ届け
星へとなった彼方に届け
~ ルーンフェリアの七夕の詩より ~
◯ ● ◯ ● ◯ ● ◯ ●
「私の気持ち、届きましたか?」
ー 届きましたよ…。
その問いに誰かがそう答えた気がした。
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ちなみに本短編は、本編のとあるキャラの過去でもあるのですが、いったい誰なのか分かりましたか?
この外伝以外にもう一つミラージュにまつわる外伝、『転生したら魔王のペットだった件外伝 ~始まりの物語 ~ 幻影の邂逅』もありますのでもし良かったらお読みください。m(_ _)m