2.あと7日
「……かんしゅさん」
彼女の小さな唇が、鉄格子越しにそう囁く。
まだ少し舌っ足らずであどけない声は、容姿ともに年相応だと感じる。
何せ彼女はまだ12歳だ。
「……私は死ななくちゃいけません」
「私は信じているんだ。
絶対に殺してないだろう?」
口角を上げて微笑んで見せるが、果たして彼女が安心出来る笑みとなっているだろうか。
私の心配を他所に、彼女は赤い瞳を逸らしてしまった。
それを残念に思いつつ、彼女の言葉を待つ。
「ころしたのは私です」
「無理だろう。村人が全員死んだんだ。
リリィ、君の細腕でそれが出来るとは思わない。それとも魔法でも使った?」
「……はい、私は魔法を使いました。死んでほしいと強く願いました」
「願っただけで人が死ぬわけない。
いい加減、本当の話をしてくれない?」
「……」
この会話を何日繰り返しただろうか。
さすがに初日の"結婚しよう"発言は、彼女と案内してくれた先輩が驚いていた。
それから自分が監視当番の日は必ずプロポーズを行い、今の会話が出来るようになった。
でも、ここでいつも途切れてしまう。
私と彼女はそんなに口数が多いタイプではない。
「後、今日を入れて7日しかないんだよ、リリィ」
私はリリィを見つめる。
正直、すごく情けない顔をしていると思う。
折れてほしい。
殺したのは私じゃないと言ってほしい。
「お願いだ、リリィ。本当のことを教えて」
懇願して見つめるも、返ってくるのは真っ直ぐな視線と、
「私は村の人たちを全員殺しました。私は死ななくちゃいけません」
代わり映えのしない少女からの返答だけだった。