1.結婚しよう
それは直感だった。
目の前に現れたのは、白。
そして、赤。
真っ白な中の赤に、囚われた。
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ここは都会になりきれない、田舎とは言い難い、そんな街。
私はここで生まれた訳ではなく、この街に憧れている訳でもない。
仕事……この街の看守として配属された。
看守になったのは丁度3年前。
職探しのデータを新着順に見て、最初に目について応募したら採用となった。
その時私はまだ故郷に居て、その街の看守だった。
故郷で働くのは別に辛くもなく、楽しくもなく、普通。
だから別に配属先の異動は望んでいなかった。
そんな中、上司や先輩が苦味を潰したような顔で会話していたのを耳にした。
「あー、どうしようかねぇ」
「……何をですか、隊長」
「上からのラブレター。あの街の看守が足りないから誰かくれってよ」
「あの街?あー、あの死刑場ですか?」
「そー。とは言っても、"今は死刑ってどうよ?"派が多いから死刑執行は少なくなったけどな」
「そうですね。今死刑になるのは、相当頭のネジ吹き飛んだヤバい奴ぐらいです」
「そこが問題なんだよなぁ」
「問題?」
「イカれた奴しかいないから、誰もあそこの看守をやりたがらない」
「関わり合いになりたくないですよね、絶対」
「だよなぁ。頭おかしい奴と関わってたら、こっちまで気が狂っちまう」
「断れませんか?そんなとこにやれる子はウチには居ませんよ」
「オレも断りたいのよ。けどねぇ……」
「良い言い訳が無いと?」
「そー。突っぱねるそれなりの理由が必要な訳」
「こっちだって人足りてない、で良いじゃないですか」
「確かに足りてないんだけどな。上が言うには、ウチは多いらしくて1人寄こせだそうだ」
「無理無理無理。あんな所にやれる子はいません」
死刑場。
頭のイカれた奴らの最期の場所。
誰もやりたがらない仕事。
「隊長、副隊長。私が行きます」
自分から、言ってしまった。
私は仕事に対して非積極的だ。
与えられた仕事を忠実にこなし、勤務時間内に終わらせる。
面倒事は絶対に首を突っ込まないタイプ。
なのに、自然と口から出してしまい……今に至る訳だ。
後悔は今の所ない。
勤務場所付近の家を借りれたし、必要な物は近くのお店で買えて不便はない。
そして今の所、死刑確定者は1人だけ。
そう、目の前に囚われている女の子だけ。
透き通るような白い肌に、柔らかそうな白い長髪。
まつ毛も眉も真っ白。
ぷくっとした紅色の唇。
少し薄汚れた囚人服。
そしてなんと言っても、その赤い瞳。
ペタリとくだけた正座をしながら見上げてくる赤。
初めて会った時も思った。
一度、二度、三度、今でも思う。
「考えてくれた?結婚しよう」