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私の中の世界

作者: スミンズ

 自分が描くものがいけないものだとは思っていない。ただ、その絵はいつも人の感情を逆撫でしてしまう。確かに、生物の生き死にをテーマにして絵画を描くことの多い私は、人から怖いといわれてもしょうがないとは思ってはいる。しかし、それを一種の美徳だとしてきた私にとって、それを否定されることはとても悲しいことでもある。それが、父親であると、やはりとても辛い。


 「こんな絵を描かない方がいい」率直に、しかも淡泊に父は言った。


 いつもの父は私をとことん可愛がってくれる。様々な問題の末、血は繋がっていない私を、本当にここまで愛してくれてありがとう。いつもそんな気持ちで一杯だ。けど、そんな気持ちをいつも私が描いた絵へのコメントで破壊してくる。


 なぜ、なぜ駄目なんだろう。そんな気持ちは、ある日突然ふっと消え去っていったのだ。それはお父さんのお父さん。義理のおじいちゃんからの言葉だった。


 去年……。私が高校1年のとき。親がどっちも揃って出張ということで福島から青森のおじいちゃんの家に止めてもらったときのこと。案の定防備のなってない私はおじいちゃんにタブレットに絵を描いてるところを見られてしまった。


 「あ、あの、これは」赤色で染められた空に青く光る鳥が傷だらけで飛び立とうとする絵。タッチはだいぶ不気味であったと言っていいかもしれない。いつも否定されていたから、自分の絵を否定するかのごとくえを隠した。


 「なんで隠すのさ。凄く上手いじゃない」


 「え?」 否定じゃなくおじいちゃんはニコニコとそう言った。私は、そんなおじいちゃんの言葉に意を決して、絵を見せた。


 するとおじいちゃんはまじまじとその絵を見てこう言った。


 「面白い絵だね。江波ちゃんの色って感じだ。綺麗だね」


 「ホントに!そう思う?」私は思わず声をあげた。


 「勿論だとも。江波ちゃん、人には心がある。その心は人それぞれだけどね、心を表現できる人は強い。だから、そうだなあ……」おじいちゃんはそう言って上を向いた。


 「私が死んだら、江波ちゃんに絵を描いてほしいな」


 「死んだら……?」


 「まあ、ともかく、江波ちゃんは強い子だよ。それだけは確かだ。自分のまま生きていってほしいな」


 そう言っておじいちゃんはニッコリ笑った。思えばそれが私に向けた遺言だったのかもしれない。



 それから一年がたった。おじいちゃんが死んでしまった。そんな喪失感の中で、また私はお父さんの妹の子、つまり従兄弟の康介くんにも絵を見られてしまった。葬式の際におじいちゃんちに忘れたタブレットを見てしまったようだ。


 しかし、康介くんは意外にもすんなりとその絵を受け入れてくれた。死んだ時のおじいちゃんの絵だと言うのに、すんなりと受け入れてくれた。確かに最初少しは抵抗心があったらしいけど、今は絵を描いてメールでおくってあげる感想を描いて返信してくれる。それはおじいちゃんから、私と同じようなことを言われていたかららしい。私はそれがとても嬉しかった。私をしっかり見てくれる人が表れたって。


 今では同い年ということもあって結構仲良くしている。彼は北海道だから、会うことはほとんど無いけれど。


 そうして気づいたことがある。人脈ってとても大切だってことに。自分をしっかり見てくれる人が、自分を認めてくれると、その人はきっとまた他の人のことも認めている。その人とも勿論繋がっていけて、その人と繋がっている人とも繋がっていける。そう、きっかけとなれる人は誰でもいいんだ。



 高校にいくと、まだ人の少ない校庭の隅の枯れた木の下に稲田春佳がいた。


 「春佳!」私は呼び掛けた。


 「お、エナちゃん」


 春佳は同じクラスの子だ。去年は全く関わりの無かったのだけど、美術の授業の時に偶然相席になってから気がつかぬ間に仲良くなった。彼女も、私の持つ世界のことを理解しながら、それを受け入れてくれている人だ。きっと、この学校唯一だろうと思う。この前男子生徒から絵を「キモい」と浴びせられたことがあるくらいだから……。


 「枯れ木は素晴らしいんだ。儚く見えるけど、来年になれば青々と輝くんだから」春佳はそう言いながら手に持ってたボードの上の画用紙にクレヨンで木を描いていた。私とは全然趣の違う絵でどちらかと言うと希望に満ち溢れたいる絵だった。枯れ木に、まるで息が吹き込まれたようだった。


 「なるほどね。そう言われたらそうかも」


 「でしょでしょ」そう言って春佳は笑った。


 そんな、友達らしい友達との会話。それが、私にとっては何よりも重大で、とても尊かった。


 そんな春佳とは帰るときは一緒にかえっている。自転車で3、4キロをいつも。


 「あれ、あれは」帰り道、私は道でうずくまってる何かを見つけた。


 「あれは猫だよ。なんか具合悪そう」春佳は自転車を降りて猫に近づいていく。私もそれに習った。


 「ひどい。怪我をしている。どうしよう」


 「次を右に曲がったところに動物病院があったはずだよ。行ってみよう」私はそう言った。


 「うん」春佳は頷いた。


 ………


 「ええ、たいした怪我じゃないでしょう。これでよしです。あとは数日安静にしとけば大丈夫です」


 「よかった!」私は思わずそう言った。


 「でもエナちゃん。どうする、猫」


 「私が育てる」もう決めていたんだ。そんな顔で春佳に訴えた。すると彼女は静かに頷いてくれた。



 「しかし江波が猫を育てたいだなんて。いや、母さんが良いっていうなら賛成だよ」お父さんはそう言った。


 「私も構わないけど、大切に育てるって約束してね」


 「うん!」私は思い切りそう返事した。猫はもうこの家に慣れてしまったようだ。和室の絨毯の上で横になってキョロキョロしていた。


 「江波」私が立ち上がろうとするとお父さんは急に声をかけてきた。


 「江波は、生きているっていうこの瞬間を大切にしていってくれよ」唐突にお父さんは言った。「僕はずっと、江波の世界というものを分かったようで全く分かってなかった。けど、最近そうやって見せる笑顔、それで分かったよ。江波は江波のままで良い」


 私はそんなお父さんの言葉をキョトンと聞いていた。けれど、ふと笑って言って見せた。


 「自分のままで生きてほしい。でしょ?」


 「……じいちゃんにも言われてたのか。ごめんな、江波。お父さんが先にぞれを言ってやるべきだったのに」


 「いいよ。今はもう、仲間が沢山いるから!」


 猫が、にゃ~ん、とないた。

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