1
「おお、これがVRゲームか……。」
半分姉に押し付けられる感じで手にいれたそれは、最近話題になっているゲームソフトとセットになっていた。
ダイブ型VRMMOのゲームが次々と販売される時代の中、最もリアリティーが高く、そして人格のある高性能のAIを搭載した全く新しいゲーム『fragment・online』は販売から人気を呼び、販売して30分には売り切れていたというのだから驚きだ。
ゲームサービス開始からすでに一ヶ月ほどたっているが、未だにメディアでは毎日のようにこのゲームが取り上げられている。
ほとんど現実世界のような違和感のない感覚だと噂で気になってはいたのだが、無理して入手しようというほどでもなく購入するにしても随分後になるかも知れないと思っていたところだったので、正直姉には感謝しかない。
わくわくしながらゲームのパッケージをあけると、一般的なVRゲームであるヘルメット型のゲーム機が現れる。
俺はこんな年頃なのにまだゲーム機も持ってなかったんだよな。姉さんからソフトだけでなくゲーム機のセットまでもらえたときには感動して、あの姉さんが神にすら見えたぐらいだ。
「おぉ・・・!」
このゲーム機の値段は5万ほどで家庭でも買える値段だが、様々な機能のついた30万もするベッド型もあるらしい。
そんなもんなにに使うんだって話だが金持ちには人気だとか。きっと貧乏人には分からない世界があるのでしょう。
まあ、それはさておき。すぐに始めたい気持ちを抑え、ゲーム機と一緒に入っていた説明書を手に取り軽く読んでいく。
俺は一応、説明書には目を通すタイプだ。流し見程度だから見落としは多いけど。
読み終えるとfragment・onlineのゲームソフトをセットする。説明書通りにヘルメットを被りベッドの上で仰向けに寝転がりスイッチを入れた。
睡眠導入の作用を受け目を閉じると、すうっと眠りにつくように意識が遠くなっていった。
いざ!ゲームの世界へ!
************
気がつくと何もない真っ白な空間にいた。
「こんにちは。『fragment・online』の世界へようこそ。」
誰の姿も見えないが、どこからか声が聞こえてきた。おそらく管理AIなのだろう。それ以外になにがあるんだって話だが。
このゲームのAIはどれも高性能で普通に会話が可能なほどだ。まあ、今の世の中そこまで珍しいってわけでもないがゲームとしては比較的新しい。
「ここはゲームを開始する前に必要な設定を行う場所です。まずはプレイヤーネームを設定してください。」
目の前にプレイヤーネームを入力するためのキーボードが現れる。
「『セイ』と。」
俺の名前は誠也だから『や』をとっただけの安直なプレイヤーネーム。なんのひねりもないが分かりやすくていいじゃないか。ただ単に時間をかけて考えるのが面倒だったというのもあるけど。
「『セイ』様でよろしいですか?」
「はい。」
「……登録完了しました。それでは次はゲームのアバターの容姿の設定に移ります。」
そういうと、いきなり目の前に無表情の自分とそっくりな人物が現れた。
これがアバターなんだろうが、客観的に自分を見るのって一度はやってみたいことだったがなんだか変な気分だ。
ちなみに目の前の俺は無表情。自分の顔ながら無表情は怖いな。
「自分の姿をベースにアバターを作成してください。変えたい場所をタッチすれば変更できます。ですが、現実世界で問題が起きないように体型はあまり変更できないようになっています。もちろん、性別を変更することもできません。」
確かに身長の高い人が幼児体型になると体を動かすのが難しそうだからな。性別については言わずもがな。
しかしこの規制は全国のネカマさんやネナベさんに優しくない機能だ。さすがに体が変化してしまうダイブ型でネカマやネナベに挑戦するのは一部を除いて少数派かもしれんが。いや、そこまでくると、もはやそれ目的でゲームを始めるんじゃないか?
まあそれはともかく、説明の通りに髪にタッチすると髪の色、髪型を設定する画面が現れる。
髪型は現実では絶対しないであろう長髪にして、髪色はしばらく迷った結果、若干青みがかった黒にした。
次は目の色を変えてみる。
次々に色を変えてみて、最終的に青緑色の瞳にした。理由?特にありません。
顔も細かく変えることができ別人のようにもなれるが、面倒くさいのでそれはやめておく。無理に変えると顔が不自然になるし。一応補正がかかるみたいだし。
そして俺はアバター作成を終わらせた。
「これで終了っと。」
「かしこまりました。・・・登録完了しました。」
登録が終わったようで完成した目の前のアバターが消えた。
「種族を選択してください。種族によってはアバターが少し変化することがあります。」
目の前に現れたプレートを見ると選択できる種族が並んでいた。
全てのステータスが平均的な基本の人間。
筋力値は低いが魔法系に有利なエルフ。
防御、筋力に優れたドワーフ。
そして様々な種類のある獣人。
どの種族も面白そうだがここはやっぱり無難な人間にしておこう。どんなプレイスタイルでいくか決めてないし。
「種族は人間でよろしいですか?」
「はい。」
「種族を人間に設定しました。容姿に変更はありませんので次に進みます。次に初期装備とアイテムの確認です。説明書に記載してありましたが、説明を希望しますか?」
「説明書を呼んでいれば大丈夫か?」
「大丈夫です。プレイヤーが全員使用できる機能『インベントリ』にお渡しするアイテムは入っていますのでゲームが開始したら確認してください。初期装備は革の鎧かローブが選べますがどちらにしますか?」
「じゃあ革の鎧で。」
「かしこまりました。では初期武器を短剣、片手剣、弓、杖の中から選んでください。ちなみに短剣は2つ、弓は10本の矢がついています。」
「えーと、片手剣で。」
「かしこまりました。それではアバターを参照いたします。」
目の前がぐりんと一回転したかのような目眩を覚えると俺の姿が一変した。
目の前に現れた鏡を見るとちゃんと先ほど作った容姿になっていて、腰には片手剣が下がっていた。
髪が長くなったのは少し違和感はあるがそこまで気になるほどでもない。
体もなんも問題なく動くようだ。
「最後にジョブを選択してください。ジョブは全部で五つ獲得できますが、ここではメインとなるジョブをひとつ選択できます。他のジョブはゲームを進めると獲得できるようになります。」
目の前にずらりとジョブが表示された。
下にスクロールするとジョブが何種類もあることが分かる。ここからひとつ選ぶのは結構大変な作業だ。
横には検索の欄があって、これで目当てのジョブを探したり、ジョブを絞れたりできるようだ。
魔法にも引かれるが、ここは最初から決めていた刀士を選択する。
俺の祖父は昔刀をやっていたそうで、それを聞いて興味を持った俺に教えてくれていた。しかし木刀しか持ったことがないので、俺はひそかに本物の刀を持つことが夢だったのだ。現実ではさすがに本物の刀を持つことは無理だが、本物に近いゲームで刀をふるう機会があるならそれを利用しない手はない。
確定のボタンを押すと「刀士のジョブを獲得しました」とアナウンスが流れた。
「これで全ての設定を完了しました。それではfragment・onlineの世界をお楽しみください。」
そのアナウンスを最後に再び意識が遠退いていくのだった