表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/62

新米賢者、リリムの思考は規格外

「・・・ッ!」

 

 私が後ろを振り返ったところでリリムは動きを止めた。

 反射的に掛けていたマントをリリムに覆い被して声を荒げる。


「何か着てろ!」

 

 マジで何考えてんのこいつは!?

 全裸で忍び寄ってくる奴があるかっての!

 私にちょっかい出さないっていう旅立ち前の誓いはどこいった?

 

「あんた、今何しようとしてた?」

 

 目を細めてリリムを睨みつける。

 

「風邪をひいてはいけないので、温めて差し上げようと思いまして・・・。」

「嘘つけぇ!さっさと服を着ろ!!」

 

 もし本当なのだとしてもいらぬお節介、お呼びでないのよ。

 そもそも今は気温も穏やかな季節なのだし、そこまで身体が冷え込んでいるわけでもない。

 火があれば十分だ。

 

 幸いこの洞穴は前に誰かが使っていたようで、乾いた木の枝がいくつか蓄えられていた。

 火を焼べる石囲まで作ってある。

 

「セツナ様がそう仰るのであれば、仕方ないですが服を着ましょう。」

 

 リリムは元いた場所に戻って肩を落としながら着替えを始めた。

 

「そう言えば、アンタ賢者になったけど何か魔法とか使えるようになったの?」

 

 その辺もある程度把握しておかなければ。

 この子は聖魔導師になりたいと言っていたし、サポートや破邪系の魔法を覚えたいのだろう。

 

 攻撃と回復と補助、ある程度の魔法をバランスよく習得しておいてほしい。


「途中休憩している時に、JPがありましたのでそれを使って習得しましたよ。

 どうやら賢者は転職した時点で一つ魔法を覚えられるだけのJPを獲得しているようです。」

 

 さすがレア職業なだけあって優遇されてるのね。

 特に魔法を使ったり、魔物と戦ったわけでもないからレベルも上がっていないはずなのに。

 

「どんな魔法を覚えたの?やっぱり聖魔導師系の魔法?」

「はい、習得条件を満たしているものは性魔導師のものしかなかったので、迷わず覚えました!」

 

「へ〜、どんな魔法?」

「【敏感肌】です!」

 

 私の聞き間違いだろうか?

 

「何って!?」

「ですから【敏感肌】です。」

 

 何その魔法、そもそも魔法?

 肌が荒れそうなんですけど。

 そんな魔法が聖魔導師にあるの?

 効果か全くわからない・・・。


「聖なる魔導師の魔法よね?回復とか補助とかの魔法なの!?」

「聖なる魔導師ではなく、性的な魔導師の方の性魔導師ですけど・・・。

 これはどちらかと言えば補助魔法ですよ!」

 

「無駄な事に大事なJP使ってんじゃ無いわよ!!!

 馬鹿なの!?そこは戦闘で使える魔法を選択しなさいよ!!

 大体性魔導師ってなによ!!!?」

 

 あぁ、こいつ賢者の有用性を全く理解できてないお馬鹿さんだわ。

 脳みそお花畑を通り越して既に枯れ果てたカズラの海だわ。

 

 それに敏感肌って、名前からして補助というより肌トラブルを起こす呪いでしょ。

 

「それ、私に使ったりしないでよね!」

 

 こいつが何の目的でそんな肌荒れを起こそうとしているかわからないが、念のため釘を刺しておく事は必要だろう。

 

「セツナ様に使ったりしませんよ!」

 

 どうだか、実際あんた目を合わせないじゃ無い。

 どこ見て喋ってんのよ。

 

 私、身の危険。

 

「この魔法は私の為の魔法です!

 見ててください。【敏感肌】!!」

 

 リリムは頼んでも望んですらもない魔法を唱えた。

 こいついきなり何をやり始める気!?


 馬鹿なの?肌荒れ起こしてどうすんの?

 魔法を使った直後、リリムが少し身震いした。

 

 外見では何の変化もないが・・・。

 リリムが此方へ向かって歩き出してくる。


「あぁ、こんなに敏感になるなんて・・・。

 衣摺れだけでも心地いい❤︎」

「敏感違いか!!!?」

 

 私は咄嗟に体を拭いたタオルを鞭のようにしならせてリリムへ振るった。

 多少の水分を含んでいる為かなり痛いはずだ。

 虚仮威しのハリセンとはわけが違う。

 

 パチンと音を響かせて、タオルは容赦なくリリムを払う。

 

「あん❤︎」

「悦んでんじゃないわよ!!!」

 

 リリムは両手で肩を抱き上げ奇声を上げた。

 

 やっぱりただのド変態かよ!

 いや、こいつのは思考はその上を行く程規格外だ。

 せっかく着替えたと言うのに、変な汗が噴き出してくる。

 

「私に触んなよ?」

 

 苛立ち紛れにリリムへ命令する。

 

「セツナ様ったら、恥ずかしがり屋さんね❤︎」

「自分の行動に唾棄されとるとは思わんのかぁあ!!」

 

 私はこんな相方と旅を続けなければならないのか!?

 もう直ぐにでも逃げ出したい。

 しかし外は雨、逃げ出そうにもまた雨の中をウロつくのもゴメンだ。

 

「セツナ様が望むのならば、私は耐え忍びます。

 いつの日か、私を受け入れて下さるその日まで!!」

 

 そんな日は来ない。

 

「衣摺れだけでもすごいぃ!!!」

 

 完全に脳内解放してしまったリリムを放置して、私は一眠りする事にした。

 命令を遂行出来ないというテロップも浮かんでこないし、おそらく大丈夫なはずだ。

 

 もし何かしてきたら容赦なく木に縛り付けてでもトンズラさせてもらう。

 

 でも、リリムが縛り付けられる事で悦ぶのでは無いかと思うとゾッとするほど恐ろしい。

 

 何かリリムを抑えつける案を考えないとね。


 とりあえず寝るか、疲れた!

 

 後ろからリリムの呻き声が聞こえる洞穴で、耳栓をして私は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ