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温泉まんじゅう

「あぁ、いいお湯だったわぁ〜」

「私も、セツナ様と温泉に入れてしあわせです!」

 

 リリムは体からほかほかと湯気を上げながら和かに笑う。

 いきなり躓いてきて不快な思いをさせられたが、私の言う事を聞いてそれ以外は大人しくしていた。

 

 見ると私を探しまわったのがよくわかるほど身体がボロボロだったので、今回は大目に見た。

 

 リリムにこの山を登るのはかなり酷だっただろう。

 途中ロープで壁を登らなければならないような場所もあったくらいだ。

 

 でも、帰りが心配よね。

  

 私たちは温泉から上がって、せっかくだったので用意してあった浴衣に着替えた。

 この街の各温泉と宿はそれぞれ提携を結んでいるらしく、宿に宿泊する者はどこの温泉でも浴衣を借りられるらしい。

 

 湯屋に返す必要はなく、宿で返却すればOKらしいのだ。

 私はこのまま浴衣でのんびり歩き回る予定だが、帰るときにリリムはどうするんだろう?

 浴衣なんかであの道を帰れるのだろうか?

 

 と、帰る時のことを考えてふと気づく。

 

「今更だけど、ラックはどうしたの?」


 私の問いにビクッと肩をあげるリリム。

 なんかやらかしたな・・・。

  

「ラックは?・・・・」


 ・・・・・・。


「じ、実は・・・・・・。」

 

 リリムは目を逸らして事の顛末を話し始めた。

 自分が魔法で縄を解いた事、ラックを退けて宿を後にした事。

 それから私を探しまわってたどり着いた事を。

 

「アンタ、私の大事なペットになんて事してくれてんのよ!

 使い物にならなくなったらどうするつもり!?」

「すいません・・・。」

 

 せっかく乗り物を手に入れたと言うのに、そんな事で使えなくなったらたまったもんじゃない。

 

 もう少しゆっくりしていたかったけど、ラックの事も心配だ。

 仕方ない、今日のところは一旦帰るか。

 

「とりあえずラックの所へ帰るわよ。」

「あ、セツナ様。あれ見てください。」

 

 アンタは全然反省してないな。

 人の話聞いてる?


 とはいえ気になったので、リリムのさす方を向いた。

 そこには赤い旗が立てかけられており、

『温泉であったまったからだを

 さらにほかほか

 名物 温泉まんじゅう』

 とデカデカと書かれている。


 温泉まんじゅうか、絶対美味いわよね。

 

「仕方ないわね、食べましょうとも!」

「はい!」

 

 ラックの所へはそのうち戻るから、少しくらい寄り道してもオッケーでしょ。

 

「おじさぁん、饅頭二つ頂戴。」

「あいよ!」

 

「セツナ様、私の分までありがとうございます!」

「何言ってんの?」


 決まってるでしょ、一つは私の分で、もう一つは後で食べる分だ。

 

「ぇ?でも二つって・・・?」

「一つは後で食べる分。自分の分は自分で買う!」

 

 そりゃあそうでしょ。

 

「えぇ!?もう手持ちのお金を持ってないんですよぉ!!」

 

 なんて奴だ、温泉に入るお金がある癖に饅頭一個も買えないなんて。

 どんだけギリギリで金銭を持ち歩いてるんだ・・・。

 もう少し余裕を持て。

 

「まぁ、私が食べてから考えるわ。」

 

 いっただっきまぁ〜す。

 

「あむ。」

「あぁ・・・。」

 

 歩きながら、私はいかにも美味しいですよ〜、と言う嫌味を込めた仕草で饅頭にかぶりついた。

 

「あふ、あふ・・・あふ・・・」

 

 あつい、でも柔らか〜い。

 

「あふいけほ、美味し・・・い・・・!?」

 

 辛っ!!

 

「けほっ、ゲホッ・・・・」

「セツナ様、大丈夫ですか!?」

 

 あ・・・か・・・辛い!?

 辛いっていうよりも痛い!

 口の中が痛いわよ!?


「辛い!痛い!!水、みずぅぅぅううう!!!」

 

 リリムは慌てて水を取りに走っていった。

 何これ!全く甘くない!!?

 しばらくすると、水を持ったリリムが帰ってくる。


「あぁ、生き返った・・・。

 ありがとう。」

「いえいえ!」


 にしても辛すぎでしょ!?

 

「何この温泉まんじゅう!」

「そりゃあ、アクアパール名物の激辛温泉饅頭ですからね。

 一口で食べたらそうなりますよ・・・。」

 

 激辛温泉饅頭!?

 そんなこと、早く言ってよ・・・

 そんな事知らないわよ。

  

「私はもういらないわ。残りはリリムにあげる・・・。」

 

 何がほかほかよ、痛かったわよ。口が。

 リリムは知っててこんな物欲しがったの?

 どうかしてるわよ?

 

「それでは、ありがたく頂きます。」

 

 うわぁ、本当に食べ始めたわ。

 大丈夫なの!?

 

「確かに少し辛いですけど、美味しいです。」

 

 少し?

 私は口の中が痛くなるほど辛かったわよ?

 どうなってるのその舌。

 

 リリムは水も飲まずに饅頭を食べきった。

 少し癪だが、リリムが居てくれて助かった。

 私一人だと食べれなかったし、水を求めている間に口の中が大変なことになっていただろう。

 

 いらぬ体力を使った気がして、近くのベンチにもたれかかった。

 

「あぁ、死ぬかと思った・・・。」

 

 とんだ買い物だった。

 これからあの道を帰らなくてはいけないのかと思うと気持ちが重たい。

 ぼーっと椅子から景色を眺めていると、何やら看板が目に留まった。

 

 『おかえりはこちら→→→』

 

 あれ?あんな看板立ってたんだ。

 でも、そっちは来た道と逆方向じゃ?

 

 私はそちらが気になって徐に立ち上がると、矢印のさす方へ歩き出した。

 

「あ、待ってくださいセツナ様。」

 

 リリムも後をついてくる。

 しばらく進むと何やら大きな鳥居が見え始めた。

 近づくにつれて、その存在が露わになる。

 

「え!こんなのって、嘘ぉ〜!!?」

「凄いですねぇ〜!!」

 

 二人して、その光景に目を疑った。

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