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水の都アクアパール

「やっば〜い、超気持ちい!」

 

 立ち昇る湯けむりの中、私は温泉に浸かっていた。

 数ある温泉の1つ、秘湯【朧】。

 

 水の都アクアパールの外れにある山中にその場所は存在した。

 切り立った崖や、一本橋を通ってたどり着く事のできる秘境。

 

 開拓されていない山からアクアパールの街並みが見下ろせる絶景だ。

 振り返れば流れ落ちる温泉の滝。

 少し熱めの温泉がまた心地よい。

 

 何がいいって、リリムがこの場にいない事。

 早めに宿をとって部屋にくくりつけてきた。

 ラックに見張らせてるから大丈夫だろう。

 

「あぁ、極楽ってこの事だわぁ〜」

 

 疲れた体に染み渡るように、温泉を満喫している。

 

 山荒しが過ぎ去った後、ラックに走ってもらったらあっという間にたどり着いた。

 

 途中魔物がいたけど、ガン無視である。

 だって疲れたもん。

 

 私の目的の為にレベルも上げていかなきゃいけないんだけど・・・。


 もう一度言っておく、だって疲れたもん。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 どうも、みんなのアイドルリリム(自称)です。

 

 大変な事になってしまいました。

 

 せっかく温泉の聖地に到着したというのに私、軟禁状態です。

 

 セツナ様が宿を取りたいと仰ったので、持ち前の営業スマイルを駆使して適度に安くて良さそうな宿を探し出しました。

 

 セツナ様も嬉しそうでしたよ。

 

 で、宿に荷物を降ろして温泉に入る準備をしていたら、後ろから襲われました。

 

 手と足を縛られて、目隠しをされて。

 セツナ様がようやく私のプレイスタイルに賛同してくれたと思ってドキドキしたんですけど、そのまま口布までされて柱に固定されてしまいました。

 

 現在放置プレイの真っ最中です。

 ぇ?

 羨ましいって?

 

 確かに考え方を変えるとこれはこれでありかもしれません。

 待たされた後のご褒美。考えただけでもゾクゾクしますね。

 

 でも違うんです。

 今の私の一番はセツナ様と温泉に入ること。

 温泉に浸かって、背中を流し、ひょんなトラブルから肌と肌が触れ合う二人。

 

 二人は恥ずかしがりながらも見つめあい、唇を重ね合わせる。

 そして秘密の花園へと落ちていく!

 

 そう!それが私の思い描く今日この日最高のストーリー!!

 

 それを何ですか、人をただの変態みたいに!

 

 私だってイチャイチャしたいんです!

 受けばっかりじゃないんですよ!!

 

 どうにかして抜け出せないかな・・・。

 

『ガウ』

 

 ペットOKの宿屋だったからラックの奴も近くで私を見張ってます。

 

「ん〜〜あ〜〜ーーーーーー!!」

 

 セツナ様、猿轡の腕もピカイチなんですね、全く喋れません。

 ますます惚れちゃいます。

 

 何とかしてこの犬に縄を解かせないと、セツナ様の元に迎えない。

 

 犬!あんた早く縄を解きなさい!!

 私の魔法を喰らわせるわよ!!

 

 魔法?

 ・・・待てよ?

 そう言えばセツナ様が魔法の習得をお預けした所為で、JPがかなり残っている。

 ここから抜け出せそうな魔法を習得出来ないかしら?

 

 まずはステータス画面の確認から。

 

職業【賢者】

LV:5

MP:75

SP:25

 

スキル

秘薬成績LV:1


魔法

敏感肌LV:1

エンシェントノヴァLV:1

 

 レベルもだいぶ上がってきましたね。

 残りのJPは?

 18もあります。

 これならいくつか習得出来そうですね。

 

 火の魔法は縄を焼くときに熱そうだし・・・。

 あ、風魔法が習得できそう。

 

 ・・・・・・これだ!

 【ウインドカッター】

 これで縄を切れば!

 

 消費JP3か、全然大丈夫。

 即習得。


『魔法ウインドカッターを習得しますか?YES/No』

 

 YES

 

『ウインドカッターLV:1を習得しました。』

 

 よし、何とか小さい範囲で発動するように祈りまして・・・。

 

 ウインドカッター。

 

 私の掌あたりから小さなカマイタチが発生して、私の手を縛り付けていた縄を切断した。

 

 よし!

 

 私は目隠しをとり、口布を外して足を縛っていた縄を解いた。

 

『ガゥガウ!』

 

 犬っころが吠え始めたが知ったことではなかった。

 

「私はセツナ様の元へ駆けつけるの!

 邪魔しないでくれる!?」

 

 そう言って犬を目で射って部屋の外へ向かって歩き出す。

 もちろん温泉セットは忘れない。

 

『ガッ!』

 

 すると突然犬が私を押し倒して馬乗りに押さえつけてきた。

 

「あんたに押し倒されるのなんて望んでないの!

 マウントウルフだからって、人のマウントまで取ってんじゃないわよ!さっさとどきなさい!!」

 

 首を振って退こうとしない犬。

 

「いいわ、アンタにも先輩の恐ろしさってもんを教えてやろうじゃない。

 後悔しても遅いわよ!!」


 敏感肌×2

 

 私は魔法を発動すると同時に、犬の股間に盛大な蹴りを入れてやった。

 

『ギャヴゥゥゥゥゥゥ!!!???』

 

 犬は急所を蹴られた衝撃で転げ回った。

 

「アンタはせいぜい、そこでもがき苦しんでなさい!」

 

 悶え苦しむ犬を見下ろして、私はセツナ様の元へと走った。


 

 ふん、犬っころ風情が私を侮った罰よ。

 自分がオスだったことを後悔するがいいわ。


 セツナ様!いま、お背中を流しに参りますよぉ!


「セツナ様ぁ〜、何処におられるのですかぁ〜!」



 真昼の温泉街を一人の女性が疾走する。

 湯屋という湯屋を渡りに渡って、セツナの元へと駆けていく。

 それを見たもの達は口を揃えてこう言ったという。

 

「刹那の魔女がやってきた。」

 

 彼女は口元に薄く笑みを浮かべて、セツナ、セツナと叫びながら目を見開いて走り抜けていった。

 

 真昼の温泉街を刹那の魔女が駆けていく。


 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 え、何この悪寒・・・?

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