5 巫病
諸説ありです
ミンシアと二人で、焚き火を挟み。夜の見張り番と言う名のお茶会を続ける。
なんと言うか……柄にもなく、儂の身の上話をさせられて、少し困惑気味だ。
やはり、アークプリーストと言う職業柄のせいか、聞き上手なのだろう。
信者の懺悔を聞いたりするの、得意そうだもの。
そうなると、裏表の無い、純真無垢な彼女に、少し意地悪を言ってみたくなるものだ。
「しかし、儂の夢を見るとは縁起悪いな」
「ええ!?」
「ふふっ、冗談じゃ、それ巫病かもしれんな」
「病気!?」
「ある意味病気であり、巫女やシャーマンの通過儀礼であるのじゃ」
「あの~、その『フビョウ』ってなんですか?」
「巫病は、神の夢を見たり、神の意思に触れ言動がおかしくなったり、中には神に体を乗り移られる神憑りなんて言うのもあるんじゃ」
あ、怯えてる。
脅かしすぎたかの……
「いやまあ、悪いことじゃ無いのじゃ、神の夢は御告げであることが多い。例えば、明日火山が噴火するから逃げろ! とか人間が知ることの無い未来を告げたりする」
時たま夢に出て、此れから起こる災害を告げる。そうする事で、避難ができて命が救われるのであれば、悪いことじゃ無いのだ。
ただし、神も気紛れなので、毎回伝えてくれ無かったり、伝える内容が曖昧だったりするので、信じてくれる人間が2分する。
信じない人は、急に噴火とか言い出すなんて……頭がおかしいと思い、病気なんじゃ? と成るわけで━━━━
ある意味、病気であり病気でない、それが巫病と言うモノであるのだ。
まぁ、信じる者は救われると言うが、すくうのは『命』か『足』か……
その辺は、個人の選択の自由である。
しかし、儂の居候していた、極東の日本と言う国は。大昔に巫女が国の指導者となり、大勢の人を導いたと言うのも、事実である為。神と結び付きの強い巫女は、より正確に御告げを聞けたのであろう。
まぁ、直接伝えるのは『神界法』に抵触するため。夢を通すなんて、窗ろこしい方法を取るのだが……そこが、『夢の話じゃん』とネックになっている。
他にも、南米の神は、それまで狩猟しかない民族へ、水路を造り水を引き、田畑を耕すようになるように、神の知識をシャーマンへ授けただの━━━━
どれも、諸説ありじゃがのぅ。
「捉え方の問題なのじゃ、病気と捉るか御告げと捉るか……ただ、ここ異世界においては、魔法も本物だし、御告げも本物と捉える方が、しっくりくると思うのじゃ」
「じゃあ、メディア様と御姉様の仲良く歩いていた夢って、仲直りできるって御告げなんじゃないかな」
「御姉様と言う呼び方は、違う世界が見えてきそうな気がするが、まあでも仲直りか……そうだと良いな」
そう言って、残りのお茶を一気に呷る。
お茶をお代わりしようか、迷っていると、テントから出てきたミノルに気が付く。
「お二人さん、お茶会の最中悪いんだけど、そろそろ交代なんだよね」
「おお、今度はミノルか」
「んじゃ、私は二度寝に入るね~、お休みなさ~い」
いつもの間延びした喋りに、戻って居たので即寝じゃろう。
勇者ミノルと、二人きりに成ったので━━
「取り敢えず、儂が茶を入れてやろう、何が良い?」
と聞いてみる。
「え!? あ僕がやりますよ」
まあ本場の入れ方を、見ておくかの。
そう思って、ミノルの手順を見ていると、沸騰したお湯に、茶葉をそのまま入れようとしているのだ。
「━━━━御主も直入れかよ!」
「え!? だってこの世界じゃ、茶器なんて貴族か王族しか持ってませんから、鍋に直接投入以外は、方法が無いですよ」
確か、昔世界を放浪していたときに、南米最南端の町で、お茶を濾さずに入れていたが……
まさか、異世界で同じ入れ方を見るとは思わなかった。
「仕方がないのう、茶漉しは造っておいたから貸してみよ。まあ、鍋を焚き火に直火置きしないだけ、ミンシアより良いがの」
「あー彼女またやりましたか」
「またじゃと? 前にもやったのか? 何んできちんと教えてやらん、おかげで儂は熱湯で煮沸消毒される所じゃった」
「赦してやってください、彼女と僕は同じ世界から来たって言いましたよね、彼女向こうの世界では王族なんですよ」
「ほう」
「驚かないんですね」
「いや、逆に世間知らずというか……他人とズレた言動に得心がいった」
王族と言う生粋の箱入り娘だから、天真爛漫な性格なのじゃろう。
もしかすると、王族なのに政治とかに疎いのは、第一継承者じゃなく。第二、第三の王女なのかも知れん。
行く行くは。政略結婚とかに、利用されて居った可能性もあり……か。
そう考えると、この異世界へ召喚されたのも、悪くなかったのかも? まあ、彼女の胸の内は分からんがの。
ミンシアにも出してやった、ちゃんとしたお茶を、勇者にも入れてやった。
一息つき、そして本題を切り出す。
「のう、勇者ミノルよ、御主……正規の勇者ではないな」
「やはり、ご存知でしたか…」
「一応、これでも末席とは言え神をやってるのでのぅ」
本来『勇者召喚』と言うのは、人間達が自分達で解決できない事象━━━━つまり、普通の魔王でなく、大魔王が現れた時に限り、神が人類の切り札として、使うこと赦される神スキルである。
儂も『勇者召喚』のスキル持ってる。ただし、神の奇跡ポイントが足らなくて、使えないがの。
神の奇跡ポイントは、信者の数で決まるので、こんな末席神を信奉してくれる物好きは、殆ど居ないのが現状だ。
ちょっと、寂しいがの。
「神が、正規に『勇者召喚』を行った場合。まず魂だけを召喚し、その魂は選ばれた女性の胎内に入れられ、赤子として産まれて来るのが通例じゃ」
所謂、『異世界転生者』と言う奴だ。
そして、大魔王の目の届かぬよう。12歳~18歳まで育て上げられれば、神に匹敵する力を発現できる、人類の代表者であり、神の代行者……それが『転生勇者』なのだ。
歳に幅があるのは、前世の記憶が甦り、勇者へ目覚める時に個人差があるからだが……
儂の聞いた話じゃと、過去で最も最年少勇者は、3歳と言う記録もあったらしい。
実際に見た訳じゃ無いので、真相は分からず仕舞いじゃが。
「御主が、正規の勇者じゃないと思った理由。まず1つ、魂だけでなく、成長済の体ごと召喚と言うのは、神の正規召喚ではない」
それは、『転生勇者』じゃなく、『転移勇者』だからだ。
厳密に言うと、神が正規に行う『勇者召喚』は、召喚と言っては居るものの、魂だけ呼び寄せる『転生』なのだ。
「2つ目、人類の脅威である筈の、大魔王の気配がない。人類滅亡の危機でなくば、勇者召喚のスキルロックが外れん」
いくら、神の奇跡ポイントが溜まっていようと、使用条件に『人類滅亡の危機』があり、使うことが出来ないのだ。
まあ、平和な世界に、勇者をポンポン召喚しても、逆に世界が壊され兼ねんし、スキルロックは妥当だと思う。
「3つ目、闇の教団殲滅と言う程度の事で、勇者を差し向けるとかが変なのじゃ」
闇教団の残党と戦って分かったのだが、訓練されていない寄せ集め集団程度だった。
それなら、訓練も兼ねて、正規の軍隊で蹂躙すれば、済む話である。
ただの教団1つ潰すだけで、勇者を遣わすこと自体がおかしのだ。
まあ、破壊神として召喚された、儂を狙って勇者を差し向けたのなら、話は別だがの。
それだって、世界が滅亡の危機に陥るような事、してないし。
「4つ目。御主、国王へ報告義務があると言ったじゃろう? 勇者は、1国だけに遣える者でなく、全人類の代表者でなければならない」
神に匹敵する勇者が、1国に遣えて仕舞っては、国家間のバランスが崩れてしまうので、勇者を持たない国が揃って勇者討伐に動くだろう。
そう言う意味でも、勇者は中立でなければ成らないのだ。
「5つ目……」
「もういいです!」
「━━━━御主からは、神に匹敵する力は感じられない」
「そうです、僕は紛い物の勇者なんです」
「やはりか……御主、『転生勇者』でなく『転移勇者』じゃな?」
「はい、召喚もアルセリア国王の指示の下、宮廷魔術師グライゼと配下36名の魔術師団により、行われたと聞きます」
人間による異世界召喚……それで、本来の勇者の力が無いのも、1国に遣えて居るのも合点がいく。
ミノルはお茶を一口呷ると、話を続ける。
「召喚者は、僕と僕の弟の二人……」
「成る程、人質か……姑息な」
「ええ、必ず2名以上を召喚し、能力の劣る方を人質にするのです。僕の場合、弟が人質に……パーティーメンバーの全員が同じですよ。ミンシアは、病気がちで身体の弱い兄を、クミコは父と母を、ムサシ殿は奥さんを、人質に取られて居ると聞きます」
だから、アルセリア国王に逆らう事は、出来ないのです! と悔しそうに声を荒げるミノル。
成る程な。
しかし、そのグライゼと言った召喚師。複数同時召喚とか、かなりの腕前じゃな。宮廷魔術師と言うだけあるのも頷ける。
ミノルは、残りのお茶を飲み干すと、話を続ける。
「更に国王は、もう1つ保険を掛け、僕達に魔導具の首輪を着けさせています」
と言って首元を見せる。
「ちょっと見せてもらって良いか?」
そう言って、ミノルの首輪を『神眼』で鑑定すると、どうやら強制に意識を操る魔法が、練り込まれて居るようだ。常時発動式ではないがな。
「うむ、解除可能じゃぞ」
「そんな簡単に!?」
「儂を誰じゃと思うておる、此より厄介な呪具の解除や、お祓いを山程やってきておる」
巫女の手伝いでと言うのは黙っておこう……
ただ、問題が1つ━━━━
「この魔導具には、アラームが組み込まれて居るのじゃ。外した瞬間に通知が行くようじゃの。おそらく宮廷魔術師のグラなんちゃらって奴のところじゃろ」
「その通知が行ったら……」
「逃げたとみなされ、人質は命がないじゃろうのぅ。その為にも、首輪を外す前に、人質を探し救出するのが先じゃな」
「でも弟達を見付けても、首輪で助けるなと命令されたら……」
「なんじゃ、簡単なことじゃろ? 首輪の無い儂が、人質救出に手を貸そう」
そもそも、平和な世界で、勇者召喚を人間が行う事自体、冒涜であり、イレギュラーなのだ。
イレギュラーを解決するのは、私事じゃないから『神界法』にも該当しないじゃろうし。放置も出来ぬじゃろうて。
儂が手を貸すと言ったのを聞いて、笑顔を見せるミノル
「本当ですか!?」
「うむ。だいたい神ですら、緊急時以外ロックが掛かった『勇者召喚』を、劣化版とは言えポンポン使うのが赦せん」
アルセリア王国に、罰を当てて遣らんといかんのう、と笑う。
「メディア様、今すっごい悪い顔してますよ」
「罰は何が良いかの……夜眠れなくなるとかどうじゃろ? 昼しか寝れんので昼夜逆転の罰とか……」
魚を食べると必ず骨が刺さる罰とか、金に触れると皮膚が被れる罰とか……なかなか良い罰は思い付かんの。
そんな事を考えて居ると
「あのーメディア様、お楽しみの所すみませんが、具体的にどうやって見付けるんです?」
「ん? あぁ、それなら、1つ試そうと思ってた事があっての。クミが起きて来たら、杖を借りて『探索』スキルに『神眼』を併用して、広域探索をやってみようと思うてな」
「広域探索ですか?」
「うむ、儂もヴェルゴルドを探さねばならんじゃろ? そこで、大規模範囲を神眼で見通す、広域探索をやってみようと思ったんじゃ」
「じゃあ、やってみて」
いつの間にか起きてきたクミが、杖を差し出してくる。
「もう交代の時間かや?」
「いいえ! 二人の会話が気になって、眠れないのよ!」
それは済まんかったの。
杖を受け取りながら謝り。
「では、行ってみようかの!」
杖を水平に構え『探索』のスキルに『神眼』を繋げる。
足元に魔方陣を自動展開し。
そこに杖に溜めた魔力を、杖で叩いて叩き込む。
その瞬間、魔方陣を中心に、白い輪が世界に広がって行く。
凄い情報量が頭に入ってくる━━━━が、其処は神族故の大キャパシティで、何とか処理をする。
これを人間がやったら、一発で脳焼き切れて廃人じゃな……
魔方陣が消えた後、さすがに眩暈と疲労感が酷くて片膝を折る。
辛うじて杖に掴まり、荒い息を整えつつ。
「これは、キツイのう……世界中の人間の情報がきたわ」
と言うか気持ち悪い。どうやら、情報酔いを起こしたようだ。
ミノルもクミも、儂の顔色の悪さに、尋常じゃないと思って、黙って此方の続きの言葉を待つ。
心配そうに見守る二人に
「安心せい、見付けたぞ! 御主等の大切な人達をな」
そう言って、安心させてやるのだった。