31 竜の里
『のうサルジオ、さっきもここ通ったじゃろ』
そう先頭の頼り無い案内人に声を掛ける
「いえ、気のせいですよ」
気のせい?
木の幹にサリアが爪痕を着けたのだが、爪痕の木の前を通るのはもう4度目だ
いくらなんでも、同じ爪痕の木が何本も生えて居る訳はないので
絶対道に迷っている。
試しに、爪痕の木の前で待っていると、サルジオが後ろから現れる
『はぁ…やっぱり御主、惑わされておる』
「え!?」
『どうせ、妖精の仕業じゃろう…』
サリアにやるぞと合図を送る
『良いか、これから5数える、その間に術を解き出てくるのじゃ、出てこない場合…』
言い終わるタイミングでサリアが炎を真上に吹き警告を送る
『5、4、3…』
カウントすると
「わ、わ、燃やさないで」
と小さな妖精が出てくる
『やっぱり居ったか…』
人に羽根を生やして、手の平サイズにした姿で現れる
「もう、いつもバレ無いのに、何で今日はバレたのよ…」
『あれだけ、同じ場所ばかり回ってれば嫌でも気付くわい』
そう言って摘まみ上げる
「ちょっと!レディなんだから、虫みたいに摘ままないでよね」
ほう、この虫は良く喋る
「美味しいかな」
っとサリアが顔を寄せて涎を垂らす。
ヒッと悲鳴をあげて震える妖精に、何でこんなことをするのか聞くと
どうも、竜族の長老に頼まれて人間が入ってこれないよう惑わしの術を掛けていたんだと言う
『戯け!サルジオは竜族じゃぞ、竜族まで惑わすな』
「そんなの人間の姿なら解んないじゃん!」
全く人騒がせな奴め
『しかし、人間は悪さもしていない竜族を狙うなんて…』
『やはり、素材か…』
「素材?」
『うむ、実はの御主等竜族の身体から採れる、色々な身体の部位が人間には宝になるんじゃ』
『その肝や血等は、エリクサーと言う霊薬になったり、爪や牙は武器にされたり、竜の鱗は鎧や盾などにの』
そう、すべての部位が宝になる
昔その素材欲しさに乱獲され、竜が絶滅に陥った世界も見てきた。
やはり長命種族なほど、数が極端に少なくなるため
人間に対し、多勢に無勢で狩られてしまうのだ
恐らくこの世界も、竜の数は多くはないじゃろう
となると、何故に険しく人間が踏み込めない、竜にとっては安全地帯の火山を捨てたのか…
『サルジオ、何故に火山から越したのじゃ?噂通り噴火でもあるのかの?』
「いやー俺も良くは知らないんでさ、長老達が決断し其に従っただけなんで」
なるほどの
竜族の隠里に行って直接聞くしかないってことか
暫く森の中を進むと、標高が高くなるにつれ、少しずつ緑が減っていき
やがて完全に岩肌だらけの斜面になる
『のう、サルジオ、儂等全員飛べるんだし、下から飛んできた方が早かったんじゃないかの?』
「そいつは、駄目だ」
「あんたらは兎も角、俺の場合、人化解かないと飛ぶ事が出来ない」
「竜の姿で、山へ飛んで行けば集落の場所がバレちまう」
成る程
先に儂の人化術掛けておいてやるんだった
まあ、後の祭りじゃが
岩肌の出っ張りに、足をかけては跳んでを繰り返し山の上に登っていく
しかし、標高が高くなるのに寒くならないのはマグマのせいだろうか
そこいら中から硫黄の臭いが鼻をつく
そうやって跳んで登っていくと、開けた場所に出る
「ここが、新しい竜の里でさ」
成る程、硫黄の臭いだけ除けば、地熱のお陰で暖かくて快適である。
殆どの竜が人化出来ないようで、竜の姿のまま地面にゴロンと寝そべっている
そこへ数匹の竜がやって来る
「おい!サルジオ、人間なんぞ連れてきてどうするつもりだ!」
「いや、違うんだ、このお嬢ちゃん達は竜なんだよ」
「はあ?どう見ても人間じゃないか!」
「そう見えるだろ、俺も驚いたんだけど、凄い人化術使ってて見分けがつかないだけで、ちゃんと竜さ」
「たぶん、イボルクさん所のお嬢ちゃんだ」
「なんだと!?そりゃ本当か?」
「おいイボルクさんは落とした卵は1つだって言ってたぞ」
「そうだそうだ、何で2人居るんだよ」
儂まで竜と思われてるせいか、数が合わなくておかしなことになってる
間違いを正そうとすると
1匹の古竜が現れる
「止さんか、そのお方は神族じゃ」
ほう、さすが古竜
一発で見抜き居った。
『儂はメディア、そして此方が娘のサリアじゃ』
神?神様だって…
と回りが騒がしくなってきた
『実はの、娘のサリアに実の親と逢わせてやりたくて、連れてきてもらったのじゃ』
「やっぱりイボルクさんの娘さんなんだ」
「おお、そりゃあ見付かって良かった」
等、口々に喜びの声をあげている
古竜が、イボルクさんの元へ案内しようと、着いてくるよう促す
着いていこうとするが、サリアが元気がない
と言うより、不安なのだろう
初めて逢うのだから、無理もない
手を握ってやり、大丈夫じゃと声を掛ける
幾分か不安は和らいだらしく、手を繋いだまま古竜についていくと
1匹の竜が居た。
…
見分けがつかん
皆同じ竜なんだもの
『のう、サリアよ、どうやって竜を見分けるのじゃ?』
「何言ってるのおかあさん、私だって解らないよ」
御主もわからないんかい
でも本当、どう見分けるんだろ、臭い?
いや、硫黄で鼻が効かないし
なんだろ…角の形とか?
後で古竜に聞いてみよう
「おい、イボルク、お前さんにお客様だぞ」
「これは長老、我に客ですか?」
『儂はメディア、此方がサリア…恐らく御主の娘じゃ』
そう言うと、サリアは儂の後ろに隠れてしまう
仕方がないので卵を拾った場所や状況を説明する(プリンにしようとしたのは内緒で)
イボルクの話と合わせると、やはり落とした場所と拾った場所が一緒なので、間違い無いだろうと言うことに
だが、一向に儂の後ろに隠れたまま出てこないサリア
『すまんの、戸惑って居るのじゃろう、まあでも産みの親が健在で良かった』
「いや此方こそ、娘を連れてきて逢わせていただき、ありがとうございました」
「卵を落としてしまった時は、必死で森を探し回りましたが、夜のうちに移動しないと、人間に見付かり仲間にも迷惑が掛かるので、断腸の思いで捜索を断念したのです」
もう逢えないと思ってましたと涙ぐむイボルク
そんな時
集落の入り口の方が騒がしくなる
「大変だー」
「何事じゃ!騒がしい」
「長老!、に、人間が里に」
「なんだと!?」
慌てて駆けていく
「皆、つけられたんでしょ」
と妖精が頭の上に現れる
『おい、何で御主が此処に居る、森の守りはどうした?』
さあっと肩を竦める
それを見てサリアが駆け出す。
森の守りが無いってことは、儂等が集落へ連れてきたようなものだ
抜かったわ
直ぐに儂も後を追う
集落を走り抜けると竜たちと人間4人が戦っているのが見えてくる
4人!?
この竜の数に対してたった4人じゃと?
普通、竜1匹に対して4…いや8人は欲しいはずじゃ
それが竜が20以上居る集落に4人じゃと?
何かおかしい
だいたい、あの装備…
竜の炎を弾いている!
ヤバい
『サリア、待つのじゃ、あの装備は…対ドラゴン装備じゃ!』
そういうのも聞かず、そのまま人間に向かって駆けていく
爪を出し先頭の男に切り裂きを掛ける
しかし、男は盾で神竜の爪を受け流し、持っていた剣でサリアを裂く
が
間一髪後ろに跳んで、かすり傷で済ませる
直ぐにサリアに向けて念話を開いてみる
初めての試みだが、儂の血が入った今なら繋がるかも
『サリア、儂の声が聞こえるかの?』
『おかあさん?』
どうやら上手く繋がったらしい
『いいか、良く聞くのじゃ、あの装備は竜の鱗で出来ている対竜特化装備じゃ』
『恐らく炎も無効化するじゃろ、御主の神竜の爪ですら弾いたしの』
『そして、あの武器も竜の牙から削り出し、さらに竜用の呪いも練り込んでるドラゴンスレイヤーじゃ、斬られれば御主のでもただでは済むまい』
『つまり、仲間の亡骸を使って装備を…』
サリアの怒りが伝わってくる
『良いかサリア、御主は魔法使いを志すのであろう、魔法使いなら怒りは表に出すな内に秘めるのじゃ』
『そして、常に冷静にあること』
『大丈夫じゃ、儂が策を授けてやる』
『倒された竜たちの無念、晴らさせてやるぞ』
なかなか体調が戻らず、昨日は更新に穴を空けてしまいました。
すみません。
ちょっと3日置きにしようかと考えています。
もし宜しければ、此れからも読んでやってください