1 誰が破壊神じゃ
初投稿でお見苦しい所ありましたらすみません。
銀色のスプーンを持って立ち尽くす、ゴシックドレスの黒髪ロング少女に向かって
怪しい黒ローブのオッサンは言い放つ。
「さあ!破壊神よ!この世界を破壊しつくせ!」
どうしてこうなった……
改めて考えを整理する。
◇◇◇◇◇◇
儂は、最初世界をあちこち放浪する放浪神であったが、500年ぐらい前。
極東の島国……日本で仲良くなった六瓢神の好意で、神社に居候させてもらう事になった。
ただ居候させてもらってるのも悪いので、正月や収穫祭など、忙しい時期には巫女として手伝っていた。
普段も手伝うと言ったのだが━━━━
「子供を酷使っているようで、体裁が悪い」と断られた。
誰が子供じゃ!
確か、儂の方が歳上だと思ったんだが……6桁を超えた時点で歳を数えるのが面倒になり、数えるのを止めたので実年齢は定かではない。
まあ、子供扱いされても、儂は大人なので腹は立てない。
後で蟷螂の卵を、六瓢の部屋の引き出しにプレゼントして置いてやろう。
繁忙期の手伝いは、泊めてもらってるお礼だからと、バイト代は断ったのだが、其はそれ此はこれと、バイト代を強引に渡そうとしてきた。
「もし断り続けるなら、赤いランドセルや縦笛で現物支給する」
と訳のわからない脅され方したので、無駄金を使わせる前に、大人しくバイト代を受け取った。
後で美味い酒でも買って渡せば良いか。
我々神族は、ご飯食べなくも死なないし睡眠も必要ない、住むところが確保出来ている以上、お金の使い道が無いのじゃがの。
いや、食事自体できない訳ではなく、食べれるか食べれないかで言ったら、食べれる? と言うか……喉元から胃に掛けての部分で、食物が消える? そんな感じである。
胃の部分に、小さなブラックホールがある感じで、いくら食べても満腹感はなく、勿体ないので基本的に食事はしない。
そもそも、胃があるのかも怪しい、腹切り開いたこと無いのでわからんけど。
聞いてみてないが、六瓢殿も多分同じ感覚なのだろう。よって、付近の農家からいただき物が無い場合は、何も食べずに2柱で晩酌だけの時が多い。
ただ、現代では全く食事しないと怪しく見えるので、他の巫女バイト綾乃ちゃんが来ているときは、一緒にご飯食べたりもする。
栄養にならない以上、棄てているような罪悪感から、お菓子食べ過ぎてお腹いっぱいだと、もっともらしい理由を付けて食事を断るときもあるのじゃが。
「また間食したの?ちゃんとご飯食べないと大きくなれないよ」
と18歳女子高生に子供扱いされてしまった。
ええい、六瓢笑うでない。
背丈が小さいのはわかっておるわ!
ちょっと前に、六瓢殿と人間観察と言う名目で、遊園地なる所に行ったのじゃが、案の定背丈が足らず絶叫マシーンに乗れなかった。
わかっては居たが、事実を突き付けられると酷く落ち込んだものじゃった。
そう言えば、六瓢…あの時も笑い転げていたな…、さては確信犯で連れていったな。
酷い友人……もとい友神である。今度六瓢の秘蔵の酒を味醂に変えておいてやる。
近年、無線LANが神社にやって来た為、パソコンを買ったのじゃが、いろんな事ができて面白い。と言うか使い道のわからん雑学知識は増えた。
まあ便利なので、時々遊びにやってくる老神達にも教えてやろう、わざわざ来なくも自分ちの神社から将棋や囲碁の対戦ができると。
そして、インターネットで偶然見付けたのが、壺プリンのお店のホームページだった。
試しに買いに行って大当り!
あれは良いものだ!
嗜好品としてハマった。
そして、半日ほど前……
1日200個限定の壺プリンを、朝から3時間並んで6個入りを手に入れた。
本当は毎日でも食べたいが、神が堕落したら洒落にならんので、月に1度と決めているのじゃ。
神社に帰り、社務所に居る六瓢殿に声を掛け、お茶の用意をする。
そこまでは良い…
今居るのは、あきらかに居候している神社ではない。
プリンを食べる為、スプーンを取りに台所へ行って、居間に戻ったら、風景が変わっていた。
どこかの…神殿?
プリンがあったテーブルは無く、代わりに祭壇になっていた。
周囲は、あきらかに和風な神社ではなく、見た目は洋風の古代ローマの神殿を黒く塗り潰したような。
神聖な感じはなく、禍々しい闇の神殿感満載である。
後ろは、居間へ入ってきた入口は消えており、黒いローブに身を包んだオッサンが立っていた。
「さあ! 破壊神よ! この世界を破壊しつくせ!」
━━━━━━このオッサン何言ってんの?
ああ、あれか? ネットで流行りの異世界召喚ってやつか?
まさか、自分が召喚されるとは思ってもみなかったが、その事より壺プリンがどうなったか……その方が心配だ。
「あの━━破壊神……様? ですよね?」
オッサンは、恐る恐る尋ねてくる。
「御主の眼には、そう見えておるのか?」
と質問に質問を返してやる。
「いえ、どう見ても、黒いドレスを着た少女に見えます。でも念のため聞いておこうかと……」
「そんな事は良い、それより儂の壺プリンを知らんのか? 一緒に召喚しなかったのかや?」
「え? 壺? 私は存じておr……」
と言ったところで、オッサンの言葉を遮るように、神殿の扉を蹴破り入ってくる4人の若者
「良かった~!どうにか間に合ったみたいだね~」
ちょっと間延びするような喋り方をする、メイスを構えたショートカットの金髪で碧眼の神官服の少女。
「ああ、まだ召喚前のようだな…闇神官ヴェルゴルド! この勇者ハヤカワミノルが破壊神の召喚など許しはしない!」
そう答え、剣を構えるは16~17ぐらいの、まだ幼さの残る短髪黒髪の少年である。
その隣に、無口で右に同じと頷くだけの、顔は兜でよくわからんがフルプレートメイルに身を包んでるので戦士であろう。
その戦士も大斧を構える。
その後方で、呪文を唱えていた黒い三角帽子に黒ローブで栗色の髪を後ろで三つ編みにした魔法使いの少女が魔法を完成させていた。
「ファイアボール!」
魔法使いの少女が、野球のボール位の火球を作りだし、入ってきた扉の上の天井に向けて放つ。
火球は、天井に当たると派手な音をたて炸裂する。天井を崩した瓦礫で入り口を塞いだのだ。
「これで追手の信者は、入ってこれないわ」
あとは、闇神官を倒すだけ……覚悟しろ! と、豪語する若者達。
神殿の中に緊張がはしる。
その緊張を破るように…
『なぁ、御主達黙っててくれんか…今取り込み中じゃ』
そう言って、ヴェルゴルドと言われた闇神官のオッサンの胸ぐらを掴むが、身長差のせいでさほど持ち上がらない。
『もしかして…世界を破壊しろなんてくだらない理由で、儂の月に1度の楽しみを邪魔したのかや?』
そう言いながら、もう片方の手にあるスプーンを核にして先程魔法使い娘が使った火球を生み出す。
「え!? 何あれ……ありえないわ!」
魔法使いの娘が儂の火球を見て驚愕する。
同じ火球の呪文だからこそ大きさや魔力の濃さの違いがわかったのだろう。
小娘の使った火球は、野球ボール位だったが、ワシのはバレーボールより2周りほど大きい大きさだった。
『行き場を失ったスプーンの怒りと、楽しみを奪われた儂の嘆きを知るがよい!』
そう言うと同時に、火球を上空に向けて放つ。
あの少年達まで死なせぬよう、火球をできるだけ闇神官の上で炸裂させよう。
大分魔力を抑えているが限界だ。
火球は数メートル上で爆発する。
轟音と暴力的な光に包まれる。
炎と煙と塵で視界はゼロ。
あの少年達は無事だろうか?
そんなことを思ってるうちに視界が開ける。
神殿だったモノが瓦礫と化していた。
その瓦礫の中から
「痛つつ……みんな無事か?」
とメンバーの無事確認を行う勇者少年。
「う……うぅ、あたしは平気……防壁の魔法が間に合って良かった」
そう言いながら瓦礫に寄りかかって息をつく魔法使い娘
その反対側で
「う~、口の中がジャリジャリする~」
ぺっぺっと砂を吐き出す神官娘
「はっ!? ムサシ殿は!?」
そう心配する勇者のすぐ脇の膨らんだ地面から親指を立てた拳が上がる。
無事だと言っているみたいだ。
儂は全員死なせずに済んだ事に安堵し
『魔法に巻き込んでしまってすまんのう、あれ以上は手加減できんかった』
そう言って儂は勇者に手を差しのべる。
手を取り立ち上がりながら、
「あなたは一体……何者なんですか?」
そう聞いてくる勇者に
『儂か? 儂はメディア……こことは違う世界から、破壊神として召喚された異世界神じゃ』
ありがとうございました。