不法投棄(2)エリザベス
洗濯機、冷蔵庫、家具、ゴルフバッグ、姿見、スーツケース、ベッド。
「色々あるなあ」
不法投棄の写真を見て僕が言うと、直も呆れた声で言う。
「捨てに来るのも大変そうだよねえ」
町田 直、幼稚園からの親友だ。要領が良くて人懐っこく、脅威の人脈を持っている。高1の夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、屈指の札使いであり、インコ使いであり、共に亜神体質になった。そして、警察官僚でもある。
「大型や家電製品は処分にもお金がいるからね。
ここは完全な住宅街の真ん中で、いくら処分しても捨てに来るし、警官を張り込ませて注意もさせたらしいけど、その時だけで効果はなかったらしい」
徳川一行。飄々として少々変わってはいるが、警察庁キャリアで警視長。なかなかやり手で、必要とあらば冷酷な判断も下す。陰陽課の生みの親兼責任者で、兄の上司になった時からよくウチにも遊びに来ていたのだが、すっかり、兄とは元上司と部下というより、友人という感じになっている。
「困ったもんですねえ」
「全くだ」
「ところが、今年に入ってから事情が変わった。捨てたものが、戻って来るそうだ」
徳川さんが言って、僕と直はしばし考えた。
「それは何件もあるんですか?」
「届け出されているのだけで2件だが、ほかにもいるかも知れないね」
そう言って、氏名と住所の書かれたメモを渡された。
不法投棄は犯罪なので、届けるのをためらった人もいるだろう。
「わかりました。調査します」
僕と直は、メモの人物に当たる事にした。
まず最初は、同棲を始めたばかりの男女だった。
洗濯機や冷蔵庫やテレビがダブり、邪魔になったので、捨てに行ったという。
ところが翌朝、出勤しようとしたらアパートのドアが開かず、イタズラされたと思って警察に電話をして派出所から警察官が駆け付けてみると、捨てたはずの冷蔵庫、洗濯機、テレビ、衣装ケースなどがドアの前に置かれていたのだという。
2件目は一人暮らしの男で、インテリア代わりに置いていたマネキン人形を捨てたら、翌朝ドアの前に戻って来ていたという。
「マネキンをどんな風にインテリア代わりにしてたんだろうな」
「気になるねえ」
「へたな置き方をしたら、夜、泥棒と見間違えたりしてな」
「幽霊と間違えるのもありそうだよねえ」
僕と直はなんだかんだ言いながら、まずはその「ゴミ」を視に行った。
取り立てて変わった所は無い。冷蔵庫にも洗濯機にもテレビにも何か憑いている様子はなく、衣装ケースにも中の古着にも、憑いてはいない。
ただのゴミだ。
マネキン人形の方にも、何も無い。衣料品コーナーにあるような女性型のもので、斜めの方へ顔を向けて立っていた。
「どこからこんなの買って来たんだろうな。ネットとか?」
「ネットで買えないものはないんじゃないかねえ、昨今は」
僕と直がそう言うと、ビクビクしていた係の警察官が、安心したような顔をした。
「ネットで買ったと言ってました。それで、秘書のエリザベスと呼んで、コートやカバンや帽子をかけていたそうです」
「エリザベス?」
「秘書!」
僕と直が思わず訊き返すと、その警察官は苦笑した。
「仕事の無い探偵が、事務所にマネキンを置いてコートやサングラスをかけて、秘書と呼んでいるドラマがあるんです。海外のものですけど」
「それを真似たのか」
3人で、何とも言えない目で「エリザベス」を見た。
しかしエリザベスは澄まして何も言わない。
「無口でクールな秘書だねえ」
「不当解雇で怒ってるのかも知れないぞ」
僕と直の軽口に、警察官はプッと吹き出した。
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