不法投棄(1)戻って来る
「わあ!」
凜がおもちゃを袋から出して、袋はその辺にポイと放る。
「ちゃんとゴミ箱に捨てないとだめだろ、凛」
僕は隣にしゃがみこんで、それを拾った。
御崎 怜。元々、感情が表情に出難いというのと、世界でも数人の、週に3時間程度しか睡眠を必要としない無眠者という体質があるのに、高校入学直前、突然、霊が見え、会話ができる体質になった。その上、神殺し、神喰い、神生み等の新体質までもが加わった霊能師であり、とうとう亜神なんていうレア体質になってしまった。面倒臭い事はなるべく避け、安全な毎日を送りたいのに、危ない、どうかすれば死にそうな目に、何度も遭っている。そして、警察官僚でもある。
「ごめんなさい」
「ん」
お正月のお年玉で刀が欲しいというので、おもちゃの刀を買ってきたところだ。
「名刀シリーズでしょ」
美里が言う。
御崎美里、旧姓及び芸名、霜月美里。演技力のある美人で気が強く、遠慮をしない発言から、美里様と呼ばれており、トップ女優の一人に挙げられている。そして、僕の妻である。
「シリーズ?ああ。たくさんあったもんな。
まさか」
「別の刀を欲しがるかもね」
僕と美里は苦笑して、土方歳三の刀でポーズを取る凛を見た。
男は、それを眺めて溜め息をついた。
「邪魔になったなあ。捨てようかなあ」
それはマネキン人形だった。ドラマで、マネキン人形にコートをかけ、カバンをひっかけ、サングラスを掛けさせているのを見た時、カッコいいと思ってマネキン人形を買って来た。
しかし、それなりのコート、かっこいいサングラス、いいデザインのカバンだったからかっこよかったのだと思い知らされた。おまけに、それを置くのが雑然としていながらも計算されていたフローリングの探偵事務所だったから良かったのだ。和室の六畳間に似合わない事この上もない。
「うん。そうしよう」
年末の大掃除で捨てて置けば良かったが、その時にはコートやセーターやマフラーや帽子などがいっぱいかけられていたので、思い付かなかったのだ。
「大型ゴミっていつだろう?まあ、いいか。あそこなら」
近所に不法投棄のやまない場所があるのだ。年末に撤去されたが、もうすでに新しいゴミが置かれ始めている。大体いつも、きれいな状態は、1、2週間が限度なのだ。
「明後日には熱帯魚飼育セットが届くからな。今晩のうちに行っとくか」
男は深夜を待って、マネキン人形を近所の不法投棄の無法地帯となっている、閉店した新聞屋の前にこっそりと捨てに行った。
そして、飼い始める予定のアロワナの事を考えているうちに、眠りについた。
翌朝。会社に行こうとした男は、玄関を出たところで足を止め、ドアに前に立つそれをまじまじと見つめた。
「え!?俺、昨日の夜、捨てたよな?」
そこにはマネキン人形が、澄ました顔で立っていたのだった。
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