名カメラマン(4)お守り
夜の男子寮の一室に集まる男達のせいで、室温がかなり上がっていたのが、急に、冷房を入れたのかというくらいに涼しくなる。
「宗、クマ」
「はいっ」
宗がシャッターを切る。
「よっと」
直は、札で結界を作ってクマを囲い込む。
「クマが増えています」
宗が、今撮った写真を確認して言うと、皆が見たがった。
「はいはい、後で見せるから」
徳川さんが言って、皆を落ち着かせる。
結界の中には、2体が寄り添っていた。
「少し話をしたいだけなので、安心して下さい」
それでも警戒している。
「このクマとペアのクマですか」
「そうだ」
「遠距離になったので、毎日寂しくて、泣いたり、会いに来たり?」
「そうだよ。ある日突然連れて行かれて」
「なるほどね」
人間だけでなく、クマのぬいぐるみでも遠距離恋愛ってするんだな。
「何て言ったんだ、怜」
「あ、兄ちゃん。
うん。突然恋人が遠くに連れて行かれて、寂しくて、泣いたり、会いに来たりしてたらしいよ」
「寂しいから、彼女さんはこのぬいぐるみをひとつずつ持とうとしたんだけど、そのぬいぐるみ自体も、それで寂しかったんだねえ」
「それは……どうしましょう?」
沢井さんは、困ったように眉をハの字にした。
「結婚するか、クマをどっちかにまとめるか、かな」
「ねえ」
クマカップルの写真を見る。片方が透けているが、微笑ましい写真だ。
沢井さんもそれをジッと見、
「引き離すのは、可哀そうだなあ」
と呟いて、
「取り合えず、彼女と相談してみます」
と言った。
「というわけだから、決まるまで、ちょっと我慢してもらえるかな」
「ふむ。絶対にまた一緒になれるのであれば、まあ、少しなら……」
「しかたありませんねえ」
「沢井さん、早急にどうするか相談して下さいね」
「はい、わかりました」
結界を解除すると、しばらくはクマ同志いちゃついていたが、その内帰るだろう。
「それにしても、いい写真だな」
兄が言うと、
「ぬいぐるみとは言え、幸せそうだね」
と徳川さんが同意する。
「宗は、モデルを緊張させずに自然に撮るのが上手いんだな」
「霊が、ですけどね」
宗が、ガックリと肩を落とす。
「カメラマンにとって、大事だろう、それ。自然な表情を引き出すのって」
「まあ」
「霊は、札を持っていれば寄って来ないようにできるから、大丈夫だよう」
「カメラマン、目指したらいいんじゃないのか」
宗は、驚いたように、目を見開いていた。
後日、宗は無事に札を受け取り、それを持っていれば心霊写真にならないようになった。だが、なぜか心霊研究部を退部しようとはせずに、そのままいる。
沢井さんは、ぬいぐるみを彼女が、沢井さんが写真を持ち、ついでに正式に婚約したそうだ。
そしてそのクマの心霊写真は大量にプリントアウトされ、なぜか縁結びのお守りとして、その寮を中心に出回っているらしい。
「昇進試験に合格しそうな写真はないかって聞かれたんだけど」
「吉井さんが、奥さんが料理上手になれるような写真が欲しいそうだが」
「剣道の大会で勝てそうな必勝祈願の写真を頼まれたんですが」
次々とリクエストが入る。
「そんなに便利に撮れません。ああ、もう、面倒臭い」




