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体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


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名カメラマン(2)幽霊大集合

 公園のベンチで、缶コーヒーを飲みながら、話を聞く事にした。

「自分はカメラが趣味なんですけど、何て言うのか……写真を撮ったら、高い確率で心霊写真になってしまうんです」

 宗は、深く嘆息した。

「心霊写真になる?」

「はい」

「霊が寄って来る、と」

「そこはよくわからないんですけど、写真には、霊が写るんです」

「具合が悪くなったりとかは?」

「そういうのはありません。でも、プロのカメラマンにはなれません」

 ああ、それはそうかもな。ポートレートが特殊な集合写真とか、無理だろうな。

「いっそ、心霊研究部に入部しようかな。何かわかるかも知れないし。そうします。入部させてください」

「それはいいけど、自棄になるなよ、水無瀬」

「そうだよ。調べるのは部員でなくても調べてあげるからさ。ねえ」

「明日そのカメラを持って来てくれるか」

「わかりました。お願いします」

 宗は頭を下げて、帰って行った。


 僕の話を聞いて、兄は、

「世の中には、色んな人がいるもんだな」

としみじみと言った。

 御崎 司、ひと回り年上の兄だ。若手で1番のエースと言われる刑事で、肝入りで新設された陰陽課に配属されている。両親が事故死してからは親代わりとして僕を育ててくれ、感謝してもしきれない。頭が良くてスポーツも得意、クールなハンサムで、弟の僕から見てもカッコいい、自慢の兄だ。

「明日そのカメラと写真を見せてもらうんだけど、ちょっと楽しみだなあ。総心霊写真のアルバムなんて。

 はい、できたよ。お待たせ」

 今日のご飯は、筍寿司、ハタハタ、ほうれん草とベーコンの炒め物、だし巻き卵、玉ねぎとわかめの味噌汁。筍寿司は、まずしっかりと筍、半量のちりめんじゃこ、うすあげを炊いて味を含ませるのが重要だ。

「いただきます。

 うん。いい酢加減だな」

「たけのこご飯と迷ったんだけど、ご飯はまた今度ね」

「しかし、困るだろうな。全部心霊写真になったら」

「カメラに興味がなければそれでも良かったんだろうけどね」

 想像して、やっぱり楽しみになってしまったのだった。

「まあ、エリカなら大喜びだな」

「ああ、あの子か。うん。それを生かして逞しく生きていきそうなバイタリティを感じるな」

「エリカだからね」

「辻本さんに似ているな」

「ああ、同じ系統だ」

 辻本京香さんとは隣に住む霊能師で、いい人なのだが、大雑把で、酒好きで、何か色々と残念な人だ。

「まあとにかく、後輩の為だしな」

 今回は危ない事にならなさそうだし。

 ああ、安全って素晴らしい。僕はそう思った。


 翌日、部室でカメラとアルバムを見た。

 結論から言うと、カメラに何かが憑りついているとかいう事はなかった。でもアルバムは、まるっきり、心霊写真特集だった。

「見事だな」

 だが、心霊写真と言っても、嫌な感じではない。明るい心霊写真とでも言おうか、幽霊の記念写真とでも言おうか。ただ、写っているだけなのだ。

 まあ、それが問題と言えば問題なのだが。

 と、エリカが心の底から羨ましそうな声を出した。

「いいなあ」

 立花エリカ。オカルト大好きな心霊研究部部長だ。霊感ゼロだが、幽霊が見たい、心霊写真が撮りたいと、心から日々願っている。

「エリカは心霊写真が撮りたいが為に、中学時代は写真部に入っていたんだものね」

 そう言うのは天野優希。お菓子作りが趣味の大人しい女子だ。

「写真をいっぱい撮るから、確率が上がるんじゃないかと思ったのよ。撮れた事無いんだけどね」

 この4人が、2年生、初代心霊研究部員である。

「自分には、わからない感覚ですね」

 宗が言うのに、

「エリカは特殊だから気にすんな。スマンな、お前は悩んでるのに」

 と言っておく。

「大丈夫よ。うちは大歓迎よ、宗君。勿論、楓太郎君もね」

「はい!」

「ありがとうございます」

 マメシバ――じゃない、楓太郎と宗が礼を言う。

 高槻楓太郎は入学式前に事故に遭い、学校へ行きたい一念で生霊として登校して来たのだが、無事に本体にもどり、今は学校に登校し、うちへ入部したのだ。なんとなく雰囲気がマメシバで、そういう目で見れば、宗はラブラドールとかそういう感じかも知れない。

「まあ、とにかく、実際に撮ってもらって、それを見てみようか」

 皆を促して部室を出、すぐ目の前の中庭に行く。

 噴水、ちょっとした花壇、まだ咲いてはいないが藤棚もある。

「じゃあ」

 宗は、花壇の前にしゃがみこんだ。

 パッと、気配が集まって、サッと散った。もう見るまでもなく、心霊写真になっているのがわかる。

「成程なあ」

「何だろうねえ」

「もう一枚頼む。今度は、話を聞こう。直」

「はいよ」

 せっかくなので、噴水をバックにエリカを撮る。

 カメラを構えると、パッと寄って来る。そこをすかさず直が札で囲い込んで、シャッターが切れた後、散れないのでバタバタする霊達に話しかける。

「あの、すみません。ちょっとお話が聞きたいだけなので」

「ええ、何よお。驚かせて」

「あいつがカメラを構えると、皆さん寄ってきますけど、何でなんですか」

「んん?何となく?優しそうで、温かそうで、写真撮ってもらいたくなるからよ」

 首がとれて両手で抱えている女が言った。

「そうだな。楽しそう、とでも言うかね。テレビが取材に来てたりしたら、ピースしたくなるだろ。あれだ」

 指が3本折れた少年が笑う。

「成程。参考になりました。

 ついでに、成仏しませんか」

「嫌よ。旦那が死ぬまではここで見守ってるんだから」

「ぼくも、今年のペナントレースが終わるまでは少なくとも嫌だな。阪神タイガースが優勝したら、心残りもなく成仏するよ」

「そうですか。では、ありがとうございました」

 札の檻を解除する。

 部室に戻って、パソコンで今の写真を見る。

 たくさんの花に囲まれたメルヘンな首なし幽霊と、エリカと血まみれ少年のツーショット。

「記念に欲しいわ」

 嬉々としてプリントアウトしているエリカをよそに、幽霊から聞いた事を伝える。

「……喜ぶべきでしょうか……」

「ある意味は・・・」

 エリカ以外の空気は微妙だ。モデルを緊張させないのはいい事だとは思うが。

「怜先輩、直先輩、何とかできないんですか」

「直、札で対処できそうだよな」

「霊避けの札で行けるんじゃないかなあ。2、3日くれたら」

「お願いします」

 宗の為に、なんとかなる事を願った。












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