呪いになった人(5)家族
光里さんと優介さんは、抱き合って泣いた。
「光里、気付いてやれなくてごめんな。でも、敵は取ったぞ」
「お兄、ごめん。弱くてごめん。それと、ありがとう」
「光里」
「でも、もういいから。もうやめて」
優介さんは、光里さんから半歩離れ、まじまじと光里さんを見た。
「何で?」
「だって、これ以上は――」
「何を言うんだ。やめろ!」
「お兄!
無理やりにでもやめさせる。どうしてもって言うなら、お兄をあの世に連れて行く」
兄妹が睨み合った。
「はいはい、ちょっとストップ」
そこへ割って入る。
「渡良瀬光里さん。辛い目に遭いましたね。これ以上は、任せて下さい。
そばでじっと見ていて、心配だったですよね。お兄さんに、これ以上はさせませんから」
「今封印して然るべき方法で解呪を行えば、お兄さんは戻りますよう。優しいお兄さんに」
それで、光里さんは笑い、優介さんはそれを見て愕然とした顔をした。
「お兄。私の敵を取ってくれたことはありがとう。でも、これ以上はやめて」
「光里」
「お願いね」
そう言って光里さんはこちらに深々と頭を下げ、そのまま、キラキラと光る粒子になって、上って行った。
「あ、ああ、あ……」
後には、泣き崩れる優介さんが残された。
蜂谷は渡良瀬優介さんに解呪を施した後、元気がなかった。妹さんを思い出しているのだろう。
それで改めて、蜂谷の家に来ていた。
「これこれこれ!」
蜂谷が嬉しそうに笑う。
蜂谷に、料金とは別に何か礼というか、元気づけようと思って、何がいいかと訊こうとした矢先、蜂谷のお腹が盛大に鳴ったのだ。
食欲がないと誠人に聞いていたので、事件が片付いたせいか、妹さんの事を整理したのかと思って、ホッとした。それで、蜂谷が何か食べたいというので、リクエストに応えてやると言ったら、僕と直、蜂谷、誠人で宴会になったのだ。
エビの湯葉巻き揚げ、タイの餡掛け、なすの生姜焼き、焼きそらまめ、冷製煮物、茗荷のおかか和え、海鮮ちらし、締めにざるそば。
なすの生姜焼きは、簡単にできて便利だ。ナスを輪切りにしてアク抜きをし、軽く水分を拭いて片栗粉を薄くつける。それを油を引いたフライパンで焼いた後、酒、砂糖、しょうゆ、みりん、おろししょうがを絡めるだけ。盛りつけた後、小口切りのネギでもかければいい。火にかける時間も短く、夏向きな上、おかずにもおつまみにもいい1品だ。
エビの湯葉巻き揚げは、エビに湯葉を巻いて、半分に切った青じそを巻いてから衣をつけて揚げる。色がきれいで、エビはプリップリで、塩であっさり食べるのがお勧めだ。
「お疲れ様。蜂谷もありがとう。乾杯!」
ビールのグラスを掲げ、一気に飲む。
暑くなってきたし、ビールが美味しい。
「はああ。さあ、いただきます!
ああ、エビ美味い!ん、ナスも美味いなこれ。ビールに最高だな」
「ご飯にも合うしな、これ」
「おお、やろう」
元気になったようで良かった。
誠人も、ホッと安心したような顔をして、食べだした。
皆で、他愛もない事や術式についてなど話しながら平らげ、締めのそばを啜ると、満腹になった。
「はあ、美味かったし、楽しかった。御馳走さん」
「お粗末様でした」
「しかし、あれだな。怜怜も直直も、いつの間にか飲めるような年だもんなあ」
しみじみと蜂谷が言い出す。
「今年30だよう」
「あった頃は、高校1年だったもんなあ。いやあ、俺も年を取る筈だよな」
蜂谷は、はははと笑う。
そして、皆が避けていた妹さんの事に触れた。
「あいつも生きていたら、いいおばさんか。想像つかないな」
「蜂谷……」
「まあ、あれだ。心配させたようで悪かったな。でも、俺は大丈夫だ。
誠人も、心配するな。な」
誠人は笑って、大人しく蜂谷に頭をグリグリとされている。
「その人、オレにとっては叔母さんみたいなものだし。その、良かったら、墓参りとか」
「誠人。ありがとうな。
よし。大分行ってないし、今年は行くか。家族だって、お前の甥だって紹介しよう」
蜂谷も誠人も、嬉しそうに笑う。
ああ、もう大丈夫だ。僕と直はそう思って、笑い合った。
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