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体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


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復讐予告(4)因果応報

 顔色は青どころか白く、目を見開いて、ガタガタと震えていた。

「俺がやられるのかよ」

「その可能性が極めて高いですね」

 言ったら、杉沢の父親はカッと激昂した。

「金は払うんだ。息子を守れるんだろうな!?

 息子と同い年だと?信用できるか。もっと腕利きを寄こしてもらえ!」

 杉沢の父親は3代目会社社長だとかで、ワンマンなのが見て取れた。

「社長、霊能師協会へ問い合わせたところ、彼らが間違いなくエース格だと」

「そうだ。バチカンのエクソシストが丁度来ているだろう」

「連絡しましたところ、間違いなく、日本霊能師協会の最終兵器だ。自分達では敵わない、と」

 秘書に即時言い返されて、不機嫌に黙り込む。

「無理に契約続行しなくとも結構ですよ」

 こっちもこいつらの相手なんて面白くないからな。ああ、面倒臭い。

「頼む、助けてくれ!」

 杉沢が頭を下げた。

 病院で会った時の人を見下すような態度とは、別人のようだ。

「クソッ」

 杉沢の父親は、面白くなさそうに悪態をついた。

 安物の来客用茶碗で出された緑茶は、淹れ方が丁寧でそこそこだった。お茶請けの饅頭は、大手パン屋の量産品で、普通。

 お茶を淹れたのは秘書かな。仕事も、できる人だな。

「いいだろう。雇ってやる」

 上から尊大に言って、杉沢の父親はソファにふんぞり返って足を組んだ。

「まず、益田君からのメールは受け取っていますか」

「まだ、ない」

「そうですか。

 少し調べものをして、また夜に来ます。何かありましたら、電話して下さい」

 僕と直は、席を立った。


 報告書を読み終え、重い溜め息をつく。

 益田は3体の人形を抱きかかえて亡くなっていたそうだが、その1体は足が折れて欠けており、もう1体は飛んできた釘が目に刺さっており、もう1体は腕が焼けて炭化していた。そして益田は、体を丸め、数え切れない傷を負い、頭を打って亡くなっていた。脳内出血と背中の大きな傷からの失血、それが死因だ。

 部屋に小麦粉を撒き、充電式サーキュレーターを置き、ドアを開けると静電気が発生する仕掛けを行われた部屋で。

 そして付近の住民の話すドーンという音は午前1時。火の手を見つけた住民が消防に連絡したのは午前1時30分。事故後、杉沢達は逃げ出したのだ。救急車を呼ばずに。

「こいつら、助けたくないほど腹の立つ奴だね」

 直の言い分は尤もだ。心情的には同感だ。

「仕事が無ければな。誰を助けて誰を助けないか。それを選ぶのは、僕達の仕事じゃない」

「まあ、そうだねえ。この前の土地と絵を騙し取った田所さんが、後からちゃんと裁かれたようにねえ」

 気を取り直して、もう一度、考える。

「人形は3体で、発見時のこの人形の状態と、浦川達への報復の形が一致している。もう1人、杉沢の分は、益田の状態と一緒にするつもりかな」

「まあ、杉沢がリーダーだったからかなあ」

「次は、殺す気で来るかも知れないな。

 粉塵爆発を防ぐ手か。粉塵爆発の起こる条件は、粉塵雲、酸素、着火元だろ。着火元は、まあ益田だ。酸素は、低下させたら別の死因で死ぬだけだしな。どうにかできそうなのは、粉塵雲か」

「一切粉物がない所に閉じ込めるとか。

 ああ、復讐が済んだと思わないから、襲撃が終わらないか。前回の手は使えないねえ」

「最後に祓うにしても、初撃を防がないとな」

「爆発と、死因にもかかわった傷と打撲、どっちで狙って来るかな」

「両方?」

「今回、札は分が悪いねえ」

 直は肩を竦めた。

「連携とタイミングで何とかしよう」

「ん、そうだねえ。

 それより、テスト休みで良かったねえ」

「テストは休みたくないからなあ」

 切実にそう思った。


 杉沢家の応接間に通されていた。今度は、高そうな伊万里の茶碗に玉露。お茶請けは練り切りだった。物凄く分かり易い家だな。

 杉沢はビクビクしながらも、精一杯虚勢を張ろうとしていた。

 父親は、僕と直が買収できないと分かるや、秘密が漏れない事を何度も確認した。

「まずは歌からです。そう緊張することはありませんから」

「だ、誰が、緊張を」

 ひっくり返った声で今返事したあんただよ。心の中で返事して、質問を開始していく。

「4人のリーダーだったんですね」

「そうだな」

「益田君に対してのいじめに関しても?」

 詰まっている。

 父親と秘書は端に同席しているが、口を開くことは無い。そう言ってある。

「重要なんですよう。前3件と同程度なのか、殺す気で来るのか。歌を聞かされる前に、立てられる対策は練っておかないと」

「で、どうですか」

「ま、まあ。大抵俺が、何をしようとか、決めてた、かな」

「形見の人形を粉塵爆発実験の現場に置こうと決めたのも?」

「俺、だな」

 秘書が、無表情のまま、鼻の穴を広げた。

 秘書さん、出ていてくれてもいいんだけどな。

「あそこに人形を置いたら、益田君が必ず取りに入るというのはわかっていましたよね」

「ん、そう、かな」

「その上で、小麦粉を撒いて充電式サーキュレーターを回し、ドアを開けたら静電気が発生する仕掛けをしておいたんですよね」

「そっ……それは……」

 これを認めるのは流石にマズイとわかっているのだろう。

 父親がフンと鼻を鳴らした。

「事故で片付いているし、今更どうもならんわ」

「……そ、そうだよ。どのくらいの爆発があって、人がどうなるか、試してみたかったんだよ」

 杉沢は、目をキラキラさせて言った。反省している様子はなさそうだ。

「で、重体の益田君をそのままに、救急車も呼ばずに放置し、脳内出血と外傷からの失血とで死亡させた、と」

「それは、まあ、色々訊かれたら鬱陶しいだろ」

「成程。多分益田君は、全力でかかって来るでしょうね」

 僕はいつも通りの表情でお茶に手を伸ばし、直はイラッとしたように練り切りにかぶり付いた。

「おい?」

「人形3体の状態と、他3人の状態は同じ。あなたに割り振られるのは、おそらく益田君の役です」

「つまり、爆発での怪我と、打撲だねえ」

「まあ、予告の歌を聞いてみないことには断言できませんが」

「ああ、ちょうどいい時間だよう」

 時計が、午前1時を指そうとしていた。







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