さく(3)疑念
夜空はライトなどで明るく、星があまり見えない。それでも、うっすらとオリオン座が見えた。
「恨みを持っているのは前の持ち主だろうに、夢枕に立ったのは作者だったんだよな。やっぱり、作者と前の持ち主は関係があるのか?」
「そう思うよりないよねえ」
「エドモンドが邪魔しなければ、もう少し何か聞けたかも知れなかったのになあ」
「バカだよ、あいつ」
思い出して、溜め息が出る。
「まあ、念の為に、できるだけこっちで調査しないとな。課長にもよく言っておこう」
気が重い。
「協会に寄って行くか」
「その前に、何か食べたい。コンビニ寄っていいかなあ」
僕達はコンビニでおやつを買って、協会に行った。
まずはおやつのプリンを食べて、資料室に行く。
パソコンであの絵「春を待つ」を調べると、作者について出て来た。花岡洋二。先月心筋梗塞により、82歳で亡くなっていた。係累は無し。
絵の女性は梅本香里、とだけある。
前の持ち主は、梅本泰三となっている。
「モデルは前の持ち主の娘かな」
「絵を描いて、モデルにプレゼントしたか。もしくは、描いてくれと依頼されて描いたか」
「とにかく、個人的な知り合いだったわけだねえ」
梅本氏に対する詐欺紛いのやり口に怒っているのか、別に怒る理由があるのか。
「前の持ち主か香里さんについて、誰か知らないのかな」
パソコンの電源を落として、外に出る。
「はあ。どうも気に入らないな」
「田所さん?神父?」
「どっちもだな。田所さんは嫌なタイプだし、エドモンドは自分が一番だし、ロイは何か隠してるし」
「胡散臭いよねえ」
「試験官だからあんなもんなのか?」
「目に余るのは、注意するんじゃないのかなあ。
それと、何て言うのかな。ロイって、本当にエドモンドの試験官なのかなあ」
「?」
「半分以上、怜に目を向けてるんだよねえ」
「そうか?まあ、日本のエクソシストに興味云々とか言ってたけど」
「何かあるよ、あれは」
「はああ。面倒臭いなあ」
月は見えない。
翌日は、課長に電話をかけて調査の依頼をしてから、田所さんの会社へ行く。
朝っぱらから「サラリーローン」の看板を上げるビルへ入って行く高校生に、見かけた人が怪訝な顔をしていた。
「おはようございます」
入って行くと、エドモンドとロイがカフェラテと洒落込んでいた。
「おはよう。
君達が焦るのも、功を欲しがるのもわかるけど、昨日みたいなのは感心しないな」
何を言ってるんだろうな。
「とにかく、これはこちらがオーナーから受けた仕事だ。オーナーの関係者から話が行った君達は、本来ならばもうキャンセルなんだから、一切口出しも手出しもしないように。もししたら、バチカンから正式に、霊能師協会へ抗議を行うから、そのつもりで」
「もうそれならいっそ、キャンセルして欲しいんですけどね。そちらから言ってもらえませんかね」
「おおう。勉強の機会をみすみす逃すとは。
……日本の野蛮なサルは、全く」
イタリア語だ。
「おい、エドモンド」
流石にロイが止めにかかる。
「済まない。上手く行かなくてイライラしているようだ。代わりに私から謝罪する」
ロイが頭を下げ、エドモンドがオロオロとした。
「頭を上げて下さい。僕達に、手出し口出しするな、自分達で責任を持つというなら、本当に帰ります。お互いストレスにしかならないでしょう。舞さんはこちらで説得します」
「いや、待って欲しい。
今日1日、エドモンドに時間をもらえないだろうか。それでだめだった場合は、君達に頼む」
「1日経ったら、事態はより逼迫しますが」
「私が君達の指揮下に入ってでも、全力でサポートする。
でも、大丈夫なんだろう?日本霊能師協会の最終兵器ともなれば」
ニヤリとしてきた。
調べは済んでいると言いたいらしい。
「言い過ぎですよ。ただの、野蛮なサルですから」
全部、ラテン語で返してやった。
あ、エドモンドがわかってない。バチカンはラテン語が必要なんじゃないのか?
直には後で、今のやり取りを教えておこう。
「そういうわけだ。よろしく頼むよ」
「わかりました」
一応、対応は決まった。
そしてエドモンドは今日も一段と激しく十字架と聖水で絵を攻めまくり、夜中、梅の花は八分咲きになった。




