表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/1046

おままごと(2)お父さん調達

 プラスチックのくしで、パーマの当たった髪をすく。

「できましたよ、お母さん」

 女の子がニッコリとする。

「お母さん、肩を叩きましょうか」

 男の子が笑いかける。

 が、お母さんと呼ばれた女は、人形のように座ったきり、何も反応が無い。

「詰まんないわ」

「寂しいな」

「まだ足りないからよ」

「そうだね。お父さんがいいかな」

「お父さんがいいわ」

「じゃあ、呼ぼう」

 双子は天使のような笑顔を見合わせた。


 冷たい風が吹きすさぶ外に一歩出て、営業部員コンビは、体を震わせた。

「あああ、寒い。先輩、昼飯どこに行きます?暖まるものがいいです」

「そばか何かだな」

「懐も寒いし、安い方に行きますか」

「年明けだしな。お年玉は、バカにならん」

 そこまで笑いながら言って、先輩はふと、キョロキョロと辺りを見渡した。

「どうしたんですか?」

「いや、誰かに呼ばれたような気がして……。気のせいか」

「この前も言ってましたね。ストーカーとかですか、愛人の」

「バカ言え。ストーカーは、呼ばんだろう。それに俺には、可愛い妻と娘がいる。定員オーバーだよ」

 2人は笑って歩き出し、呼び声の事は、忘れたのだった。


 写真を示し、徳川さんは続けた。

「これが今回の被害者。サラリーマンで、妻と生まれたばかりの子供が1人。子煩悩で、愛人も問題も無し。先のOLとの関連も見つかっていない」

 徳川一行。陰陽課設立の張本人で、陰陽課の責任者である。飄々としてちょっと変わっているが、エリートキャリアである事は間違いが無いし、これで、やり手のようだ。時々ウチに遊びにも来る、兄の上司だ。

「コンビを組んでいる後輩が、OLの時と同じように、時々、誰かに呼ばれたと言って辺りを見廻していたと証言しているよ」

 鼻声で言って、はあ、と息をつく。かぜらしい。

「同じヤツでしょうね。

 それはともかく、大丈夫なんですか」

「熱はないよ。鼻が出るだけだしね」

「生姜湯とか飲みますか?」

「飲む!怜君、作ってくれない?」

「ちょっと待って下さいね」

 陰陽課の一角にある冷蔵庫を覗くと、あった。チューブのおろししょうが。棚には片栗粉もある。

 徳川さんのカップにおろししょうがと片栗粉と砂糖を入れ、水少々でよくかき混ぜて溶かす。これに熱湯を注ぐだけだ。

「はい、ショウガ葛湯です。熱いですからね」

「え、こうやって作るの?」

「チューブでなく生をおろした方が香りとかがいいですけど、これでできますよ」

「覚えとこーっと」

 徳川さんは上機嫌で、ショウガ葛湯を啜った。

 向こうの方で、刑事がメモっている。

「OLにサラリーマンか。営業職なら、どこかですれ違うぐらいはしたのかもなあ」

 直が考えながら言う。

 町田 直、幼稚園からの友人だ。要領が良くて人懐っこく、驚異の人脈を持っている。夏以降、直も、霊が見え、会話ができる体質になったので本当に心強い。だがその前から、僕の事情にも精通し、いつも無条件で助けてくれた、大切な相棒だ。霊能師としては、祓えないが、新進気鋭の札使いであり、インコ使いでもある。

 正直、僕にも直にも、営業マンの行動範囲とかはよくわからない。まあ、会社にも個人にもよるのだろうし。

「地道に、共通点を探すしか無いだろうな」

 ウンザリとしそうな作業だな。

 と、急に、あのOLの家で感じた残り香のようなものがフワッと漂った。

「え、何で?」

 キョロキョロする僕に、全員がギョッとした目を向けた。

「怜、どうした?」

 兄が厳しい顔で訊いて来る。

「OLの家にあったのと同じ気配が、今……」

「同じものがあるってこと?」

 直もキョロキョロと、探し出す。

「それは手掛かりになるな。

 でも、さっきまで無くて、今はあるものか?」

「なんだろうね、それ」

 兄と徳川さんも辺りを見廻す。

「徳川さんの方……あ、それから、する」

 徳川さんがポケットから出したポケットティッシュを指さすと、皆がそれに釘付けになった。

「徳川課長、それ、どうしましたか」

 兄が追及する。

「多分、駅でもらったんじゃないかな」

「何駅ですか」

「最寄りの駅の入り口に、ご自由にどうぞって置いてあったんだよ」

「指紋が残っているかもしれません」

 兄は自分のポケットティッシュを差し出して、徳川さんのポケットティッシュを透明なビニール袋に入れた。

 と、徳川さんが、

「ん?」

と振り返った。

「あれ……あ」

「来たんですね」

「来たよ、御崎君」

 徳川さんは嫌そうに、

「お兄さんってさ。

 よりによって、鼻が辛い時に……」

と言って、鼻をすすりあげた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ