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体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


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氷姫(5)救いの手

 皆、スッキリした顔をしていた。目の下の隈も無い。ギスギスした雰囲気も、鳴りを潜めている。

 あとは空腹だが、これは仕方がない。

「やっぱり睡眠不足はだめだな」

「これで、また一晩くらいの徹夜なら平気だな」

 主に大学生の方が、調子に乗っていた。

「相変わらず、天気が悪いな」

「でも、そう何日も吹雪が続かないよ。ジッとしていれば、助けは来るよ」

 保科、守尾が言って、のんびりと構える。

 と、これまでになく大きな気配が接近して来た。

 立ち上がって外を覗くと、白い影が、もっと大きい影にはじき飛ばされて、消えるところだった。

 あれは、良くない。

「怜」

「直は、とにかく防御で」

「了解」

 皆も流石に何かを察したようだ。戸口に対峙するように立つ僕、その後ろの直、その背後に固まって、戸口を見つめる。

 戸が、ガタガタと開いた。顔を覗かせたのは、十代終わりの女の子だった。

「やっぱりここに。急な吹雪で、もしかしてここに避難してるのかと思いました。下の方では捜索隊もこの天気で出せずに心配していましたよ。

 うちで、休んで下さい。温かいし、食事もされてないでしょう?」

 ホッとしたように、赤井さんと青柳さんが笑った。

「良かった」

「助かったなあ」

「待って下さい。

 あなたが氷姫なのか?」

 一瞬の静寂の後、その女子は笑った。

「まあ。酷いわ」

「そうだぞ、厚意はありがたく受け取れよ、高校生」

 大学生達の警戒心の無さに、溜め息が出そうだ。

「ここまでこの吹雪の中、1人で来たのですか。その軽装で。

 もう一度訊きます。あなたは、氷姫ですか。氷漬けの人間が大好きな」

 彼女から笑顔が消えた。

「いいわよ、そっちの男達だけで」

「そういうわけにもいかない。わかっていて取り殺させるのは、ね」

「何を言っているのかしら」

 流石に彼らも、何かおかしいと思い出したのか、口を噤んで様子を見るようだ。

「来なさいっていってるでしょう。ほれ。来ぬか」

 怒りのせいか、セーターとロングスカートとショートコートに包まれた体がガタガタと震え、俯いた顔を覆うように垂れたセミロングの髪がどんどん伸び、いつのまにか、今風の服装から、ドラマなどで見る戦国時代の衣装に変わっていた。

「いう事を聞かぬか」

「ヒイィッ!」

 大学生組は、腰を抜かしたらしい。

「気の毒だとは思うが、それで、関係の無い人を凍死に導いて殺すのは違いますよね。そろそろ、逝きませんか」

 氷姫は復讐心にたぎった眼でこちらを睨み据え、さっきまでの美少女然とした雰囲気がうそのように、吠えた。

「許さない、許さない!私を裏切った者ども、宿も食べ物も与えずに放り出した者ども、楽しく暮らす者ども!私からすべてを取り上げた者ども!許さないいい!」

 氷姫から冷気が吹き付け、壁、床が凍り出す。

「穏便に行きたかったが……」

 銃刀法違反は、ちょっと避けたい。

 浄力でいくか。

 浄力を浴びせる。と、姿が朧気になるほど出ていた瘴気が吹き飛んだ。次ので輪郭が揺らぎ、やがて、消えて行った。

 向こうに、白い影が復活している。

「終わったのか?もういいのか?」

 赤井さん達が恐る恐る声を出す。

「氷姫は祓いました。後は、あれですね。氷姫から僕達を守ろうとしてくれていたみたいだし、恩を返しておきたい」

「ボクも行くよ」

 僕と直は、白い影について歩き出した。

 距離も時間もハッキリしないが、ようやく白い影が止まったのは、自然にできた岩の窪みの前だった。積雪が崩れた奥に、まだ若い男女2人の遺体があった。

「氷姫に誘い込まれて、亡くなったんですか」

 白い影は、いつの間にか、その女性の方の姿になっており、ゆっくりと頷いた。

 男性の方は、ボーッとした霊体が遺体の傍に佇んでいる。

「ああ、彼の方は、縛られちゃってたんだねえ」

「恐るべし氷姫、だな」

 それが、氷姫が祓われた事で、縛りが解けたらしい。

 やがて正気に返るように彼女の存在に気付くと、2人で手を取り、光の粒になって消えた。

「逝ったねえ」

「ああ。この遺体の事も、言わないとな。面倒臭い」

 いつの間にか風が弱まり、雪が小降りになって来ていた。

「お堂に帰ろうか。待ってるよ、きっと」

「色々訊かれるのかなあ。面倒臭い」



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