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体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


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7人みさき(4)ショータイム

 我が校のグラウンドは広い。だが文化祭ではここを明日の後夜祭でフォークダンスを踊るだけにしか使わないので、今はガランとしている。

 校舎と体育館で文化祭は進行しており、今体育館では午前のプログラムが終わって、中にいた客が全員、外に出て来るところだった。

 不意に、空が布でもかけられたように真っ暗になり、小さな光がキラキラと光って、一点に落ちて行く。

「あれ、グラウンドの方でしょ。行ってみよう!」

 誰かが言って、同意した何人かが走り出し、後は、釣られて各々が走り出す。

 校舎とグラウンドの間には霧のようなものが漂い、気付いた何人かが声を上げて、皆が窓に貼り付いた。

「特別企画のお知らせです。只今よりグラウンドにて、大スペクタルショーを開催します。その後の幸せのフォークダンスは、皆さま参加できます。どうか皆さま、グラウンドにてご参加下さい」

 放送部が放送し、「行く!」と走り出す女子に釣られて殆どの者がグラウンドに向かう。

 そして残った者も、聞こえて来た音楽とチラチラする光に、グラウンドへと出て行った。


 グラウンドの中央には俄かステージがいつの間にか用意され、その上に、演劇部員がいて、ダンスとパントマイムで寸劇をしていた。そして光が空を舞い、オーロラが輝き、インコが飛ぶ。

 皆、空を見上げ、見とれていた。

 その中で、やたらと厳しい目で方々を見渡している人間がいる。緊急招集に応じられた霊能師と、僕達だ。

 その時、インカムに兄の声が入った。

「校舎右、目標発見」

 その一言で、一斉に僕達はそちらへ向かい、そこを受け持っていた霊能師は、7人みさきの周囲を結界で何重にも包囲する。そして、封印を一番得意とする術者が、7人みさきを壺へ追いやる。

 この時点で、取り合えず仮封印は完了だ。

 が、これではまた、同じことを繰り返す恐れがあるし、この封印では弱い。

 それらしい衣装の京香さんがその壺をステージに運び、真ん中に安置すると、いつの間にか舞台を降りていた演劇部員に代わって、SGKセンターの先輩が、

「こうして、二柱の神は結ばれ、ここに、新しい神が誕生しました。新しい神に祝福を」

と言い、歌い出す。それに合わせてほかの部員が歌い、演劇部員が散りじりになって、手当たり次第にフォークダンスに引き込んで輪を作り上げる。古来、まつりというものは、神前で人々が歌い、踊ることだ。その行為そのものに、呪術的意味合いがあるのである。

 あとは、ダンスが盛り上がっていくのに従いながら神へと祀り上げをすればいい。これだけの人数の祀りだ。準備不足も、術者の不足もチャラになる。そして僕はぶっつけになるが、神殺しを反転させた力を、壺にぶつける。

 やがて、壺のまとう空気が、神気を帯びた。

 それを確認し、津山先生がサインを出すと、光のショーは終息し、空を覆っていた暗幕と霧が晴れ、皆が夢から覚めた。

 

 関わった術者と徳川さん、兄は、地学教官室に集まっていた。

 ああ、疲れた。でも、上手くいって良かった。

 何とかして全員を一ヶ所に集め、7人みさきを発見し易い状態を作る。そして、一般人の目をどこかに逸らしておきながら、ターゲティングされる前に壺に仮でもいいから封印する。そしてそれを、まつり、という行為を利用して祀り上げる。それが計画の骨子だ。

 これだけの結界を張って維持し、光やオーロラをそれらしく演出しして目を引き付ける術者。グラウンドへ行くように、煽動に乗りやすくなるように術をかけて回る術者。等間隔に散って7人みさきが現れたら結界で抑え込むのに待機する術者。よく、集まってくれたものだと思う。

 そして演劇部員には坂口さんにわけも言わずに頼み込んで協力してもらい、放送部員と合唱部員は直が知り合いを通してわけも言わずにひきうけてもらった。あちこちで客や在校生を煽動したのは晴ちゃん達のつながりらしく、何も聞かずにやってくれた。

 この世には善意がまだまだたくさんあるのだろう。

「皆さん、お疲れ様です。これで今回の事案は、無事、解決することができました。ありがとうございました」

 徳川さんが短く挨拶し、津山先生が、

「まずは、最初の犠牲者以外は犠牲者が増えずに事が済んだ事、こうしてようけが招集に応じてくれた事、ほんまに感謝します。おおきに。

 今後協会が設立されたら、こういう事もまたあるやも知れん。その時はまた、あんじょう頼みます。

 今日はほんまに、ご苦労さんでした」

と続き、空気が弛緩する。

「直、お疲れ。アオもよく飛んで、注意を引いてくれてたな」

 直は、札の扱いがかなり上手い。要領の良さが、札に命令を簡潔に刻むのに通じるのかもしれない。

「へへへっ」

「チチッ」

 こいつにも、今度何かお菓子でもやろう。

「まつりかあ。文化祭である事を利用するとはな。こんな人がいっぱいで最悪やと思ったんやけど、流石子供は、思考が柔軟いう事やなあ」

「ショーにしたおかげで、混乱もなかったし、ほぼ全員がグラウンドに出て来ましたですしね」

「しかし、皆ようやってくれたわ」

「でも、ここに今日、徳川さんや津山先生が揃ってた事が1番ついてた事かも」

「ああ、意思決定が早くすむもんねえ」

「こんな時なのになんでビールないのよ。乾杯でしょ普通、ねえ」

「京香さん、ここ、高校です」

 喋っている間にも、目立たないように少しずつ、術者が帰って行く。

「晴ちゃん達って、なんのつながりだったんだ?」

「腐女子つながりだよ」

「?」

「校内の女子にも一定数いたんだなあ。それ自体がいたのはまあわかってたけど、まさか、ウチが……」

 直がブツブツ言って、アオが慰めるように頭をこすりつけている。よくわからないが、疲れてるんだな。今日はもうゆっくり……あれ?ゆっくり……あ、だめだ。

「直、思い出した。クラスの方、交代の時間だ。

 あああ、なんで思い出したんだろうなあ、面倒臭い」

 言えば、直が笑って、

「出た、面倒臭い。これでやっと、終わったって実感するよ」

と言い、最後に残っていた僕達も、地学教官室を出た。


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