表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
体質が変わったので 改め 御崎兄弟のおもひで献立  作者: JUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/1046

お取替え(4)交換返品いたしかねます


 腕が落ちた。痛んできてたから急いでたのに、衝撃で一気に取れてしまった。

 この頃、交換までの時間が短くなった気がする。気のせいかな。

 ああ、取り合えずこの前の腕を付けて、それから急いで取りに行こう。

 強くて、きれいな、新しい腕を。


 そう探し回るでもなく、そいつは見つかった。先の方を、走っていたのだ。

「なあ、あれ、生きてるの」

 僕も直も、マラソンは嫌いだ。それをなんでこんな真夏に、自主的にしているんだろうなあ。

「とりあえず、話はできるし、自立行動もできるみたいだけどな」

「びっくり人間もびっくりな特技だけどね」

「目の前で腕が落ちたら、子供なら泣き出すぞ」

 そいつはいつかの洋風の門の家に入って行く。とりあえず、人を襲わずに帰宅したらしい。

 門の前から、中を覗き込む。乗用車2台分くらいの庭は、自然派とでもいうのか、植えられたと思しき花も雑草も高く深く生い茂っており、奥の家屋までのコンクリートの細い通路が、伸びた草で余計に細くなっている。

「どうする、怜」

「このまま見張っておけばいいだろう。入り込むのは、危ないし、不法侵入だし、面倒臭い」

「まあ、そうだねえ。万全の状態のあれとやりあうなんて、ゾッとするよ」

 早く警察が来ないかと祈りながら待つ。

 だが、そうも言ってられなくなった。

 家の中から何かの倒れる凄い音がしたと思ったら、しばらくして、窓に炎が見えたのだ。

「証拠隠滅?」

「単に火事かも」

 どちらにせよ、見ているだけでは済まなくなった。

「ああ、面倒臭い」

 僕達は、突入を決めた。

 玄関のドアは鍵が閉まっておらず、開いてみると、埃っぽくて、壁などには蜘蛛の巣が張ってあった。そして、入ったところにある電話機は、コードが引き抜かれている。

 真っすぐ奥へ延びる廊下には埃がたまり、どこかから、強烈な腐敗臭がした。

 炎は一番奥の部屋辺りに見えたので、奥へと進む。

 途中に、長いものが転がっていたので、ちょっと見たら、足だった。

「足!」

 避けるように、端を通って行く。

 奥のリビングだったと思しき部屋に飛び込むと、転がったオイルディフューザーから零れて広がったオイルが積まれた新聞に染み込み、そこにアロマキャンドルが倒れて、燃えていた。

 炎自体はそう大きくなく、その辺に放置していたタオルで叩いたら消えたので、そばの庭に出入りできる大きな窓を開け、新聞を庭に出しておく。

 そのあたりで多少は空気が入れ替わったのか、息ができる感じになった。それでも、臭いがとても酷い。

「ここ、人が住んでるのか?」

 直は半泣きで、鼻をつまみながら言った。

「そうは見えないけどなあ」

 鼻をしっかりつまんでいないと、むせるし、吐きそうだ。

 と、ずずっと、何かを引きずる音がした。

 見廻して探してみると、続きのダイニングの方から、そいつが這って来ていた。足は両方なく、腕も片腕しかない。

「足と腕をちょうだい。今度は、丈夫なのがいいわ」

 ずずっ、ずずっ。

 真っ白に濁った眼がこちらを見、吊り上がった口元からは、粘液が垂れている。

 僕達は、近寄られた分、後ずさった。

「きれいなだけじゃ、だめね」

 ずずっ、ずずっ、ずっ。残った腕が、取れた。

「だめねえ。ねえ、とりかえてよ」

「できません」

「どうして。返品、交換。無理そうな理由でも、言ってくるじゃないの」

「……」

「私だって、いいじゃない」

 顎で、進んで来ようとしている。

「最初の交換はいつですか」

「さあ。2年くらいかしらねえ。最初は、もっと長くもったから」

 走って逃げたら、突然立ち上がって追いかけて来そうな不気味さである。

「交換した古いパーツは、どうしました」

「お風呂場の、よくそうお、あああ」

 口が上手く動かなくなってきたのか、急激に、言葉が不明瞭になる。

 動こうとしているのに動けず、痙攣のような動きになって来た。

 そうしていると、表に車の停まる音がして、すぐに、兄を先頭に、徳川警視と吉井さんが庭に走り込んで来た。

「大丈夫か、ウッ」

 臭いとこの光景に、たじろぐ。

「あーあーあーあーあー……っ」

 急速にそいつの気が変質して、穢れを撒き散らす存在になっていく。

「ああ、祓うわ」

 浄力――覚えた――を、放つ。

 そいつは灰のようになり、ごそりと崩れた。


 その後の調べで、浴室の浴槽から色々な内臓や眼球、手、足などが腐乱した状態で見付かり、今、DNA鑑定で忙しいらしい。

 あの家に住んでいたのは通販会社のコールセンターの女性で、クレーム、返品、交換の電話でノイローゼになったせいで退職したのがおよそ3年前。時々姿が見られたものの、近所付き合いもなく、気付かれなかったらしい。パーツを交換しつつ死体を運用していた術は、亡くなった彼女の祖母が呪術者で、禁忌の研究に手を染めていたらしく、その研究成果を使っていたものだった。

「気の毒な人ではあったんだな。加害者になるまでは」

「そうだな。もう少し、上司に相談するとか、心療内科を受診するとかすればよかったのにね」

 兄の言葉にしみじみとなっていると、

「未だに心療内科の受診をためらう風潮もなくはないですからね。ばからしい」

と、徳川警視が嘆息した。

 今日は直も呼んで3人で夕食をとる事になっていたのだが、なぜか徳川警視も、我が家のダイニングテーブルについていた。まあ、いいけど。

「クレーム対応とか、ストレス溜まりそうだなあ」

 直が言って、ナスをパクリと食べた。

 今日は、サバの押し寿司、冬瓜、ナス、オクラなどの冷製煮物、肉詰め南瓜の茶巾あんかけ、冷やし蕎麦だ。サバの押し寿司は、酢飯に刻んだ甘酢しょうがと白ごまを混ぜ、それを二段にして間に青じそを挟んだサッパリとした夏用で、上の締めサバは自家製だ。

「ああ、美味しいですねえ」

「ありがとうございます」

「弟達の事を伏せて下さって、ありがとうございました」

「気にしないで下さい。どうって事はありませんよ」

 徳川警視はニコニコとして、押し寿司を口に入れた。

「夏らしい、残暑にも食がすすむ一品ですねえ」

「そういえば、もう夏休みも終わりだな。いろいろあって、そんな気がしないが」

 兄がふと気付いたように言った。そう言えばそうだった。

「2学期になったら、体育祭に文化祭でしょう。あの学校は文化祭が派手ですよね。出し物はもう決まっているのですか」

「クラスでは展示をやります。よく飛ぶ紙飛行機。当日、なるべく何もしなくていいように」

 直が言ったら、兄も徳川警視もこっちを見た。

「いや、そういう声が多かったんだよ。別に僕が言ったわけじゃないよ」

「何も言ってないぞ」

「クラブは?心霊研究部だったよね」

「それで困ってて……。活動報告をしなくちゃいけなくて、文化部は大抵、文化祭で何かやるんです。でも、生憎報告できるようなものがあんまりないんです」

「部長が、このままだと、滝行か降霊実験か心霊スポット巡りを断行しそうなんです」

「面倒臭いのは御免だからな、絶対!」

 兄と徳川警視と直が、噴き出した。

 面倒臭いものは面倒臭い!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ